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最強の殺し屋だった私が聖女に転生したので世界平和のために悪を粛清することにしました  作者: 結月 香
第十一章 聖王国の聖女

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肆:聖女の選定

 翌日、国王の許可が正式に降りたので、ロジェとジルベルトは町へ視察というていのデートに出かけて行き、私とトリスタンとクラリスで玉座の間に向かった。


 そこには既に国王陛下と二人の少女、そして一人の青年がいた。


 少女の一人は昨日部屋を訪ねて来たアリーヤ・アルシオーネだ。

 もう一人は、彼女と瓜二つの面立ちながら紫の瞳をもち、自信なさそうに眉を下げている。彼女が妹のカリーナだろう。

 そして国王の傍らに控えている、国王によく似た面差しの青年は、おそらく聖王国の王太子であるオズワルド・ソルテラ・プレアデスだろう。


「お待たせいたしました」

「どんでもない。ああ、アリス様、ご紹介いたします。これが私の息子、現王太子のオズワルドです」

「オズワルド・ソルテラ・プレアデスです。よろしくお願いいたします」


 にこやかに一礼したオズワルドに、私も名乗って頭を下げる。


「……では早速ですが聖女選定について、状況の説明からお願いできますか?」


 私が歩み寄りながら尋ねると、国王は頷き、口を開いた。


「はい。先代聖女が病で急逝したため、急遽次代聖女の選定を始めました。十人いた候補者の中から、最終候補者として残ったのがこの二名、アリーヤ・アルシオーネと、カリーナ・アルシオーネの姉妹です」


 ふむ、と思って視線を滑らせると、王太子と目が合って微笑まれた。

 何だろう、意味深長な眼差しだ。


「我が国では、国王と聖女が共に結界を維持する義務を負います。原則、国王と聖女は婚姻関係となりますので、先代聖女の崩御による聖女交代に伴い、私も王位を退き息子が王位に就きます」


 聖王国の国王と聖女は夫婦であることが多いと歴史書に記されていたけど、もはや聖女となることは即ち王妃になることを意味するのか。


「そしてこの最終候補の二人とも、我が国で優秀な魔術師で、二人が張れる結界の強度はほぼ同等でして、我が国の聖女選定基準では判断できないのが現状です」


 実力で判断できないのなら人柄で判断すべきだと思うが、それができない事情でもあるのだろうか。

 昨日突然部屋を訪問してきた姉アリーヤの言動から、彼女は聖女にも王妃にも相応しくないとさえ思えるのだけど、果たして妹はどう思っているのか。


「……まずは、結界魔術を見せていただいてもよろしいでしょうか?」

「ええ、勿論です」


 私の言葉に、アリーヤが即座に応じて、結界魔術を唱えた。

 自分自身を囲んだその結界は、一見する限りかなり強固だ。


「……確かになかなかの精度ですね。では、次、カリーナさん、お願いします」

「は、はい……」


 おどおどした様子で、妹も呪文を唱え、結界魔術を発動させる。


「……ん?」


 強度自体は申し分ないが、アリーヤの結界と比較すると堅牢さに欠ける気がする。


 それだけならば、二人の実力差だと納得しただろう。

 しかし、カリーナの結界は、魔力が揺らいでいるように見える。


 これは、無理に高強度な結界を張っている時ではなく、力を無理矢理抑え込んでいる時に見える現象だ。


「……結界の精度はわかりました。国王陛下、王太子殿下、少しお話を伺えますか?」

「ええ、勿論です」

「では……暗転魔術テネブリス!」


 会話を聞かれないために、私は自分と国王陛下と王太子との三人だけを魔術の暗幕で包み込んだ。


 暗転魔術は戦闘時に敵の目を眩ますために使用されることが多い魔術だ。

 外からは大きな真っ黒の球体があるだけで私達の姿は見えなくなる上、中と外で音も聞こえなくなる。


 中は真っ黒に塗り潰された空間であるが、お互いの姿はしっかりと視認できる。


「陛下、まずは陛下のお考えをお伺いできますか?」

「あ、ああ……正直、結界の強度が同じであるならば、はきはきとした性格のアリーヤの方が聖女に向いていると……」

「……そう思ってはいるものの、決めかねて私を呼んだということは、懸念もあるのでしょう?」


 私が指摘すると、国王は肩を落とした。


「ええ……アリーヤはカリーナをどうにかして蹴落として自分が聖女になろうと考えています。それ自体は、自身が聖女になりたいと願うのは聖女候補として当然なので問題ないのですが……彼女の場合は、少しそのきらいが強すぎて、他者を傷付けることを厭わないように見えてしまうのです」

「そうですね。私も同感です……でも、それならばカリーナを聖女とすることで解決なのでは? 同じだけの結界が張れるのであれば、聖女としての資質を重視した決定で良いと思いますが?」


 私の言葉に、国王が視線を落とす。


「……カリーナを聖女とすることで、国に何か不利益が?」

「……ええ。実は、彼女達の父親は、我が国の公爵でして。どういう訳か、両親ともに姉のアリーヤをやたらと推挙していて、もしもカリーナを聖女にしたら、公爵家は今後王室を支持しないと言い出しているのです」


 その返答に、私は盛大に溜め息を吐いた。


 どこの国にも、権力に酔い痴れて私欲を通そうとする阿呆はいるものだな。


「公爵家からの支持が得られなくなった場合の不都合は?」

「アルシオーネ公爵は現国務大臣です。それが王室を支持しないとなると、今後の内政にも大きな影響が出てしまうでしょう」

「……そんなもの、国務大臣を交代させてしまえばよいではないですか」


 国王が公爵を恐れてどうする。

 この国王は、穏やかな気質らしいが気が弱すぎる。


「王による独裁政治はあってはなりませんが、国王の真っ当な判断に私欲のために異を唱える大臣を残す理由はないはずです」


 私がそう言うと、国王ははっとした顔をした。


「……それもそうですね。アルシオーネ公爵家は古くから聖王国王家に仕える家であるがために、慎重になり過ぎていたようだ」

「……王太子殿下はどうお考えですか?」


 王太子に向き直ると、彼は少しだけ考えるような素振りを見せて、それから口を開いた。


「俺は結界を維持できるだけの実力があればどちらでも構いません。好みの話をするなら、妹の方が庇護欲がそそられるので良いですが」


 妙に緊張感のない口調と台詞に、がくりと肩を落としそうになる。


 端正な面立ちに似合わず、この王太子は阿呆なのだろうか。

 私は嘆息して話を戻した。


「……では、私はカリーナを推します。もしも、カリーナを聖女とすることで公爵家が何か言ってくるようであれば、私の名を出してくださって構いません。私はいつでも受けて立ちます」


 国王が頷いたので、暗転魔術を解除する。


 自分が選ばれると信じて疑わない様子で、アリーヤが私を見ている。

 国王は一つ咳払いをした。


「ファブリカティオ帝国が聖女、アリス・ロードスター様のお見立てもあり、次代聖女は、カリーナ・アルシオーネ嬢に決定する」

「なっ!」


 二人は同時に驚いた顔をする。


「何故ですか! 妹は精神的に幼く、とても聖女など務まりません!」

「私には、実の妹を悪く言ってばかりの貴方よりも、カリーナの方がよほど聖女に相応しいと思えました」


 淡々と語る私に、アリーヤが唇を噛み締める。


「で、でもっ! 妹の結界は不安定で……」

「それについては、私もカリーナさんに聞きたいのだけど……」


 私がカリーナに視線を移すと、彼女はビクリと肩を震わせた。


「何故、選定の場で出力を抑えたの?」

「出力を抑えた?」


 その場にいた私とカリーナ以外の全員が目を瞠る。


「さっき見た貴方の結界は、魔力が揺らいでいた。それは魔力の出力を極端に抑えていた証拠よ」

「……実力を隠していたということですか? 何故、そんな……」


 国王が信じられないという目でカリーナを見る。


「憶測ですが、アリーヤさんの性格を考えたら、姉より優れているところを見せると折檻されるから、と考えるのが妥当かと」


 私の言葉に、カリーナが小さく震え出した。どうやら図星らしい。


「……何よそれ……! アンタ、本当は私より強い癖に、それを隠して内心で私のことを馬鹿にしていたっていうのっ?」


 アリーヤがカリーナに掴み掛かろうとしたので、私はさっと二人の間に割って入った。

 本当は腕を捻り上げるくらいしてやってもよかったのだけど、他国での暴力沙汰を起こすのは私も本意ではないので、手を広げてカリーナを庇うだけにする。


「玉座の前で暴力行為をするなんて、やはり貴方は聖女の器ではありません」

「煩いっ! 帝国の聖女だか何だか知らないけど、私はアルシオーネ公爵令嬢なのよ! 私を聖女に選ばなければ、どうなると思って……!」

「どうなりますか?」


 すかさずに聞き返した私に、予想外の反応だったらしいアリーヤは虚を突かれたようにたじろいだ。


「私はファブリカティオ帝国の聖女です。プレアデス聖王国の公爵令嬢が、私に何ができると? 念のため申し上げますが、この玉座の前で私に対して侮辱的なことを仰るならば、それはアルシオーネ公爵家から帝国聖女への不敬と捉えます。そうなれば、ファブリカティオ帝国皇帝から、プレアデス聖王国国王に抗議することになるでしょう……この意味がわかりますか?」


 早口に捲し立てる。

 帝国の聖女は、皇帝と並ぶ権力を持つ。

 本来は他国からも敬意をもって接せられるべき存在なのだ。

 当然、他国の貴族が私を侮辱したら、それは国家間の問題にも発展することになる。


「……何よ、偉そうに……!」

「アリーヤ嬢、黙りなさい」


 何か言い募ろうとした彼女に、国王が低い声音で言い放った。

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