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最強の殺し屋だった私が聖女に転生したので世界平和のために悪を粛清することにしました  作者: 結月 香
第十章 神官昇格試験

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玖:試験終了と試験結果

 私とクロヴィスが城の前に戻ると、リュカ組とトリスタン組が既に到着していた。

 程なくしてロジェ組も姿を見せる。


「これで試験は終了ね……審議は神殿で行いましょう。ちょっと、早めにここを出た方が良さそうだから」


 私の言葉に、誰も異を唱える者はいなかった。

 馬車を停めていた遺跡の入口までは飛翔魔術で移動することにして、飛翔魔術が扱えない者達は私とジャンでまとめて運ぶこととなった。大した距離ではないので複数人を飛ばしてもさほど負担ではない。


 皆が素早く行きと同じ馬車に乗り込んでいく中、私は遺跡を振り返った。


結界魔術(オービチェ)!」


 唱えて、遺跡全体を結界で包み込む。外のものを中に入れないのは通常結界と、中のものを外に出さない、閉じ込めるための反転結界を二重に織り成した。


 これで、もしも遺跡に何か異変があり、結界が破られるようなことがあれば、術者である私はそれを察知することができる。


 結界が完成した事を確認して、私はクロヴィスを振り返った。


「直接城へ戻る?」

「ああ、そうだな。今日はこの後公務も入っているし……調べるのは少し時間が掛かりそうだ」

「そうね。何かわかったらお互いすぐ報せましょう」


 私の言葉に頷いたクロヴィスが、私の頭を軽く撫でてから飛翔魔術を唱えて飛び去って行く。

 ほんのり甘いスキンシップにくすぐったい気持ちを堪えながら、私も馬車に乗り込んだのだった。


「……聖女様、先程の気配、正体はわかりましたか?」


 馬車が走り出してからしばらくして、アネットが口を開いた。


「ううん。正体はわからなかった……でも、あの城の塔には大きな魔晶があって、まるで塔全体が魔具みたいだった……試験が片付いたら、パオ王国について調べてみるわ」

「塔が、魔具……?」


 エルヴィラが怪訝そうに目を瞬く。


「エルヴィラ、リベラグロで創られていた魔具で、塔がまるごと魔具の機能を果たしているものとか、そういうものはあった?」


 彼女の兄であるアルバートも知らないと言っていたので、エルヴィラが何か知っているとも思えないが、彼女もまた魔具の製造が盛んなリベラグロの元王女だ。聞いてみて損はないはず。


「いえ、聞いたことがありません。基本的に、リベラグロで開発されていたのは持ち運びが可能な魔具がほとんどでしたし……ただ、原則として、魔具は効果が大きいものほど魔具そのものも大きくなるという特性があります」

「……塔が魔具だとしたら、効果は相当大きいと考えた方が良さそうね」


 ふむ、と頷いて、私はリーゼルを見た。


「……リーゼル、遺跡の近くの村出身だって言っていたけど、何か知っていることや思い当たることはない?」

「うーん……パオの民は何かを守っていたって、祖母が話していたのを聞いたことがありますが……」

「何かを守っていた?」

「はい……私の村は代々女性が村長を務めていて、祖母もそうでした。だから村のことをよく知っていたのですが、その祖母も少し前に亡くなってしまったので、もう詳しく聞くこともできません……今は私の母が村長を継いでいますが、祖母からどこまで話を聞いているか……」

「……そう。リーゼル、神殿に戻り次第、お母様に手紙を書いてくれる? パオ王国について知っていることを教えて欲しいって。掛けたらすぐに伝書魔術で送るから」

「わかりました」


 リーゼルの村が、パオ王国と何かしらの繋がりがある気がする。


 ふむ、と思いつつ彼女の顔を見る。

 あの映し出された王女クレアと、同じ褐色の髪にグレーの瞳。


 この大陸では最も多い色の組み合わせではあるため、偶然一致することもおかしくはないが、偶然だとも言い切れない気がした。


 その後、何とも言えない沈黙が続いて、ようやく神殿に着くと、試験の評価を審議するため、一旦ジャンとアネットと私で会議室へ集まった。

 クロヴィスが下した評価については、ジャンが聞いてまとめてくれている。


 四枚の評価リストを並べて、私達は唸った。


「……大神官候補三名は、ほぼ同点ですね」

「統率力と指導力に長けるリュカ、冷静沈着で判断力に長けていて魔術の精度も高いトリスタン、協調性と社会性に長けるロジェ、ってところかしら」


 三人それぞれで、最も評価されている項目は異なる。


「……いっそ三人とも大神官にする? 大神官が三人でなければならない理由もないんでしょう?」


 私がジャンを見ると、彼は虚を突かれたような顔をした。


「それは、そうですが……今まで大神官は三人だと思っていたので、その発想自体がありませんでした」

「そもそも昇格試験であって、選抜試験じゃないんだから、ある一定の基準を満たすのなら、昇格で良いと思うのよね」


 私の言葉に、ジャンとアネットは顔を見合わせる。


「……では、神官はどうなさるおつもりですか?」

「神官が大神官になるだけだから、無理に神官の数を増やさなくても良い気はするけど……」


 呟きつつ、皆の評価を見る。


 最も優秀なのは、案の定ハリーだ。次いでケイド、ニール、リーゼル。デボラとエルヴィラも、予想よりは良い評価を得ているが、神官に昇格できる程の評価ではない。


「評価を見る限り、ハリー、ケイド、ニール、リーゼルは神官に昇格しても良さそうね……って、これは私の意見だけど、二人はどう思う?」

「私は異存ございません。三名全員が大神官として足る力量があるのならば、あえて神官のままにしておく理由はありません。神官も同様です」

「そうですね。私も同感です」


 二人が頷いたので、リュカ、トリスタン、ロジェが大神官になることは決定した。

 あとは神官についてだが、私の意見では六人のうち四人、つまり昇格希望者の半数以上が昇格となる。これに対し、デボラとエルヴィラが半狂乱にならないかが若干心配だ。

 と、ジャンが口を開いた。


「神官についても、私は聖女様に賛成です。デボラとエルヴィラは、以前に比べると随分内面的にも成長したと思いますが、神官となるにはまだ未熟かと」

「そうですね。六人それぞれを絶対的に評価した時、デボラとエルヴィラはまだまだ視野が狭い」


 アネットも頷く。


「じゃあ、全員を集めて。結果を発表しましょう」


 私の言葉に、アネットが部屋を退出する。

 皆食堂で待機していたので、アネットが呼びに行くと即座に会議室へやって来た。


「早速だけど、昇格試験の結果を発表するわ」


 全員が席に着いたところで私がそう切り出すと、皆一様に背筋を伸ばした。


「大神官に昇格するのは、リュカ・スペーシア、トリスタン・デイズ、ロジェ・ミラの三名」


 前代未聞の三名同時昇格に、その三人は顔を見合わせた。


「ぜ、全員が大神官に……?」

「ええ。三人共大神官として相応しいという判断よ。リュカは統率力と指導力、トリスタンは判断力と魔術の精度、ロジェは協調性と社会性を評価したわ」

「……で、では、神官の昇格はどのようになるのですか?」


 ニールがおずおずと手を挙げて尋ねる。


「大神官の枠を増やしたから、神官も増員することにしたわ……神官へ昇格するのは、ハリー・ビート、ニール・リーフ、ケイド・スピアーノ、リーゼル・フレア、以上四名」


 デボラとエルヴィラが顔を見合わせる。

 しかし意外にも、彼女達は何かを察した様子で頷き合うばかりで、反論する様子はない。


「あ、あの、評価内容についてお聞きすることは可能でしょうか?」


 リーゼルが尋ねてきたので、私は頷いて、簡単に審査員の評価内容を答えた。


「まずはハリー、向上心があり魔術の精度も今回の昇格希望者の中では最も高い。普段の生活態度からしても神官として相応しいと判断されたわ」


 私の言葉に、ハリーは誇らしげに唇を緩め、はっとした様子で再び表情を引き締めた。そういうところも真面目である。


「次にケイド、ハリー同様真面目で、以前は使えなかった魔術も少しずつだけど習得しているという点が評価された。ニールはハリーに次ぐ魔術精度だけど、自分基準の言動がやや目立つため、そこが僅かに減点になっているわね。リーゼルも魔術を少しずつ習得していることと真面目な性格が評価されているけど、自信がないことで判断力が鈍ることが懸念されているわ」


 つらつらと答えると、各々評価を噛み締める様子で頷いた。


「今回昇格を見送ったデボラとエルヴィラについては、二人とも以前に比べれば言動など随分改善されたけれど、神官として上に立つには視野が狭いことが見送りの理由ね。エルヴィラについては神殿に入ってまだ日も浅いことから、もっと修練を積むべきという声もあったわ」


 正直な評価を告げると、エルヴィラは小さく嘆息した。


「……まぁ、そうでしょうね。わたしくしも、流石に一番の新参で神官になれるとは思っていませんでしたから、当然でしょう」


 おっと、自分の立場を理解した上で昇格を希望したのか。


「それでも昇格試験を受けた理由は?」

「今の自分がどう評価されるのかを知りたいと思ったからですわ。昇格試験を受けるかどうかは各自の判断、とジャン神官長は仰いました。神殿に入ってからの日数が受験資格となる訳ではないのならば、今の自分が神官として足るのか、足らないのであれば、何がどう足りないのか、それを知れば、今後の修練の指針になると思ったのです」

「……意外とちゃんと考えていたのね」


 思わず感心する。

 初めて会った頃は、本当に自分のことしか考えられない、傲慢で嫌な王女だったのに。


「この短期間での成長は認めるわ。私から褒められるのも不本意かもしれないけど、きちんと修練を積めば、神官に足る素養が身につくかもしれないわね」


 私がそう言うと、エルヴィラは過去の自分を思い出したのか僅かに苦笑して、それから私に向かって一礼した。

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