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最強の殺し屋だった私が聖女に転生したので世界平和のために悪を粛清することにしました  作者: 結月 香
第九章 戦争を企む者

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漆:助け

 死ぬ、そう思った直後、凄まじい咆哮が轟いた。


「っ!」


 ぎょっとして目を開ける。

 今の声は、竜のそれだ。


 強い魔力を孕んだ咆哮による衝撃波で、第二王子の脆弱な魔力の刃は全て吹っ飛んだようだ。


 顔を上げた私の前に、緋色の鮮やかな髪が見えた。


「えっ! エルガっ?」


 そこに立っていたのは、竜人族のエルガだった。


「……皇太子の野郎じゃなくて悪かったな」


 私の声に何かを感じ取ったらしいエルガは、不貞腐れたような顔で呟いた。


 最後に思い浮かべた人物の名前を無意識に口にしていたのだろうか。

 何だか居た堪れない心地になった直後、エルガは第二王子を振り返り、ぴっと魔力の塊を飛ばした。


 それが頭に当たり、王子はそのまま泡を吹いて倒れてしまった。


「え……?」


 まさか殺したのか、と尋ねようとした矢先、私の表情から言いたいことを悟ったエルガがあたふたし出した。


「……こ、殺してはねぇぞ! ちゃんと手加減した!」


 必死に弁明するエルガが少しおかしくて、思わずぷっと吹き出してしまう。

  

「それなら良かったわ。それより、助けに来てくれたの?」

「ああ。お前に会いに神殿っつー場所に行ったら、ロレンなんちゃらって国が進軍してきて? 良くわからねぇがお前が飛び出して行ったって聞いて、気配を辿って来たんだよ」

「気配辿っただけでよくここまで来られたわね」

「匂いもしたからな」


 竜人族の嗅覚は恐ろしいな。

 

 でもそのおかげで助かったのは事実だ。普段なら引くようなことだが、今回は大目に見よう。


「ありがとう、エルガ。おかげで助かったわ」

「礼なら口づけでいいぜ」

「それは遠慮します」


 軽口を叩くエルガに即答した時、城壁内部から慌ただしい足音が響いて来た。


「何の騒ぎだ! えっ! ハミルトン兄上っ?」


 数人の兵と共に現れたのは、二十代半ば程の青年だった。

 倒れている第二王子を兄と呼んだということは、彼も王子だろう。年齢から察するに、第七王子だろうか。


「何者だ!」

「ファブリカティオ帝国今代聖女のアリス・ロードスターと申します。先の進軍について抗議に参りました」


 何度目かになる口上を述べると、青年は目を瞠った。


「帝国の、聖女様……?」

「俺は竜王国ドラコレグナムの王太子、エルガだ!」


 得意げに名乗るエルガ。王国の王太子という肩書が気に入っているようだ。


 と、青年は辺りを一瞥し、状況を悟ったらしく、青褪めた顔で深々と頭を下げた。


「私はロレンマグナ王国の第七王子、ウェズリー・テリオス・ロレンマグナと申します。兄の非礼、心よりお詫び申し上げます」


 今までの二人の王子とは全く違う反応に、思わず目を瞬く。


「信じていただけないかもしれませんが、今回の進軍は、第五王子が独断で進めた計画です。現国王である父上は、後からそれを知り、何としてでも兄の暴走を止めるべく、騎士団を編成して先程国境へ向かわせたところでした」

「……つまり、ロレンマグナとしては、帝国とやり合うつもりはないと?」

「勿論です。竜王国を建国させ、更には配下にした帝国に対して、今のロレンマグナでは戦を仕掛けたところで勝ち目はありません……冷静に考えればわかるはずなのに……他国を巻き込み、国民を危険に晒してまで、こんなことをするなんて……」


 ウェズリーと名乗った王子はぐっと拳を握り締める。


 この短時間で彼の人間性を判断するのは危険だが、彼はカリムと同じ種類の、誠実な青年に思えた。

 少なくとも、彼の碧の瞳には、あの昏い光は見当たらない。


「……その話が本当だと言うのなら、国王を今すぐここへ呼んで。帝国の聖女として、国王からの正式な謝罪を要求します」

「謝罪は当然ですが……ここへ、ですか?」

「ええ。私は先程、貴方の国の王子にこの場所で罠に掛けられた。私はもう貴方達を信用できない。貴方達の城へのこのこ入り込むような真似はしないわ」


 私の主張を正当だと捉えてくれたらしく、ウェズリーは兵に指示を出して国王を呼びに行くよう伝えてくれた。


 その直後だった。


 私の背後に強い魔力の気配がした。

 はっとして振り返った刹那、そこに数十の馬に乗った騎士がいた。

 見慣れたファブリカティオ帝国の鎧だ。その先頭にいるのは、見慣れた皇太子。


「クロヴィス……」

「おいおい、今更登場かよ。随分遅かったじゃねぇか」


 エルガが煽るように言い放つと、クロヴィスは物凄く不愉快そうに顔を顰めた。


「騎士の準備に時間が掛かった。遅くなってすまない……アリス、言いたいことは山積みだが……とにかく無事で良かった」


 馬上から私を一瞥して、クロヴィスは心底安心した様子で息を吐いた。


「……で、これはどういう状況だ?」


 クロヴィスの問いに、私は今起きたことを掻い摘んで説明した。

 彼は、私がロレンマグナの第二王子の策略に嵌って死にかけたくだりを聞いて、額を押さえて嘆息する。


「……だから戦場になんて行かせたくなかったんだ。俺がもう少し早く来ていれば……」

「まぁ、無事だったんだし……」

「エルガが来たからだろう? アイツがいなければお前は死んでいたかもしれないんだぞ!」


 クロヴィスが馬を降りて私の前に立つ。


「頼むから約束してくれ。次からは無茶はしないと……俺の心臓がいくつあっても足りない」


 私の肩を掴む手が震えている。


 今回ばかりは、怒りに任せた自分の行動が浅はかだったと痛感している。

 もう少しだけでも、慎重になるべきだった。


「……うん、ごめんなさい」


 私が謝罪をしたところで、城門の大きな鉄扉が開き、王城の方から数頭の馬が駆けて来た。

 服装からして、そのうちの一頭、白馬に乗ってやって来たのが、この国の王だろう。

 確か齢七十を数えるお歳のはずだが、随分若々しく、五十代後半くらいに見える。


 国王は馬を降りると、私の前にやって来てその頭を深く下げた。


「この度の愚息のしでかした進軍および、帝国聖女様に対する非礼、ロレンマグナ国王の名に於いて、深くお詫び申し上げます」

「つい先程、そこの王族とみられる方から、帝国に対して宣戦を布告すると言われましたが?」


 私が、そこに転がっている第二王子を指差して尋ねると、国王はぶんぶんと首を横に振った。


「勿論それも撤回いたします。今回の騒動の原因となった愚息たちには、お望みの処罰を与えましょう」


 処罰、か。

 私はクロヴィスを見る。


「フェリクスから、前線の状態については聞いている……今回の件、俺がこの場で判断を下す訳にはいかないな」

「そうね。皇帝陛下にも指示を仰いで、トリブスとイアスピスの両国王とも話をつけないと」

「……沙汰は追って下す。近く、ダイサージャー王国の王城に召集することになると思うので、そのつもりで。それまでの間、第五王子の身柄はこちらで預からせてもらう」


 クロヴィスはそう言うと、私に右手を掲げて魔力封じを解除していくれた。


「フェリクス達はデュトロ城に引き上げている。俺達も戻ろう」

「わかった」


 クロヴィスは来た時と同様、転移魔術を組み込んだ魔具を使用して、騎士団諸共デュトロの王城に移動した。

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