表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強の殺し屋だった私が聖女に転生したので世界平和のために悪を粛清することにしました  作者: 結月 香
第十一章 聖王国の聖女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

131/208

捌:遺跡に迫る危機

 遺跡の周囲にはまだ異変は無かった。

 私が張った結界もまだ機能している。


「オロチ、胴体の到着まであとどのくらい?」

「……この速度ならあと数分といったところかと」


 オロチの探知魔術はかなりの精度だ。

 間違いなく数分後にあの時に飛び出したアレがここへ到着するだろう。


 太古の魔物、その胴体だけで、一体どれほどの強さだろうか。

 わかっているのは、千年前、五人の国王によって封印するのがやっとだった怪物であるということ。


 千年前にはある程度の魔術文化があった。それこそ基礎はほとんど変わっていないはずだ。

 国王ともなればそれなりに腕の立つ魔術師だったはずなのに、それでも倒すことが叶わなかったという。

 もしも、切り分けて封印されていても、何らかの手段によって頭から指令を受けることができ、胴体だけでも魔術を使うことができるとしたら。


 想像するだけでもぞっとする。


 飛翔魔術の特徴として、高度と速度は術者の魔力量によって変動する。

 サーブ山脈を飛び越える程の高度と、聖王国とパオ遺跡を数十分で移動する速度。

 胴体だけで、一体どれだけの魔力を有しているのか。


「……来ます」


 オロチの言葉に、私とクロヴィスが身構える。


 直後、森の木々の間を縫うように、何かが高速で飛来するのが見えた。


防御魔術ディフェンシオ!」


 直撃に備えて、高出力で防御魔術を展開する。

 しかし、それはぶつかる直前、ピタリと空中に静止した。


「っ!」

 

 あの速度で飛来して、こんな急停止ができるのか。


 驚く私の前で、黒い塊は顔も目もないのにまるで睨むように私の眼前に浮かび、それからふいとあらぬ方向へ飛んで行ってしまった。


「まっ! 待ちなさいっ!」


 ほんの一瞬で、捕縛魔術も届かないほどの距離が開き、完全に逃がしてしまう。


「……逃げた……?」


 戦闘になるとばかり思っていたため、完全に意表を突かれてしまった。


「……何だったんだ……? 諦めたのか……?」


 剣を構えていたクロヴィスも驚いている。

 黒い塊が飛び去った方を睨んで、オロチが忌々し気に舌打ちした。


「気配を絶たれました……現在地がわかりません」

「え? オロチの感知魔術でも?」

「ええ、申し訳ございません……たとえ気配を絶っても、一定範囲内であれば感知できるのですが、それを越えてしまうと難しく……少なくとも、この森の中にはいないことだけは確かなのですが……」


 しゅん、と肩を落とすオロチ。


「それだけわかるなら充分よ。とりあえず、少しだけ待機して、戻ってくる気配がなければ結界を強化して聖王国に戻りましょう」

「無人にしておくのも心配だ。すぐに見張りを手配しよう」


 言うや、クロヴィスは通信の魔具で城にいる国立騎士団の団長ガレスに連絡を取り、早急に対魔物との戦闘経験の豊富な者達を集めパオ遺跡に招集するよう指示を出した。

 

「よし。俺は騎士団が到着するまで待機するから、アリスとオロチで先に聖王国に戻ってくれ」

「わかったわ。もしもビュートが戻って来るようなことがあったらすぐに報せて」

「ああ」


 私は遺跡を振り返り、以前自分が張った結界にそっと手を翳した。


結界魔術オービチェ!」


 最大出力で外からの攻撃を防ぐよう強化しておく。


「これでよし。オロチ、聖王国に戻りましょう」

「承知いたしました。転移魔術メタスタージス!」


 応じたオロチが唱えた瞬間、私は再び聖王国に戻った。


「……結界は張れているみたいね」


 転移した先は、聖王国の王城の前だった。

 天を仰ぐと、うっすらと結界の幕が空を覆い尽くしているのが視える。


 ただ、入国した時より薄い。神官四人が協力したというのに元の結界と同等にならないとは、あの結界の核として使われていた魔晶の魔力はかなり強力だったようだ。


「アリス! 随分早かったんだね!」 


 ガリューがとことこ駆けて来て私の肩に飛び乗る。


「ガリュー! こっちは逃げられちゃったのよ。そっちは大丈夫だった?」

「うん。ただ、核となる魔晶なしで国中を囲う結界を張っているから、神官四人の魔力はそう長くはもたないと思う」


 深刻そうに呟く子狐に、私はオロチを振り返った。


「鉱山の町に魔晶はないかしら?」


 私の問いに、オロチは眉尻を下げる。


「そもそも、魔晶は千の魔鉱石の中に一つあるかどうかの稀少なもの……ましてや、長期間結界の核となるような高密度な魔力をもった魔晶となると、あの鉱山でも数百年に一度採掘されるかどうかの代物です。私が知る限り、あの鉱山の町に保管されているものの中にはありません」

「じゃあ、魔晶に代わる何かいい方法はないかしら……」


 うーんと唸るが、魔晶に代わるものなどそうありはしない。

 魔力を溜める魔具ならば存在するが、結局それも魔晶を上回ることはないのだ。


 と、ガリューがはっと顔を上げた。


「……あ! アリス! トリブスの国王に聞いてみたらどうだろう?」

「トリブス? カリムのこと?」

「そうそう。トリブスにも、確か魔鉱石が採れる鉱山があったはずだ」


 魔鉱石が採れる鉱山は国にとって重要であるため、その存在を秘匿することも多い。

 特にトリブスは友好国ではなかったこともあり、その地理や文化の情報が少ない。


 一方で魔物は、国同士の関係性に関わらず好き勝手移動できるため、オロチもガリューも大陸のあらゆる国に渡航経験がある。

 本来魔物は自分の縄張りを持ち、そこから離れることはほとんどないのだが、オロチ曰く、人型をとれるほどの力を得た魔物は縄張りに固執する必要が無くなるため、外の世界へ飛び出して行くことが多いのだとか。


「オロチ、今すぐトリブスへ行って、カリムに魔晶があれば譲ってもらえないか、直接交渉してきてもらえる? もしもあれば言い値で買うと伝えて」

「承知いたしました」


 言うが早いか、オロチはその場から掻き消えた。


「魔晶が手に入るまで、私も結界の手伝いをしないとね。皆はどこ?」

「こっちだよ。地下室が壊滅状態だったから、城の中庭に暫定的な魔法陣を描いて発動させることになったんだ」


 ガリューの案内で中庭に着くと、魔法陣の外枠に神官四人、中心にオズワルドとカリーナが立って魔法陣に魔力を注いでいた。


「……なるほど。これは日暮れまでもちそうにないわね」


 六人の顔色を見て呟く。既に魔力量の一番少ないジルベルトは息が上がり始めているし、クラリスも辛そうだ。


 私は魔法陣の中心に向けて手を翳した。

 ほんの少し手伝うつもりで魔力を注ぐと、途端に魔法陣が強く光り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ