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隠密が得意な冒険者、王子にロックオンされる

作者: なななな


迷った。

森に囲まれた道で、私は途方に暮れた。迷子である。頭のおかしい勇者から逃げ回っていたら現在地がどこだかわからなくなってしまった。


日本人としての一生を終えて、魔法が存在する世界に生まれた私は、今世最大の目的を果たすために魔王城への道を突き進んでいた。そこで思わぬ障害が発生したのだが…とりあえず迷子から脱するのが先だ。次の町はどっちだろう。


きょろきょろと周囲を見回すと、タイミングよく二人の人物の影が見えた。これ幸いと駆け寄って声をかけると、長めの黒髪を緩く編み込んだ美形の男が、親切に道筋を教えてくれた。


「実は我々もそこに向かっているところなんです。一緒に行きましょうか?」

「!おい…」

「いいんですか?じゃあお願いします」


もう一人のフードを目深にかぶった男が何か言いかけていた気もするが、また迷子になってはいけないのでありがたく提案を受け入れる。フードの男の顔はよく見えないが、口元だけ見ても美形であろうことがうかがえる。何の目的で旅をしているのか尋ねようとすると、後方から嫌な音が聞こえてきたので慌てて口をつぐんで耳を澄ませた。


「アリア殿ー、どこだー?」

「ちょっと勇者、待ってよう」

「おい、お前いい加減に…」


私はびくりと肩を震わせた。迷子の元凶の声が聞こえる。間違いない。頭のおかしな勇者がまだ私を追いかけていたらしい。アリアとは私の名前である。もう改名したくなってきたが。

どうしようどうしようと頭を悩ませていたら、よほど挙動不審だったのか黒髪のイケメンが不審者を見る目でどうしました?と尋ねてきた。


「おおお追われているんですどどどどどうしよよよよよ」

「だっ、大丈夫ですか?そんなに震えるほど恐ろしい目に?」

「いええええ、こここれは今すぐ走って逃げたくてそわそわしているだけででで」

「はあ。誰に追われているんですか」


追われていると言うと不審者を見る目が心配げな視線に変わった。私はぶるぶるそわそわしながらイケメンの質問に答えた。

勇者は思い込みの激しいストーカーである。初対面でいきなり求婚したあげく、断っても都合のいい意味に勝手に解釈して意に介さず、嫌がっているのに気付いているのかいないのか執拗に追いかけ回してくる。勇者のお仲間は助けてくれる気配がないし、そもそも彼らが勇者にまともな忠言をしたところであの勇者は聞かないと思う。そこまで言うと完全に同情の視線に変わった。


私に初対面で求婚したのも納得がいかない。一目惚れされるような容姿ではないし、そうでなくてもいきなり結婚を申し込むのは頭がおかしいと思う。


説明している間にも勇者たちの声はどんどん近づいてくる。姿変えの魔法を使えればいいが、あいにくそんな魔法は習得していない。それに隠密系の魔法は得意だけれど、勇者の魔法と相性が悪いのであまり使えないのだ。打つ手なし。詰んでいる。


「アリア殿ー!」

「あばばばばば」


だめだ。足が今にも走り出そうとしている。準備運動を始めてる。さっきも一目散に逃げて迷子になったのに同じことを繰り返そうとしている。やばいやばい。

だが勇者の声を聞いたら条件反射で逃げ出してしまうのは仕方のないことである。あんなキチガイと結婚したくはない。


「チッ。仕方ないな」

「レオン?」


全身がガタガタ震えだしたところで、ずっと沈黙していたフードの男が、自分の着ているローブを脱いでバサリと私の肩にかけた。黒髪のイケメンは何やら狼狽えていたが、ローブに付いているフードのおかげで、私の顔は目の下まですっぽり隠れた。


フードがなくなってはっきり見えるようになった男の顔はやっぱり美形だった。柔らかそうな金髪で、目は鮮明な赤。思わず見入ってしまって足の震えは止まった。


「アリア殿ー!」


と思ったら勇者の声で再発した。


あの勇者は思い込みが激しい上にしつこいのがいけない。仲間はいても友達はいないタイプだきっと。


「あっありがとうございままま」

「………かまわん。怪しまれるから震えるのをやめろ」

「はい」


私は意思に反してがたがた震えだす足を気合いで止めた。お礼を言ったのに何故か微妙な顔をされた。

それにしてもイケメンは声も素敵である。あの不快極まりない勇者の声とは大違いだ。


そうこうしているうちに勇者一行はかなり近くまで追い付いて来ている。また足が震えそうになったが気合いで我慢し、彼らが通り過ぎるのを待った。

しかし、期待に反して勇者は私たちに話しかけてきた。


「なあ君たち、銀髪の美しい少女を見ていないか?捜しているんだ」

「さあ。知りませんね」

「本当か?彼女の魔法の痕を追ってきたのだが…」


勇者の相手をしてくれているのは黒髪のイケメン。魔法の痕跡を追ったとかいう気持ち悪い勇者は、懐疑心に満ちた顔でしつこく尋ねている。

確かに、極めた補助魔法で身体能力をブーストして全力疾走して来たが…。


勇者のお仲間のうち二人が私を見て少し反応したようだが、目を逸らして知らんぷりをしてくれた。やはりこの二人は勇者に手を焼いているらしい。話が通じない相手の世話は大変である。もう一人は女の子で、こちらも話が通じない系の人だからこのまま気付かないでほしい。


前世で友達と一緒に公園で野球をしていた時のことを思い出した。私が打ったボールは公園の外まで飛んでいき、とある家の窓をパリーンと突き破り、それにびっくりした家の人は誤って自分の髪を引っこ抜いたという。最後の一本がなくなったおじさんは激怒して当時小学生だった私を追いかけまわした。しかし勇者に比べるとあのおじさんはまだずいぶん可愛いものだ。


「おい、いい加減にしろ。知らないと言っているだろう」


このままでは埒が明かないと思ったのか、金髪のイケメンが口をはさんだ。

彼に目を向けた勇者は、その顔を見るときゅっと眉を寄せる。勇者の横にいた女の子が短く悲鳴をあげ、残りの二人は目を見開いた。私からは見えないが、よほど怖い顔をしているのだろうか。


「なんだ、お前…!気味が悪い!目が赤いじゃないか、不吉の象徴だ!」


勇者の言葉に、場が凍り付いた。


イケメン二人の背中からひんやりとした空気を感じるが、私は勇者が何を言っているのかいまいち理解していない。ただ、侮辱していることは伝わった。


「おい、何言ってんだ、やめろ!」


さすがにまずいと思ったのか、今まで傍観していた男が勇者の肩を掴んだ。

勇者はその手を振り払った。


「後ろに隠れている女の子は、お前たちの仲間か?騙して攫おうとしているんじゃないだろうな。そんなことはこの俺が絶対に許さん!」


その上何を勘違いしたのか、見当違いなことをのたまっている。

何でここで私に注意が向くんだ。私は口を噤んで、金髪イケメンの服の袖を掴んだ。イケメンはピクリと反応して私を一瞥したが、振り払うことはしなかった。


「さあ君、こっちにおいで。その二人から離れるんだ」

「勇者!やめろって」


しかし、勇者はお仲間の制止もお構いなしに私の腕を強引に掴んで引き寄せる。


「きゃっ」

「君、きっとこの男たちに騙されているんだ。見ろ、あいつの不気味な赤い目を!何を考えているのかわかったもんじゃない!」


勝手に結論を出してしまう勇者。意味が分からない。

しかも目が赤いからだなんて!日本人が聞いたらびっくりだ。炎上だ。


私は振り返って彼の赤い目を見た。今は勇者のせいで絶対零度だ。怖い。二人とも恐ろしい顔で勇者を睨みつけている。私と目が合うと、金髪のイケメンは表情を曇らせて目を逸らした。黒髪の方は眉を下げ、すがるような視線を私に向けた。

勇者から逃げたい私に親切にしてくれたのはこの人たちだ。ここで勇者の従ったら裏切り行為。というかそうでなくとも当然勇者の言葉を耳に入れるつもりはない。

私は勇者の手を払いのけた。


はぁ、こうなったら仕方がない。


「ちょっと、触らないでくれる?気持ち悪い」


そう吐き捨てて深くかぶっていたフードを取ると、勇者は驚いたように目を見開いた。


「あなた、頭に何が詰まってるの?何度断っても追いかけ回してくるし、今度は初めましての人を誘拐犯呼ばわり?挙句、仲間の言葉も聞きやしない。理解力赤ちゃん以下ですか?犬の方が聞き分けいいわよ」


にっこり微笑みながら毒を吐くと、まともな方のお仲間たちが後ろでうんうんと頷いている。


「アリア!君だったのか!何を言っているんだ、僕が君を捜しに来なかったら、この男たちに何をされていたかわからないぞ」

「はぁ?」


あきれた。私の言っていることが全く伝わっていないらしい。昔からこうなのかと思うと、親が気の毒でならない。

自分の推測が決定事項みたいになっているのがわからない。あと、私の名前を呼び捨てにするな!


「ほら、こっちに来るんだ。僕たちといた方が安全だ」


そんなわけないだろう。お前とはこれ以上関わりたくない。


再び勇者が手を伸ばしてきたので、もうこれ以上は話しても仕方がないと判断した私は、その手を払って補助魔法を発動し、勇者の顔面に蹴りを入れた。言葉で通じないなら肉体言語を使えばいい。


「あーあ、唯一誇れる顔が…」


お仲間が何かつぶやいていたが、聞こえないふりをしてみぞおちにもう一発。


すると勇者はうめき声をあげて崩れ落ちた。だがまだ鬱憤は晴れていない。


「おーい、勇者のくせこんなことで倒れたりしないよね。ふふふ、私の攻撃が弱すぎて寝ちゃったのよね。ちょっとこっちに来いやストーカーボケ野郎」


私は勇者の身体をずるずる引きずって森の中に入った。





「えっ…ゆ、勇者は………?」


数分後、一人で帰ってきた私に、勇者のお仲間の女がビクビクしながら恐る恐る声をかけた。


「その辺の川に流した」

「きゃあああ勇者!」


女の子は悲鳴をあげて私が戻ってきた方向へに走っていった。

勇者を諫めようとしていた人は「よくやった」と言ってサムズアップしながら走っていったし、もう一人は無言だったがガッツポーズを見せて追いかけていった。あの二人とは仲良くなれそうである。勇者の仲間である限り無理だが。


イケメン二人はしばらく呆気にとられた顔をしていたが、先に立ち直ったのは黒髪の方だった。


「君、アリアといいましたか。お怪我はありませんか?」


この状況で私のけがの心配をするなんて、黒髪イケメンは紳士である。大丈夫です、と答えると、ほっとしたような顔で笑った。

あと感謝された。スッキリした、ありがとうと。勇者を川に流して感謝されるとは、世も末である。


金髪の方はずっと釈然としない顔をしている。

それを指摘すると、お前はこの目が恐ろしくないのかと聞かれた。なんでも、昔あった騒動から赤い目が不吉と言われ、忌避されているらしい。実際、赤い目を持って生まれた者は魔力が飛び抜けて多く、そのせいで問題が起こることが多々あるのだとか。私は今までそんな話を聞いたことがなかったので、自分が育った村の人たちはみんなぼーっとしているからそういう噂に疎いと言ったが、信じてもらえなかった。ぼーっとしているのはお前なんじゃないかと言われた。

それから名前を教えてくれた。黒髪の方はシリル、金髪の方はレオンハルトというらしい。


私は借りていたローブをレオンハルトに返した。


「ありがとうございました。ごめんなさい、私が助けを求めたばっかりに不快な思いをさせて」

「…別にいい。ああいうことは言われ慣れている。気にしていない」


フードを深くかぶっていたのは目を見られないようにするためだったんだなと思ってへこんだ。助けなんて求めずに初めから勇者をぶっ飛ばしていればよかった。

あの勇者、今度また懲りずに声を掛けてきたらもう一度川に流してやる。どんぶらこっこと流れてドジョウと遊んでおばあさんに拾われておじいさんに包丁で切られればいい。

落ち込んでいると、レオンハルトはむすっとした顔で気にするなと言った。どう見ても不機嫌顔だが本心なのだろうか。

すると、シリルがこっそり私に耳打ちした。


「あれは、喜んでいるのを隠しているだけですよ。あなたが態度を変えないのが嬉しいんでしょう」


…なるほど?




無事、次の町まで送り届けてもらって、二人とはそこで別れた。結局二人の旅の目的は聞き逃したままだったが、そうそう会うことはないだろうと思って、そのことは一旦忘れていたのだが、不思議なことに、その後行く先々で二人と出くわした。彼らはなぜだか私を気に入ってくれたようで、会うと毎回お菓子やら何やら色々と恵んでくれた。

あるときはご飯を食べようと入った店にたまたまいたり、またあるときは魔物と戦っているときに鉢合わせたり、最終的には魔王城に侵入しようとしているところを目撃されて、塀を越えようとしていたところを引きずり戻された。


「…お前は何をやっているんだ?」


周りに人がいないからかフードを脱いでいるレオンハルトは、器用に片方の眉を上げた。高い塀から落っこちた私を抱きとめて、そのまま横抱きにしている。眼前に麗しいお顔があるので目がつぶれそうだ。


「魔王城に侵入して魔王のお姿をこっそり見ようとしているところですが?」

「は?何のためだ」

「今世の思い出作りに」

「………………馬鹿なのか?」


二方向からあきれ返った視線をいただいたが、私は本気である。悪魔や魔物がいる世界に生まれたから、記念に魔王の顔を直接ひと目見ておきたいと思ったのだ。頭がおかしいとか言わないでほしい。私だって前世日本の記憶がなければこんなことはしていない。


「大丈夫です。こそっと見てこそっと帰るので」

「生きて帰れると思ってるのがすごい」


シリルから冷静なツッコミが入った。

しかし本当に大丈夫なのだ。勇者の追跡からはなかなか逃れられなかったが、私はドラゴンの卵を盗んでも気付かれないくらいこそこそするのが上手いので、例え相手が魔王城だろうがなんとかなる。多分。


「というかお二人こそなぜここに?カチコミですか?」

「いえ、あの…」


シリルが言い淀んでいると、レオンハルトが深いため息をつく。


「俺の妹が魔王に攫われたので、取り返しに来た」

「妹…」


そういえば、他の冒険者から、人間の国の王女様が魔王に攫われたとか聞いたことがある。攫われたのは王女様だけではなかったのだろうか。

首をかしげていると、シリルが言いにくそうに、眉を下げながら


「その、攫われた王女というのが、この方の妹君です」


などと言うから、私は目を丸くした。


「は?」

「レオンハルト殿下は、我が国の第一王子です」

「は………?」


私はぽかんとしながらレオンハルトを見上げる。所作が綺麗だとは思っていたが、第一王子だって?第一王子が御供ひとりで魔王城に?

色んな疑問が頭の中で渦を巻いたが、たかが冒険者Aにはわからない込み入った事情があるのだろうということにして、思考を放棄した。

ちなみにこれまでの会話中、レオンハルトに抱っこされたままである。降ろしてくれというと不満げにしながら降ろしてくれた。


「それは大変ですね。それでは妹奪還がんばってください」

「おい。本気で行く気か?死ぬぞ」

「え?たった二人で魔王と戦おうとしている人には言われたくないです」


もう一度塀に引っ掛けたロープに手をかけると止められた。しかしここまで来たのにこのまま引き返すつもりはない。今世最大のチャレンジを終えなければ家には帰らない。


「では失礼します」


私は二人に頭を下げ、気配を消す魔法と姿を見えなくする魔法、防音の魔法をかけて塀を登った。




魔王城侵入は拍子抜けするほど簡単だった。




というのも、城の中には、魔物はほとんどいなかった。警備がゆるゆるである。掃除もあまり行き届いていないようで、でも一部綺麗になっているエリアがあったので、そのあたりが普段使われている場所だろうと目処をつけ、天井裏に潜んだ。


二人分の足音が聞こえてきたので身構えたが、見えたのはレオンハルトとシリルの姿だ。会話から察するに、地下牢を捜したが王女は見つからず、魔王から直接聞きだそうとしているらしい。城内をうろついている魔物は数が少ないので、戦わずに隠れつつ行動している。

私は天井に潜みながら二人を追うことにした。


しばらくしてたどり着いたのはひときわ豪華な扉の部屋だ。どうやらここに魔王がいるらしい。しかし、部屋の中をうかがったレオンハルトとシリルの様子がどうもおかしい。


私は姿消しの魔法を解いて床に着地し、防音魔法も解いた。


「どうかしたんですか」

「君どこから湧いたんですか…」


一緒になって部屋をのぞくと、角の生えた精悍な顔立ちの男と、人間と思われる女の子が玉座に座っていちゃいちゃしていた。もー魔王さまったらーよいではないかよいではないか。よよいのよい。

なるほど。王子様が絶句しているのはあれが原因か。


「あのーお取込み中失礼します」

「ちょっ、アリア」


シリルが何か言っているが、無視して魔王と王女様に向き合った。

魔王は特に驚くこともなく、ゆっくりとこちらに視線を投げる。さすが魔王、侵入者の気配にはとっくに気付いていながら放置していたらしい。


「なんだ、人間の娘。用なら早く済ませてくれ」


魔王は勇者より話せるお方かもしれない。


「えーっと。うちの国の王女様が魔王に無理やり攫われたと聞いたんですが、これはどういう?」

「ふん、無理やり攫っただと?見ての通り私たちは相思相愛だぞ。姫にはきちんと同意を得て連れて来ている」

「そうなんですか?」

「もちろんよ。だって魔王さまのほうが贅沢させてくれるし、わがままを何でも聞いてくれるもの。もう実家には戻らないわ」


王女様は魔王様の首に腕を回して、大変満足そうな様子である。洗脳されているようにも見えない。

人攫いではなく円満な同棲らしい。予想外にもほどがある。勇者よりも魔王の方がよっぽど良識があるようだ。

レオンハルトが苦虫を嚙み潰したような顔をしているが、今は放っておこう。


「へえ…相思相愛とおっしゃってましたけど、魔王様は王女様のことが好きなんですか?」


魔王に攫われた王女様と言えば、5人いる王子王女の中でもひときわ性格が悪く、メイドや侍従にきつく当たるし親には反発するし金遣いが荒いと有名だったようだが。


「当然だ。我が強くて傍若無人なところが気に入った」

「やだぁ魔王さまったら」


なるほど、素敵な魔王様である。


「はあ、そうですか…。じゃあ人間を亡ぼしたりとかしないんですか?」

「そんな面倒なことはしない」


魔王が人間を侵略しようとしてるから魔王を倒さねばとか言って近ごろ自称勇者が増えてきているのに、魔王自身に侵略の意思はないらしい。混乱する。


「…提案ですが、もう一度王女様のご両親にご挨拶に行かれては?ついでに不可侵条約でも結んでくればいいと思います、ええ」

「ふむ…まあ構わん。それなら早い方が良いだろう。明日にでも行こう」


やっぱり魔王は話せる男である。

今気づいたけれど、当初は魔王様のご尊顔をひと目見て帰ろうとしていたのに、会話までしてしまった。孫の代まで自慢しよう。


「というわけですね、帰りましょう。アレは必要な犠牲です」

「そうですね。帰りますよ殿下」


未だに渋い顔をしているレオンハルトを引きずって、私たちは無事に魔王の住まう城から生還した。




というわけで私は目的を達成したので旅を終え、レオンハルトとシリルも誘拐された王女を助けるという目的自体が消えてなくなったので国に帰ることになった。そのまま故郷の村へ帰ろうとしたのだが、レオンハルトたちによって王城へ連れていかれた。なんで?


私たちが王城に着くまでに、もちろん魔王はすでに王女の両親へのあいさつと条約の締結を終えていた。仕事が早い。そしてレオンハルトとシリルの証言により条約締結は私の手柄ということになり、褒美ももらえることになった。なんで?

確かに提案したのは私だが、魔王が軽そうな感じだったのでノリで言ってみただけなのだ。そんなに大事になるとは思っていなかった。

しかも褒美というのが第一王子であるレオンハルトとの婚約らしい。なんで??


お金もたくさんくれた。お金はありがたくいただく。冒険者時代のじり貧生活はもうこりごりだ。

でも褒美の規模がでかすぎて引いた。不可侵条約がそれほど嬉しいのだろうか。どちらにしろ魔王は人間の国を侵略する気はなさそうだったが。

ていうかマジで婚約って何?どゆこと?もういいわ今日は何も考えずに酒飲んで寝よう。



……とまぁ、このような感じで、私の第二の人生、次なる波乱の幕開けである。


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