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最強の殺し屋だった私が聖女に転生したので世界平和のために悪を粛清することにしました  作者: 結月 香
第九章 戦争を企む者

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肆:敵の策略

 敵の兵全員を捕虜として連れ帰った私に、フェリクスは心底唖然とした顔をした。


「アリス様、これは、一体……?」

「見ての通り、敵軍を一網打尽にしてきたわ。これが三国同盟軍の将軍、ロレンマグナ王国第五王子」


 ガリューに連れて来させた将軍を指すと、フェリクスは思考を放棄するかのように、一度天を仰いだ。


「……ええと、つまり、先程まで我々が戦っていた敵軍は……?」

「だから、これで全部よ。敵の本陣から一人残らず連れてきたから間違いないわ。で、こっちの四人が、トリブス王国とイアスピス王国の代表みたい」

「……アリス様、失礼ながら、一体何をどうすればこんなとんでもないことができるのですか?」

「何をどうすればって、普通に乗り込んでぶちのめしただけよ」


 けろりと答える私に、理解不能という顔で額を抑えつつ、捕虜の処遇について部下に指示を出すフェリクス。

 突如攻め込んできた同盟軍に対して迅速に応戦してみせたり、優秀な第二王子であることは間違いないんだろうな。


「彼らの対処はお願いね。私はこれから、ロレンマグナ王国に乗り込んで、この馬鹿げた進軍の訳を聞いて、謝罪させてくるから」

「はっ? 敵国に聖女であるアリス様がお一人で乗り込むとっ?」

「ええ。それが一番手っ取り早いから」

「なりません! それは流石に危険過ぎます!」

「罠です! おやめください!」


 引き攣った声を上げたのは、フェリクスとカリムだった。


「罠?」


 不穏な単語に眉を顰めると、カリムは剣呑な表情で頷いた。


「はい。罠です。ロレンマグナの第二王子が大軍で待ち構えでいるはずです」

「私が単身で乗り込むことを予想していると?」


 尋ねると、カリムは辺りを見回して将軍が近くにいないことを確認し、声を潜めた。


「いえ、そうではありません。ただ、第二王子は聡明かつ狡猾で、第五王子による進軍が失敗し、早々にロレンマグナまで帝国の皇族もしくは将軍が抗議のために乗り込んでくると踏んでいるのです」

「……じゃあ、貴方達が私に負けたのはわざと……?」

「いえ、第二王子が先読みをしているだけで第五王子はこのことを知りません」


 カリムはスラスラと答えてくれる。

 それがかえって怪しい。


「……もしも帝国側がそれを信じてロレンマグナへ行くのを止めた場合、帝国が今回の進軍について許容したことになってしまうわ。それに、トリブスの騎士である貴方が、何故ロレンマグナ王国第二王子の策略を知っているの?」


 カリムの瞳には昏い光は視えない。

 だが、彼が自国を守りたい一心で嘘を言う可能性は充分にある。


「……私は、くだんの第二王子に脅されてこの同盟軍に投入されたのです」

「第二王子に脅された? 第五王子じゃなくて?」


 思わず眉を顰めると、カリムは神妙な面持ちで頷いた。


「ええ。第二王子は、帝国が力を付けたと聞いた第五王子が即座に動くことを予想して、私に接触してきたのです。第五王子から要請があった場合、必ずそれに従って同行せよと。さもなくば、私の故郷である村を焼き払うと……」

「貴方に同行させて、第二王子はどうするつもりだったの?」

「第二王子の予想では、この進軍は失敗し、第五王子は殺されるか捕虜となるかどちらか。ただ、万が一進軍を成功させられてしまえば、第五王子が権力を得ることに繋がってしまう。それを回避するため、私に第五王子をおだてて無茶な進軍をさせろと命じたのです」

「なるほどね。その時に第二王子の企みも聞いたと?」


 確かに、あの将軍なら、適当に煽てておけば無茶な進軍をして自滅しそうだ。

 流石は兄。よく弟の性格を理解している。


「はい。進軍の失敗が確定的になったら、私は逃げ戻っても良いと……」

「でも、貴方は逃げなかったのね」


 日暮れの時点で、同盟軍からすればまだ敗戦が確定的な状況ではなかったのかもしれないが、私が現れた時点で、彼は逃げる素振りさえ見せなかった。


「子供達に最前線で戦わせて、私が逃げる訳には参りません」


 あの五人の中で唯一、このカリムこそ王に相応しい器だ。

 全てが片付いたら、彼にトリブスの国王になってもらいたいくらいだ。


「……で、どうして私を止めるの? 貴方から見たら私は敵。罠ならば止めずに行かせる方が都合が良いはずでしょう?」

「そうですね。本来ならばそうすべきでしょう。しかし私は、子供達を傷付けることなく、あの戦場から救い出してくださった聖女様に心より感謝しております。我が国の子供達を救ってくださった恩人を、みすみす罠の中へ行かせたくないのです」


 じっと私を見つめる黒曜石のような瞳には、嘘も偽りも見当たらない。

 彼はとても誠実で、真面目な青年なのだろう。


 そんなことを考えつつも、私はフェリクスを振り返った。


「……私はロレンマグナ王国へ行くわ。罠であろうと、正面切ってこの進軍について抗議する」

「抗議ならまずは書簡でするべきです。聖女であるアリス様が、一人で乗り込む必要はありません」

「許せないのよ。子供に、ほぼ確実に失敗する戦争の最前線で戦わせて、自分は高みの見物している王族が」


 そういう腐った王族や貴族を根絶やしにしなければ、世界平和は訪れない。


 だから私は、それがどんな危険な方法であっても、世界平和のためならな身を投じる。


「クロヴィスが来たら、私はロレンマグナ王国の王都アプローズへ向かったと伝えて」

「そんなっ! アリス様を一人で行かせたとあっては、私が兄上に叱られます!」

「これは私が決めたこと。貴方には何も責任はないから大丈夫よ」


 我ながらこの言い訳は稚拙だと思う。

 罠だとわかっている場所へ飛び込むことがどれだけ愚かかも、前世での経験上わかっているつもりだ。


 それでも、許せない。

 その感情だけが、今の私を突き動かしていた。

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