-1- ~宵越しの金を持ちたい~の後
「ぶはぁっ!!のどが乾いたわい。」
「長かったぁ~、さっきまで見てた内容に比べて話なげぇよ。」
「仰る通り、今までよりも長かったですね。 少々熱がこもってしまいました。」
全員「宵越しの金を持ちたい」の予想外の長さに驚いていた。
ウィッシュマン博士とおれはヘルメットを外したときに大量の汗が出ていた。
ウィッシュマン博士はすぐさま水を飲んでおり、ヘッドギアの通気性が課題だと言ってる。
「まぁ、俺らのヘルメットよりも先にNの熱処理をどうにかした方がよくない?
どっちもできればハッピーだけどなぁ」
実際このブックマスター機能の大元である、Nの方を改善してからじゃないとどうなるかわかんないってこともあるからなぁと思いつつ、ウィッシュマン博士に話した。
「ぷはぁ...。そうじゃのう、機能を追加することしか考えておらんかったわい。
この感じじゃと、これ以上長いのは見れないのぉ。
なんとかするしかないのぉ。快適にもしたいしの。」
ウィッシュマン博士は水を飲み終えて、Nの頭部を軽く触りつつ悩んでいる様子でぼやいた。
「博士、頭部の構造ですが、一部このように変更していただければ排熱が今よりも良くなります。
このように変更していただけますか?」
博士のぼやきを聞いてなのか、Nが自ら博士に提案をした。
「おぉ、いいのぉ いいのぉ。 これならすぐにできるじゃろ。」
ウィッシュマン博士はすぐにNが提示した設計図を元に、Nの排熱部品を作り始めた。
1時間もしないうちに、作り終わりNに部品を取り付けた。
相変わらずの手際の良さで、ついでにって言いながら自分たちのヘルメットも改造してくれていて、仕事の速さに本当に舌を巻いてしまう。
部品もろもろの取り付けまで終わり、一息をついた後、ウィッシュマン博士は意気揚々とグリモを持ってきて、おれらにクリクリな目をキラキラさせながら見せてきた。
「どうじゃ! 次はこれ見たいんじゃがいいじゃろ? えっと...わしの番じゃし...」
段々と申し訳なさそうな感じで博士は言ってきたのを見て、ほぼ博士が作ってんだからもっと図々しく言えばいいのにとさえ思った。
「なんで自信なくなんだよ!
自分で直したりしてんだから、見たいもん見なって。
博士の見るもんにイチャモンつけるほど野暮じゃねぇよ」
Nもおれの言葉を聞くなりうなづいて見せた。
それを見て博士はほっとしていた。
博士が持ってきたグリモの題名を見ると
「伝説の武器の作り方 -創刊号-」
博士の趣味丸出しなのはすぐにわかった。
申し訳なくなったというよりも、自分の趣味を晒すのが恥ずかしかったから、徐々にトーンが落ちたんだとわかった。
実際Nもおれも博士の趣味を聞いたところで冷やかしなどするはずもなく、純粋にこのグリモをブックマスターに入れると、モノづくりの過程も実際に映像として見れるのか気になっていた。
というわけで、早速ブックマスターを使う準備を始めた。
ヘルメットを装着すると、新部品のおかげなのか、今までの空気がこもっている感がなくなり、新鮮な空気が巡っている感じがしてとても快適に感じる。
「すげぇな博士、めっちゃ快適だわ」
「そうじゃろぉ、この快適感を生み出してるのはのぉ...
あ、今はかぶってしまって見えないんじゃが、外側のな?ファンとなる部分を鉄板じゃなくてのぉ、スライム板にしてるんじゃよ。そのおかげで空気の循環だけじゃなく機械温度の上昇を抑えることに成功しておるんじゃよ。
さらに接続部分の...」
「ス...ストップ!!ストップ!!
すまねぇけど、これ以上言われても正直頭に入んねぇ。
快適なことは十分感じてるから、早くグリモ見ようぜ。」
博士の解説がめっちゃ長くなりそうなことを感じたので、話を中断してグリモを見るように促した。
「む。そうじゃったわい。 語るよりもやることがあるわい。
というわけで、待たせてすまんのぉ、N初めてくれい」
博士がそう言うと、待ってましたと言わんばかりに、すでにブックマスターの機能は完了しており、すぐさまビジョン機能が実行された。
いつも通りのカウントが完了すると、目の前には一つの炉があり、鍛冶場が映されていることが分かった。
炉の中には火がともっており、そのせいか部屋の中全体も熱くなっているような気がしてきた。
その炉の近くには一人の鍛冶職人っぽい人がいるのだが、顔などはぼやけていて、輪郭ぐらいしかわからなかった。
しばらくすると、目の前にこれから行われる作業の工程と思われる説明文が上から流れてきた。
ほとんど何言ってるかわからなかったが、説明文の後ろで、鍛冶職人が手を動かし説明文の内容にリンクするように作業をしてくれたおかげでギリギリ内容はわかった。
鍛冶職人が持っている小さなハンマーをこれから刃になるであろう部分に叩いているシーンは音も相まって迫力がすごかった。
よくよく見るとその小さなハンマーには彫刻が施されており、刃をたたくほど彫刻部分に赤みがかかっていた。
最終的にはその彫刻が龍の形をしているのがくっきりとわかるぐらい赤々と光っているように見えた。
その光を見てなのかわからないが、博士がボソッと「龍槌…」とつぶやいていたが、その単語だけしか聞き取れなかった。
とりあえず、彫刻が浮かぶなんておしゃれなもん使ってんなぁと思って見ていた。
さらに工程は進んでいき、作っている剣の形が分かってきたのだが、予想以上に禍々しい形をしている剣が出来上がりそうだった。
その禍々しくとげとげとした形の剣を見てちょっと引いてしまっていたが、博士はずっと小声で「ほぉ...」「いいのぉ...」と言い続けていた。
そうこうしているうちに、剣は出来上がり、禍々しい形の剣を嘗め回すような映像に切り替わった。
その剣は妖艶な光を帯びており、剣の形状も刀身から7つの鋸歯状の突起がでているような形をしていて、どうやって相手を切るのかが想像できなかった。
博士曰くこの剣は切る用ではないということだったが、いまいちピンとこなかった。
そんなこんなで博士が満足するまで剣を鑑賞した後に、機能が終了された。
ヘルメットを外すとそこには満足そうな顔をしている博士がいた。
「納得いく内容だったみたいでよかったじゃん。」
「本当にそうじゃのぉ、あの素晴らしい鍛冶師の腕に出来上がった剣の仕上がり。
グリモで読むのと、映像で見るのとでは全然違かったからのぉ」
博士は落ち着いたような口調で言ってはいるものの、興奮していることは鼻息の荒さで明白だ。
「やっぱそういうもんなんだなぁ。
おれはほとんどわかんなかったけど...ちなみに、なんであんな形なの?あれじゃ切れなくない?」
「あの剣はのぉ。雷神剣といって、何かを切るのが目的ではないんじゃよ。
雷を呼ぶのがあの剣の目的なんじゃ。」
「雷を呼ぶ...? さすがに実現できないんだよね?この質問がちょっと恥ずかしいけど...。」
博士が興奮してたことからてっきり作れるものとして映像を見ていたが、雷を呼ぶという話を聞いて、にわかには信じられなかった。
「ん? あれは実際に作れるものを紹介してるんじゃぞ。
ということは、あれで雷を呼ぶことも可能ってことじゃよ。」
「うそでしょ? どこのファンタジーだよ。」
「ほっほっほっ、これが嘘じゃないんじゃよ。
あの映像にあった小さなハンマーがあったじゃろ? あれがあれば作ることは可能なんじゃよ。
あれば...じゃけどな。」
博士は最後にしょんぼりしていったのを見ると、その肝心なハンマーが手元にないのはすぐにわかったが、そもそも本当にそのハンマーが存在するのかが疑わしかった。
「ってことは、ハンマーって存在すんの? もしなかったら結局ファンタジーなんじゃない?」
「ノッペ様、ハンマーは存在いたします。 ウィッシュマン博士の書斎にこの惑星の過去の文献らしきグリモがございました。 その中に、いわゆる魔術のようなものがいくつか記載されており、さらに、先ほどのハンマーについても詳細に記載されておりました。
あのハンマー自体はもともとは特殊な鉱石から作られたハンマーではあるのですが、あの龍の彫刻が彫られることによって、伝説の武器に類似した武器を作成することが可能になります。
ここからは実物をまだ見ていないので、確証はございませんが、彫刻自体が術式となっており、熱と一定の圧力によってその術式が発動されるようになるのではと予想されます。」
「へーまじであんだ...って、いやいやいやいや、違う違う違う。
魔術? え?魔術ってほんとにあんの?」
「ございます。この場合、私に記録されている物理法則に当てはまらないもののことを総称して魔術と言っております。
実際に、こちらのグリモを参考に水を生み出す機構はできているようでして、現在この街で不自由なく水が使えているのは魔術のおかげと言えるでしょう。」
パニックになった。ずっと井戸は地中深くまで掘ってるもので、魔術と関係ないものだと思ってたから、こんな身近に魔術が使われているとは思わなかった。
「質問ばっかりになってまじで申し訳ないんだけど、なんで、魔術使ってるってわかるんだ?
普通の井戸ってことはないのか?」
「普通の井戸ではございません。私の無事だった機能の1つ、センサー機能の一部を使えば大体の地形やこの地下に何があるかはわかります。
その機能を使って、井戸の下を確認したところ、水が流れているということはございませんでした。
更に申し上げますと、あの井戸ですがほぼ掘られていないです。通常であれば10メートル、数十メートルが妥当なのですが、ここは3メートル掘られてそこに水を生み出す機械が埋まっている形になっております。」
「えーーーーーーまじかぁーーーー。
ってことは博士がその機構というか機械作ったの?」
全然気づかなかった。
その機械を作ったのは、グリモも持ってるし博士だと思うが、もしそうならハンマーも作れるんじゃないかと思ったので、聞いてみた。
「それがのぉわしじゃないんじゃよ。
わしがこの街に来る前から井戸はあったんじゃよ。グリモは中古ショップの玄さんのとこで買ったんじゃよ。
ただ、Nに言われて井戸を見て、水の魔術があることは確認できたから、龍槌もあると思うんじゃよなぁ。」
博士はそう言うと、ぼそぼそとつぶやきながら考えこんでしまった。
そんな感じで、その場にいる全員が徐々に余韻にひたるような雰囲気になりかけていたのだが、ふとあることを思い出して声をかけた。
「まぁとりあえず、一旦みんなが見たいものを一通りに見た感じだよな。
すっかり忘れてたけど、探索に行く準備しないとじゃない?」
そう探索だ、読む前に探索をするって言って、グリモを読むのに夢中になってしまっていて忘れていた。
「そうじゃったわい。すまんが、1ピニ後にまた集合でどうじゃ?
準備自体はすぐに終わるはずなんじゃが、点検しておきたいものがいくつかあるからのぉ。」
「オッケー、了解。ちなみに、今回ってNも同行すんの?」
「そのつもりじゃよ。
まぁ初めての探索ってことじゃし、あんまり危険度は高くない場所に行く予定じゃよ。」
「了解、そんじゃ、おれも探索用に買い物して準備しておくわ。
んじゃ、1ピニ後にねー」
「おう。そっちも準備を頼んだぞぉ~。」
そうして手を振りながら、博士の家を後にした。
とりあえず、翌ピニ(明日)のために物資の買い出しを行った。
食料に各種探索に必要であろう備品を買って、帰路について寝た。
ピニの鳴き声で目が覚めると、すぐに探索の準備に入った。
いつものようにバケツみたいなヘルメットをかぶって、めちゃくちゃ長いスカーフをヘルメットと服の隙間をなくすように巻き付けた。
靴も昨ピニのような軽い靴ではなく、ごつごつした重めの靴を履いて、長袖長ズボン、厚手の手袋と重装備で部屋を後にした。
昨ピニに買った物資が入ったバックを片手に持ち、下の階のウィッシュマン博士の家に入ると、すでに準備が終わっていそうなNと、今回の探索で使うであろう装備をカチャカチャといじっている博士がいた。
「よーっす。備品もろもろ持ってきたよー。」
「おう来たか。 装備の方の準備はあと少しじゃ。
これをこうして......こう...じゃ!
よしっ! これで準備完了じゃ。」
博士はそう言うと探索で使うであろう大量の装備を荷車に載せて、家を出た。
Nの恰好だったが、おれのつけているスカーフと同じようなものを付けて機械の体を隠すように首から巻き付けていた。届かない足の部分については砂と同系色のズボンをはいて極力機械の部分を見えないようにしていた。
「Nは動きづらかったりしないの?」
「いえ、動きについては特に支障はございません。
こちらのズボンについてですが、私の脚部の素材とあっていて、変に布が引っ掛かったり、巻き込まれたりということが起きないので、大変ありがたいです。」
Nが嬉しそうな口調で話しているものの、またもやしれっと作っている博士に少し引いてしまった。
そのあと、装備についてや探索について軽く話しているうちに、博士の所有している倉庫についた。
倉庫の中に入ると、そこには木製の小型の船があり、船の下の部分はゴムボートの周りの部分ようにゴムを膨らまして船用の浮き輪みたいな形で船の下部分を取り巻いており、内部にはファンが付いていて、そのファンによって、船体が浮くように作られている。
この下の部分のおかげで、船はホバー状態となって、砂漠など陸地での走行が可能になっている。
船の上の部分には大人が多くて10人は乗れるほどの広さがあり、その中央には操舵室があった。
操舵室には扉があり個室になっている。
座席は1つだけで、計器類が多数舵の周りに設置されていた。
このままだとNとおれが野ざらしになるので、今後のことも考えて、座っていられるように操舵室の壁を利用して凸状の形になるように、新たに壁と座席を設置をした。
ちなみに、この船のキャビンは大きくなく、荷物を入れる用途以外には使えない大きさである。
また、船の内部の大部分は、エンジンルームとなっており、操舵室と、船首側のデッキ部分にエンジンルームに繋がるハッチが付いている。
エンジンルームには基本ウィッシュマン博士しか入らないが、たまにおれも入って手伝うことも在る。
船尾には、この船体を動かすためのプロペラが付いており、ファンで船体を浮かして、このプロペラで船を動かしている。
「この前Nを回収するときに、ホバーシップ使えばよかったわ。」
「ふん、整備が出来てなかったんじゃから、ダメに決まっとるじゃろ。
それに、またわしの装備とかが壊されたらたまったもんじゃないからのぉ。」
ウィッシュマン博士に鼻で笑いながら言い返された。
いまだにだいぶ前にやらかしたホバーカー爆破【事故】のことを根に持っているみたいだ。
この話は触れる機会があれば、その時にでも...(たぶんない)
その後、だらだらと話しながら食料などの荷物をキャビンに入れ、準備がすべて整った。
3人とも船に乗り込むと、博士は操舵室に入り舵の真ん中にあるスイッチをONにした。
すると、
ブオオオオオオーーーーン
と鈍く腹に響くような音が鳴り、船体が浮いたのを感じた。
「ほんじゃ、いくぞぉい」
博士がそう言うと舵の右横にあるレバーを軽く引いた。
そうすると船は少しずつ前に進んでいき、船は倉庫を出て通りに出た。
通りに出ると、通行人に出会う度にどこに行くのかと声を掛けられるので、最初は軽く答えていたのだが、だんだんと答えるのがめんどくさくなったようで、博士は船に備え付けている拡声器に向かって「近場の遺跡に向かう~」と一言言った。
その声は録音されており、定期的に「近場の遺跡に向かう~」という博士の声がスピーカーから聞こえるようになった。
そのおかげもあってか、こちらを見て手を振る人はいるものの、声をかけられることはなくなった。
そんなこんなでこの街にある唯一の関所につくと、肌は薄水色で筋骨隆々の3メートルはありそうな一つ目の男が船の前に立ちはだかった。
「あんのぉ遺跡にぃいぐんだがぁ?」
大男は低くゆったりとした口調で、博士に向かって尋ねた。
「そうじゃよ。おまえさんもいつもご苦労なこって...ほれ、いつものじゃ。」
博士は窓から顔を出して、大男にお弁当箱を投げて渡した。
大男はあたふたしながらも、受け取ると嬉しそうな顔をして道を開けてくれた。
「気ぃつげでなぁ~~~」
大男はそう言って船が門を抜けた後も見えなくなるまで、満面の笑みで手を振って見送ってくれていた。
「あいつも毎日偉いなぁ~」
「おまえさんも少しは見習ったらどうじゃ?」
「やかましいわ。人それぞれなんだからいいじゃねぇかよ。
おれはダラダラしていたんだよ!」
「ノッペ様、適度な運動は大切なことですよ。」
「...N...お前に言われると一切言い返せなくなるからやめてくれ...」
Nに正論をたたきつけられて、メンタルにダメージを負った。
ただ、毎日検問やってて偉いって言っただけなのに...
そんなこんなで、ホバーシップは関所を抜けて、砂漠を進んでいった。
砂漠を走行中、サンドワームの大群に遭遇して、肝が冷えたが、博士が持ってきた「避け笛」のおかげで、船を丸吞みされることなく目的地に到着することができた。
「マジで、肝が冷えた。」
「はい、私もこれまでかと思い、入れてきたグリモの世界に逃げ込んでいました。」
「嘘だろ!?現実逃避すんじゃねぇよ!
Nの情報頼りにしてんだから頼むって!!」
まさかロボットが現実逃避をするとは夢にも思わなかったけど、AIは発達すると、ここまで意思を持つんだなぁとしみじみと感じた。もう人じゃんね。
「ほっほっほ、Nはわかるがノッペは相変わらず慣れんのぉ。
笛があるのはわかっとるじゃろ。」
「え~あんな光景一生慣れねぇよ。
うねうねしてんのがうじゃうじゃいて、この船の10倍はあるやつもいるんだぜ?
毎回見るたんびに寿命が縮んでるわ。」
そう言って、さっきのサンドワームのことを思い出してまた身震いした。
その後しばらく砂漠を走っていると、博士が唐突に口を開いた。
「そういえば、井戸の話をしていたじゃろ?
その時にメートルって言っていたと思うんじゃが、なんじゃ?
マルモルのことか?」
そういえば、メートルって単位使われてないんだよな。使われていないっていうよりも、そもそもないってのが正しいんだけどさ。
そもそも、本って単語もないし、こういう言語の違いって面倒だよなぁ。
「そうそう、1メートルが1マルモルってことで、細かく言うと1センチが1マル、1ミリが1モルで、1キロのことを1メルっていう感じだなぁ。」
「ほう~よう知っとるのぉ。
柄にもなく知っとるのぉ、グリモでも読んだんか?」
「あぁだいたい、そんな感じだよ。」
博士からの絶妙なパスのおかげで、適当にはぐらかせた。
博士がわかってて言ってんのかはわかんねぇけど、まぁ説明が省けんのは楽でいいよなぁ。
「すみません。マルモルやメルとは話の流れ上、長さの計量単位のことを表していると思われますが、あっておりますでしょうか?」
まさかのNからの質問だったので、博士と二人して驚きはしたが、普通に考えて、この星全体でこの単位が使われている訳じゃないから、当たり前っちゃ当たり前なのかもしれない。
とりあえず、あの街では使われていることを伝えればいっか。
「あってるあってる。あの街じゃ、マルモルっていうマルっていう生物と、モルっていう生物が合体した生物を使って長さ図ってんだよ。あいつらすげぇ大人しいし、サイズが全部同じっていうことで、使われたんだって、だいぶ昔の話らしいけど、詳しい起源まではわかんねぇや。」
「そうだったんですね。データベースに追加しておきます。ありがとうございます。」
「最低限の知識はあるようでよかったわい。」
博士からため息をつかれながら言われたが、おれはなんだと思われているんだろうか。
「ほれ、ぼーっとするんじゃないわい。
目的の遺跡につくぞい。」
博士があごで目的地の方向をくいッと示すと同時に、ぼんやりと建造物らしきものが見えてきた。
建造物にある程度近づくと、博士は船を停めて、船の外に出た。
博士に続いて、Nと俺も外にでると、砂漠の中なのに嘘のように爽やかな涼しい風が吹いていて、とても気持ちよく、さらに、この遺跡の周辺には草木も生い茂っていて自然豊かな場所になっていた。
遺跡と言って想像するのは、建造物は石造りで茶色っぽく苔がちょっとくっついていたり、ある場所が崩れているというものなのだが、コンクリート造りの建物で、想像するような遺跡とは違うものだ。
外から見ると高さがある中央のドームを中心に、左右対称に並ぶ2つの翼がある形状をしている。特に中央ドームが高いために、二階建てにもかかわらず建物自体は大きく見える。
中央のドームの頂上は風化して一部が崩れてしまっていた。
よくよく見てみると左右の建物も外壁にひび割れや崩れている部分もあった。
中央のドームから中に入るとエントランスのようになっており、そこから左右に建物が伸びている構造になっている。
内部の造りは木造のようで、ところどころ木が腐っていて、崩れている部分がちょくちょくあった。
また、ドームの崩れた部分から種が入ったのか、中にも木や草花が生えている。
晴れているおかげで趣があるが、暗いタイミングで中に入ったら違う意味で趣がありそうで怖くなった。
そもそもなんでこの場所が遺跡として認識されているのかというと、建物が老朽化されていることはそうだが、この星では珍しいコンクリートを使った建造物なのと、グリモや珍しい部品などがちょくちょく発見されるため、遺跡として扱われているみたいだ。
おれらもこの遺跡と街との距離が近いから割と重宝している。
それに不思議なことに、来るたびに今までなかったグリモや部品を毎回見つけることができるため、定期的にこの遺跡には探索で訪れることにしていた。
「はてさて、今回は何があるんかのぉ」
手ぐすねしながらエントランスから右側の方を探索に向かおうとしていた。
右側の方にはよく部品が落ちているため、博士はそれが目的なんだろう。
「おれはグリモ見てくるからあっち行ってくるよ。」
そう言って、博士におれが行く方を指さしてジェスチャーした。
「おう、床踏み外してはまるんじゃいぞぉ
N、おまえさんはどうする?部品見に来るのも、グリモを見に行くのでもどっちでもいいぞ。」
「そうですね。それでしたら、グリモの方を探したいと思いますので、ノッペ様の方に同行させていただきます。」
「こっち来るなら、その辺足元に気をつけてなぁ!」
既におれは左側の方に進んでいたが、Nがこっちに来るっていう声が聞こえたので、Nに向かって呼びかけた。
Nはおれが指摘した部分を一瞬確認するとどこが危ないのかがわかっているかのようにスイスイと歩いて、おれに追いついた。
...ですよねぇ。井戸のこととかも見れたりするんだから、こんぐらいは問題ないですよねぇ。
そうして、Nと二人で左側の建物の通路の奥にある木製の扉から部屋の中に入ると、大量の本棚が置かれており、いくつかの本棚は倒れていて、その周辺にはグリモが散乱していた。
Nは散乱しているグリモを一冊ずつ確認するみたいで、しゃがみこんでグリモの中身をぺらぺらとめくり始めていた。
おれは部屋の奥の方に歩いて行って、新しいグリモがないのかを探すことにした。
しばらくグリモを物色していると、Nに呼びかけられた。
呼びかけられた声のする方を向くと、そこにはNが両脇にグリモを抱えて立っていた。
「ノッペ様...これはいったいどういうことなのでしょうか?」
Nはそう言うと、持っているグリモをおれのほうに見せるように床に並べた。
並べられたグリモをざっと見ると、どれもこの星にはない情報誌だった。
以前来た時に博士が「別の惑星の情報誌じゃろ。今は興味ないわい。」と言って、放置していたのを思い出した。
「この遺跡って言ってる場所だけど、なんでそう言う扱いされてんのか知ってる?」
「いいえ、存じ上げません。」
「そうだよなぁ。」
そう言って、しっかりと説明するために倒れている本棚を椅子にして、Nに向き合うようにして説明を始めた。
「まずはこの建物なんだけど、この惑星の建物じゃないんだよね。
もちろん建物だけじゃなくて、この建物周辺の植物とかもこの星の植物じゃない。
ということは、このグリモ...本もこの星のじゃないし、博士が拾いに行った部品とかももちろんこの星のものじゃないのよ。」
「部品や本だけがこの惑星に落ちているということは考えられたのですが、建物...いえ、この土地が丸ごと違う星のものというのは、どうなっているのでしょうか?」
おそらくNはずっと考えているみたいで、顔の画面にピコピコと小さい□(シカク)が複数白く点滅していた。
「あんまり科学的なことについてはおれも詳しくないから説明できないんだけど、
なんだっけ...空間溜まりって言って、ほかの星とこの空間が一瞬繋がって、何かしらの物質とかがこっちに送られるんだってさ。
この星自体、そういう空間はちょくちょくあるらしいんだよ。
ただ、この規模の空間はめったにないんだってさ。
まぁ、だから遺跡なんていわれるんだけどね。」
「なるほど、その空間溜まりのおかげで、この遺跡周辺は気温などの環境が砂漠と違っているということなのですね。
この空間溜まりの原理はまだよくわかっていないのでしょうか?」
「あ~それね。この空間溜まり自体がなんでできたのかはわかってないんだってさ。
ただ、物質が移動するこの空間の原理自体はわかっていて、その原理を応用して宇宙船の惑星間航行に使われているってのは聞いたことあるわ。
ちなみに、この空間溜まりについての研究は、モノづくりにあんまり関係ないからってことで博士は研究する気ないって言ってたわ。」
以前博士から聞いた話を思い出して、Nに伝えると納得したみたいで、別の話に切り替わった。
「たしかに博士はモノづくりにしか興味ありませんね。
それなら研究されないのも納得です。
それよりも惑星間航行ができるという事実に驚きです。
私のデータにもないので、アップデートが必要ですね...今度その技術資料などあれば見せていただきたいです。
この辺にはそう言った内容のグリモが見当たりませんできたので、見せていただけると幸いです。」
「たしか博士の部屋にあったはずだから、今度探しとくよ。
ここら辺にあるグリモは全部別の星のグリモで、ファンタジー小説とか、観光案内本ばっかりで技術的なグリモはほとんどないからな。
ただ、この遺跡ではありがたいことに、読めないグリモはないからラッキーなんだけど、たまにおれや博士が読めないグリモも別の場所を探索してるとあるから、その時はNに協力してもらうと思うわ。」
「わかりました。その時は喜んで協力いたします。
もしかすると、私の生まれに関することが書かれているかもしれませんし」
Nと今後の話をした後に、Nが持ってきた情報誌をペラペラと読んでいると、Nは先ほど見せてきたグリモとは別に3冊のグリモを持ってきた。
「ノッペ様...ノッペ様はこのグリモを読んだことはありますか?」
そう言うとNは3冊のグリモをおれに手渡してきた。
手渡されたグリモの表紙を見たが、今まで読んだことのない題名だった。
「これは読んだことない...ね。どこにあったの?」
「先ほど漁っていた場所と同じ場所なので、この部屋に入ってすぐの場所の本棚に3冊並んでおいてありました。」
まじか...今まで部屋の奥にしか新しいグリモはなかったのに...
部屋に送られるパターンもいろいろ変わるってことか。
「ちなみに、Nはこのグリモ読んだの?」
そう聞くとNは首を振りながら答えた。
「もしノッペ様が読んでなかった場合を考えて、まだ読んでおりません。
読んでないとのことなので、持ち帰るかの検討として一緒に冒頭だけご覧になりますか?」
Nはそう言うと後頭部の首付け根にある、ケーブル接続用の穴を見せてアピールしてくれた。
「そうだな、内容が気になるようなものだったら、持って帰るってことで、一旦冒頭だけ見るか。
博士には悪いけど、問題なければ後で一緒に見ればいっか。」
持ってきたバックの中から、船に乗っているときに博士に渡された装備の1つを取り出した。
「さすがに探索にあのヘルメット持ってくるのは壊れたりしたら怖いから持って来てないんだけど、簡易的に見れるディスプレイを博士が用意してくれてんだよね。」
と言いながら、ディスプレイをちょうどよくおける場所において、ディスプレイから伸びているケーブルをNに渡して、N自身に接続してもらった。
「ヘルメットの代わりとのことですが、このディスプレイも壊れたりするのではないのですか?」
と置かれたディスプレイを見て、おれに聞いてきた。
「ヘルメットと比べて、しっかりと耐久性を持たせてるっぽいから簡単には壊れないらしいよ。」
「それなら今後の探索でもその場でグリモを見ていくことができそうですね。」
Nはちょっとうれしそうな様子で言ってきたので、自分だけ機能を使うことに後ろめたさを感じていたのかなと思いつつ、準備が完了したので、その旨をNに伝えた。
「まぁ、今回見てみて画質とかに問題なければ今後の探索にも持っていくことになると思うなぁ。
すぐに中身を一緒に見れるのは、割と重宝しそうな気はしてるけどね。
そんなこんなで、準備完了したからプロローグ部分を見ていきましょ。
よろしくね。」
「はい、それでは実行していきますね。」
Nはそう言って、グリモを1冊頭の中に入れて静かになった。
少しすると、ディスプレイに映像が流れ始め、Nが声をかけてきた。
「ブックマスター機能は完了しましたので、共有を始めますね。」
「うん、よろしく。ちなみに体調とかは大丈夫そ?」
「はい、良好です。ディスプレイ側への出力も特に違和感はありません。」
「よかったぁ~。これでなんか調子が悪くなったとかあったらシャレになんねぇからな。」
ホッと胸をなでおろして、Nに言うも
「博士が作ったものなので大丈夫ですよ。」
とNの博士への信頼は厚いようで、まったく動じず、優しい口調で諭された。
まぁ、おれが作ったものとか、そこら辺の部品を付けるとかよりは信頼できるのは確かだし、なんか言うつもりもないんだけど、なんかそういう信頼関係ができていることに、ちょっと嫉妬するわ。
なんもしてないやつが抱く感情でもないんだけどさぁ。
とかなんとか考えていると
「それでは、ノッペ様始めますね。」
と言われて現実に引き戻された。
「ごめんごめん、ちょっと考え事していたわ。
うん、はじめて大丈夫だよ。」
「承知しました。それではビジョン機能と、共有機能を開始いたします。
今回のグリモは「ぼくの希望は世界の絶望」となります。」
Nがそう言うと、ディスプレイにグリモの内容の映像が映し出されたのであった。
---Project N -1- ~宵越しの金を持ちたい~の後 end