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最強の殺し屋だった私が聖女に転生したので世界平和のために悪を粛清することにしました  作者: 結月 香
第十一章 聖王国の聖女

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伍:結界の継承

 プレアデス聖王国の現国王は、とても温厚で柔和な雰囲気の御仁だ。

 そんな彼が今まで見せていた態度とは全く異なる、敵意を孕むような低い声に、アリーヤがびくりとして固まった。


「それ以上、我が国の恥を上塗りすることは、国王である私が許さない。口を慎みなさい」


 凛とした国王の言葉に、アリーヤはぐっと唇を噛み締めた。


 私は改めて、カリーナに向き直る。


「カリーナさん、貴方が聖女に選ばれたけれど、その役目を全うする覚悟はある?」

「えっ! あ、あの……私、は……」


 おどおどとしながら、ちらりと姉を一瞥し、ぎくりとする。


「カリーナさん」

「は、はい」

「一度、本気の結界を見せていただけますか?」


 私の問いかけに、彼女は一度迷うように視線を泳がせたが、意を決した様子で右手を掲げた。


結界魔術オービチェ!」


 刹那、彼女の周りを結界が包み込む。

 精錬で精密、一目でかなりの堅牢さが見て取れる。先程見た結界との差は歴然だった。


「っ!」


 アリーヤも、どう見ても己の結界よりも優れたカリーナのそれに、絶句している。


「これだけの結界が張れるなら、誰も文句は言わないでしょうね」


 私は小さく笑って、改めてカリーナを見た。


「……貴方が公爵家でどのような扱いを受けていたのか、私は知りません。でももしも酷い扱いを受けていたのなら、尚更聖女になった方がいいわ。聖女になれば、誰も貴方を害することはできなくなるのですから」

「……っ」

「貴方が覚悟を決めるなら、私が貴方の後ろ盾になることを約束しましょう」


 私のその言葉を聞いて、カリーナは一度瞑目し、それから再度私を見た。

 その紫の瞳に、もう迷いはない。


「はい。カリーナ・アルシオーネ、謹んで聖女の任をお受けいたします」


 その隣で、アリーヤがぎろりと妹を睨みつける。


 が、彼女の視線を、王太子がさっと遮った。


「オズワルド様……!」


 アリーヤが悲痛な声を上げるが、オズワルドは振り返りもせず、カリーナの前で片膝を衝いた。


「カリーナ・アルシオーネ嬢、聖女となるということは、俺と結婚し王妃になることを意味しているが……それは大丈夫かい?」

「……は、はい……!」


 カリーナが頷いたのを受け、オズワルドはにこっと笑って彼女の横に並んだ。


 それを見た国王は満足げに頷き、側近に何か指示してアリーヤを玉座の前から連れ出させた。


「……よろしい。では、早速聖女としての初仕事『結界の継承』を行う。よろしければ、アリス殿もお立合いください」

「よろしいのですか? 聖王国の結界は、国家機密といっても良いのでは……?」

「帝国の聖女様に隠すものは何もありませんよ……そもそも、我が国の結界の祖は、帝国の初代聖女イリス・サニー様ですから」

「えっ! そうなんですか?」

「おや、ご存知ありませんでしたか? かつてイリス様は、魔王軍の残党狩りと浄化のための旅の最中に、友好国である我が国にも立ち寄り、結界魔術を施してくださったのです。それ以来、五百年間、結界魔術を継承して維持してきたのです」


 知らなかった。

 どういう訳か、帝国内では歴代の聖女の情報について、正式な記録として残っているものが極端に少ないのだ。


「……国王陛下、結界の継承の後で構いませんので、聖王国に保存されている歴史書を少し見せていただけないでしょうか?」

「ええ、構いませんよ。儀式が終了したら城の図書室にご案内しましょう」


 約束を取り付けられたところで、私とカリーナは国王陛下と王太子の案内で城の地下室へ移動し、クラリスとトリスタンは、国王陛下の気遣いで先に図書室へ案内してもらえることになった。


「……あの、姉が失礼な態度を取って、すみませんでした……」


 廊下を歩きながら、カリーナが小さな声で私にそう言った。


「貴方が謝ることではないでしょう?」

「しかし……私も公爵家の人間として、謝罪を……」

「アリーヤさんが自ら謝罪するのなら受け入れますが、貴方から謝罪を受ける謂れはありません」


 私が答えたところで、国王陛下がとある扉の前で立ち止まり、懐から取り出した鍵を鍵穴に差し込んだ。

 がちゃりと開錠の音がして、扉が開く。


 その向こうには、美しい城の内装とは異なる、無骨な石畳の階段が下へ続いていた。


「この先は、五百年前に作られた地下洞窟を補強した地下室です。この城は二百年前に建てられたので、時代が異なるのです」


 私の疑問に答えるように、国王が説明しながら先導して扉の向こうへ進んでいく。


「扉は閉めてください。継承の儀に邪魔が入ってはいけませんので」

「わかりました」


 言葉通り、私は自分が通ったところで扉を閉めた。


「アリス様、御手を。この先はかなり暗いので」


 国王が魔術で右手に明かりを灯し、左手を私に差し出した。

 それを取って階段を降りていく。カリーナは当然、婚約者となったオズワルドが手を引いている。


 階段を降りると、広い部屋に出た。


 そこも石畳を敷いた地面と剥き出しの岩壁で、いかにも元々洞窟だったという雰囲気だ。


 床の石畳には魔法陣が刻まれていて、その中心に巨大な魔晶が鎮座していた。


「……これが、国を守る結界の核……?」

「その通りです。巨大な結界を永遠に維持し続けるのは、イリス様でも困難。そこで、イリス様から結界の術式を教えていただき、この魔法陣に落とし込みました。結界を維持する魔力は、この巨大な魔晶が発しています」

「魔晶の魔力だって底なしではありませんが……継承の儀というのは、もしかしてこの魔晶に魔力を送り込むことですか?」

「ええ、その通りです。ただ、あの魔晶には特殊な魔術が掛けられているので、魔力を送るだけではなく、魔晶自体に結界魔術を施します。そうすることで、魔法陣が結界魔術を拡大して国を覆います。魔晶に取り込まれる結界魔術が強固であれば、それだけ国を覆う結界も堅牢になります。そのため、結界魔術に長けた者を国王と聖女にしてきたのです」


 言うや、国王はオズワルドとカリーナに、魔法陣の中心、魔晶の前に立つよう促した。


「二人とも、魔晶に触れ、同時に魔晶に対して結界魔術を発動させなさい」

「はい」


 応じた二人が視線を交わし、同時に呪文を唱えた、その時だった。


 激しい爆発音が、階段の上から響き渡ってきた。


「っ!」


 即座に臨戦態勢を取り、右手を掲げる。


 階段から足音が響き、アリーヤが現れた。


「施錠した扉を吹っ飛ばしてきたの……?」


 あの扉は、簡単ではあるが魔術で守られていた。

 王族の持つ鍵がなければ開かないように。


 しかしそれを、力尽くでこじ開けたというのか。


 聖女候補というのは伊達ではなかったらしい。


「……許さない、許さない……カリーナ! アンタだけは絶対に許さない! オズワルド様の花嫁はこの私よっ!」


 血走った目で妹を睨み、右手を掲げる。

 

 その刹那、私の本能が警鐘を大音量で鳴らした。

 咄嗟に右手を振り上げる。


防御魔術ディフェンシオ!」


 唱えたのは正解だった。

 私の織り成した防御魔術が部屋の魔法陣と国王を取り囲んだ直後、アリーヤが攻撃魔術を放ってきた。


 凄まじい衝撃と共に、攻撃魔術が四散する。


「アリーヤ嬢! これは重罪だぞ! 自分が何をやっているのかわかっているのか!」


 国王が声を引き攣らせながら叫ぶが、彼女の耳には届いていない。


 彼女はゆらりと体を揺らし、再びカリーナを睨む。

 その眼差しに、頭に響く警鐘が更に大きくなるのを感じた。


「ガリュー! 殿下とカリーナを守って!」

「はいよっ!」


 私の髪に隠れていた小狐が飛び出し、少年の姿になって防御魔術を展開する。


 次の瞬間。


「……殲滅魔術アンニヒラティオ!」


 殲滅魔術、それは帝国では使用を禁じられている最上級の攻撃魔術だ。

 

「馬鹿なことを……!」


 私はもう一度防御魔術を張り直す。

 国王も、とっさの判断で魔法陣を守るために結界魔術を展開した。


 しかし。


 アリーヤの魔力の刃が私の防御魔術に何度も当たり、やがて、ぴし、と音を立てて防御魔術に亀裂が生じた。


「くっ……!」


 やはり防御魔術では殲滅魔術は防げないか。


 何故殲滅魔術が禁じられたのか、それは、効果があまりにも強すぎるからだ。

 そして、高確率で魔術が暴走し、術者本人も傷つき、最終的に制御不能に陥ってしまうのだ。


「まずい、破られるっ!」


 防御魔術が切れる瞬間、私は彼の名前を口にした。

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