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レプリカント  作者: T
1/1

不条理

 プロローグ メランコリア

 僕はぼやける視界の中、手に人の体温を感じながらひたすら前に駆けた。後ろから銃声が聴こえてくる。

 なぜこんなことになったのか、混乱する意識の中で回想した。

 

「えーシャングリラは我々人類が最大多数の最大幸福を得る為に設計されている。理想郷シャングリラを創った方は誰かシュヴァルツ分かるか?」

「……エドワード様です」シュヴァルツは小鳥のような

 小さな声で答えた。

「正解、偉大なるエドワード様は第四次世界大戦後の荒廃した世界の中、理想郷シャングリラを創ったんだ」

 その後、授業の終わりを告げるベルが鳴り、生徒達は一斉に立ち上がり一礼をした。

「本日の授業はここまで、次回はエドワード様がシャングリラを創った過程を解説する。必ず予習すること」


 「おいシュヴァルツ、放課後俺のとこに来い!」

リーはそう言いながら僕の本を取り上げた。

 「…………いやだ」

「あん?俺が来いと言うんだから来るんだよ!!」

リーは手に持っていた僕の本を勢いよく床に叩きつけた。「はあ……」深くため息を吐きながら本を拾い丁寧に埃を払った。その後、淡々と歴史の課題に取り組んだ。

 講義資料や課題が一括管理されている情報端末の電源を切り、文庫本と一緒にバックに入れた。そして、放課後の教室の喧騒を後に廊下を歩いていると、唐突に腹に鋭い痛みが走り息が詰まった。腹を抱え前を向くとそこにリーがいた。

「まさか俺の約束忘れてないよな〜」拳を解き、僕の肩を荒っぽく叩いた。「……忘れてないよ」と僕は答え、廊下を歩くリーの背中を追った。


 「お前、FPだろ」廊下で突然リーが言った。

「……そうだよ」


 親は、健康で勉強や運動能力が優れている子供が欲しいというパーフェクトベビー願望がある。だが、旧時代はデザイナーベビーが非合法であったので、生まれてくる子供をパーフェクトベビーにすることができなかった。しかし、富裕層がデザイナーベビー合法化運動を始め、世界中に広がった。

 この運動を受け世界中の政府は、デザイナーベビーを合法化にせざるを得なかった。

 その後、富裕層を中心にデザイナーベビーが流行したが、

 デザイナーベビーの中で、欠陥児が生まれてしまった。欠陥児は二万分の一の確率で生まれ、一部の容姿や能力が欠陥していた。この子供達が生まれた原因はデザイナーベビーを設計するAIにあるとされている。この子供達はflawed person(欠陥がある人)だから、それぞれの頭文字を合わせてFPと呼ばれた。また、これらのFPや欠陥児は差別の対象とされた。

「俺達は完璧な人間だからお前は劣等人種なんだよぉ」

「……」

「だから俺に尽くすのは当たり前ぇ、財布出せ」

リーは僕のバックを奪い財布を強奪すると、五千ゼニー札を

盗り財布を投げ捨てた。

「…………」

黙ったまま僕は財布を拾い上げ、リーをあとにガラス張りの廊下を走った。すると、卵型の浮遊移動体が見えてきた。その移動体に学生証を当てた。「学籍番号VC5296シュヴァルツ様、地上まで快適な空の旅をお楽しみ下さい」と移動体はアナウンスした。

 雲まで伸びる超高層ビル《アルカディア》の上層部に僕が所属してる巨大なドーナツ型の学校が浮かんでいるのが、移動体の窓から見えた。

 アルカディアの一階、大広間についた。大広場の中心には理想郷シャングリラの全エネルギーを担う柱の様な紅いエネルギー体が見えた。このエネルギー体は大気圏まで天を貫いており、触れたものを蒸発させる能力を有している。その為、厳重な警備体制が敷かれており、警備員が立ち入るものがいないか眼光を鋭く光らせ警戒している。

大広場は歩くには骨が折れるほど広いため、瞬間移動装置が至る所に配置されている。その装置を利用することで直ぐに外に移動することが可能だ。

僕は最寄りの瞬間移動装置まで移動し、外に出た。その後、黒のフルフェイスのヘルメットを頭に被り、ポケットからカウンターのような物を取り出して、ボタンを押して道路に投げるとそこに漆黒の豹の様な荒々しいフォルムをもつバイクが現れた。

バイクに跨がり、少しスロットルを回しながらセルモーターのスイッチを押すとドルルルッとエンジン音がした。その後、スロットルを思い切り回し、爆音を響かせ電光石火のような疾さでアスファルトを駆けた。

理想郷シャングリラは地球温暖化や二つの世界大戦を生き延びた人類が荒廃した世界を再生しようとした複合都市である。

この複合都市は旧時代のソ連ほどの土地を有しており、反重力エネルギーを利用して宙に浮かんでいる。しかし、地表は捨てることができても格差は無くすことはできてない為、大半の貧しい者達は未だに地表で生活を営んでいる。また、貧しい者達はアルム《Arm》と呼ばれており、シャングリラ民《S民》とArmはお互いに忌み嫌っているため接触することがない。シャングリラ世界政府《SWG》は、Arm接触禁止令を発令し、特別な許可が下りない限り地表に降りることができない様にしている。その為、シャングリラの構造上どの移動体を利用しても地表に降りることができない。



 第一章 救済

 僕は学校が嫌いだ。

理由は二つある。一つ目は容姿が悪かったり運動神経が良くないだけで、僕に冷たい視線を向けてくる人々が多いからだ。

二つ目は、運動や勉強ができ、容姿が整っている人が殆どであり、エリート高校である。さらに、プライドが高い人が多い。

だから、先生や生徒達は僕を蔑ろにする。

しかし、苦労して入学した高校なので死んでも辞めるつもりはない。

「シュヴァルツくん何読んでるの?」

「……偶像の黄昏」

「難しそうな本読んでるねー本けっこう読むの?」とレイが笑っている。

「……そこそこ読む」

僕は親しみを持って関わってくれる人を初めて見つけた……。


 「カオス理論とは初期条件が僅かに変化するだけで後々大きな影響を及ぼすという理論である。この理論の寓意的な表現はバタフライエフェクトだ。これは蝶々《バタフライ》の羽ばたきがテキサスで竜巻を引き起こしてしまうことであり、些細な出来事が未来に大きな影響を及ぼすことを揶揄していることである。さらに……」

斜め後ろからリーの寝息が聞こえてくる。

「おい!リーは後で職員室へ来い!!」と怒気を含めたツォルン先生の声でリーは目覚めた。「は!?すんません……」

物理の授業が終わり、リーが下を向いたまま職員室に向かっているのを僕は見た後、本を取り出し読もうとすると「リー可哀想だね……」と心配そうな声でレイが話してるのが聞こえてきた。

 リーは弱々しく職員室のドアを叩いた

「失礼します、VA5301リーです。ツォルン先生はいらっしゃいますか」と覇気のない声でリーは言い、職員室を見渡すとツォルン先生が不機嫌そうな雰囲気を漂わせながら書類整理をしているのが見えた。「失礼します」と一礼し、リーは職員室の中に入ると、まるで終身刑が決まった囚人が牢獄に入るような足取りでツォルン先生の机まで移動した。

「ツォルン先生、すんま……」リーが頭を下げようとすると、

ツォルン先生は猛禽類のような目で彼を睨みながら怒鳴った。

「リーお前は、貴族出身者としての誇りはないのか!」

「ありますよ!」とリーは答えたが、ツォルン先生はバァンと机を叩くと「じゃあなぜ授業中寝るという失態を犯すんだ!」と叫んだ。

「すんません!!部活が遅くまであったので……」

「言い訳など聞きたくない。次、居眠りするとエドワード帝都大学の推薦を取り消す」静寂が支配している職員室にツォルン先生の冷酷な声が響き渡った。

「それだけは勘弁して下さい、ほんとすんませんでした」


 もうやめてくれ……とシュヴァルツはリーの執拗な暴力に耐えながら誰もいない放課後の教室で蹲っていた。

周りにはリーの悪友達がシュヴァルツを囲い込んでおり彼が逃げられないような包囲網を作っていた。

「リーやめとけよ〜泣きそうになってるんじゃないかぁ」

と腕に虎のタトゥーを掘っている男が嘲笑を浮かべながら言った。「いやいやこいつFPだからなにやっても大丈夫っす」

とリーは言い、僕をサンドバッグを殴る様にジャブを数回喰らわせてきた。

僕は口の中で鉄の味を感じながら朦朧とした意識を保っていると

「あんた達なにやってるの!SNSにこの現場拡散してもいいのね」とレイの声が聞こえ、意識を失った。

 目が覚めると真っ白な天井が見えた。起き上がろうとすると保健室の先生が穏やかな声で「まだ寝てなさい」と言った。

ぼろぼろの体でゆっくり階段を降りているとレイが僕の体を支えながら話しかけてきた。

「大丈夫?階段降りれそう?」

僕はゆっくり頷き、レイに支えてもらいながら階段を降りた。


 最近いいことが二つ起きている。一つ目は、あの日を境にリーは僕に一切関わらなくなったことだ。二つ目は、友ができたことだ。

「シュヴァルツくんお昼一緒にたべようよー」

「……いいよ」 

僕は登校中、行きつけの弁当屋で買って一人で食べてるけど

レイと出会って日常が変わってきた……。

「シュヴァルツくんは実家暮らし?一人暮らし?」

「……一人暮らし」

「一人暮らしなんだー大変そうだね!」

「……そうでもないよ、自由だし。レイは?」

そうだ、僕はFPだったので親に捨てられた。だから、一人暮らしをしているが、親から口座に多額の現金が毎月振り込まれるので生活には困ってない。けど、日々満たされない思いを抱えて生きている。

「私も一人暮らしだよー」

「……大変?」

「好きに暮らせるからそうでもないかなあ」

「……そうなんだ」


 平和な学校生活を送るなかで、この生活も悪くないと思い始めた。なぜなら、シャングリラ偏差値特定機構が二年に一回、シャングリラ中の高校生を対象に学力を測定する世界偏差値測定テストで三百万人中、八千五百二十七位という結果を残した。その為、周囲の人々から酷い扱いを受けることが無くなったからだ。

この頃は平和な日常がずっと続くとそう信じていた……。


 「…………!!」

ドンッとフルフェイスヘルメットが手から離れ、地に落ちていった。

僕は呆然とリーとレイが親しげに談笑しながら帰ってるところを目撃してしてしまった…………。

「リーくん今回のテストどうだったー?」

「楽勝だったわぁ」

「さすがぁー笑」

僕は自分の存在を悟られないようそっとフルフェイスヘルメットを拾い、激情を抑えながら静かに帰った……。




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