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世界で一番白いカラス

作者: 七代金平

昔々、まだ人間と動物が明確に分かれていなかった時代に、一羽のカラスがいました。


カラスは特別きれい好きと言うわけでもなかったのですが、ほかのカラスよりも、周りの人間たちよりも多く自分の体を洗い流していました。


ある日仲間のカラスが言いました。「どうしてそんなに体を洗うんだい?」


カラスは答えました。「僕は誰よりも白いカラスになりたいんだ。」


仲間のカラスは納得したように頷きます。カラスたちは自分の色がよくわかりません。しかし、近くに住む人間たちが自分を黒い鳥と呼ぶのを知っているので、なんとなく自分が黒いことを知っていました。


また、カラスたちは頭も良かったので、水で汚れが落ちることを知っています。きっと自分たちの色も汚れと一緒に落ちると信じていたのです。


「しかし、なんで白いカラスになりたいんだい?」


仲間のカラスが訪ねます。カラスは答えました。


「僕と仲の良い人間が白いカラスを見たと騒いでいたんだ。雲のように澄んだ、綺麗な白いカラスだったそうだ。その人間は正直者で心優しく、僕らみたいなものにも笑顔で接してくれるんだ。僕は彼がウソをつかないことを知っている。彼が見たと言うなら見たんだ。」


仲間のカラスにもその青年に心当たりがあったようで、何度もこくこくと頷きました。


「でもね、周りの人間は彼を信じていないんだ。見間違いだとなだめるならば僕だってこんなことしない。でも僕は聞いたんだ。そんなウソを言って気を引こうって言うのかってさ。彼はすごく悲しそうな顔をしていた。それで僕は頭に来ちゃって、彼の言うことを本当にしようと思うんだ。」


「それはいい考えだ。」


仲間のカラスは少しうれしそうでした。そして、カラスに協力すると言いました。


「僕が人間の住む場所に行って、綺麗に、白くなる方法をたくさん聞いてくるよ。きみは今までのように体を洗い続けながら、僕の持ってきた方法を片っ端から試せばよい。僕らには色が分からないから、いつ白くなったかなんて気づけない。けど白くなった時に周りが騒いで気付けるはずさ。」


カラスは仲間のカラスが味方になってくれたことをとてもうれしく思いました。何度も何度もお礼を言い、仲間のカラスは人間のもとへ、カラスは引き続き体を洗い続けました。


数日後、仲間のカラスが木の実を持ってきました。


「これを食べると少し白くなるらしい。」


カラスは少しつまんでみましたが、あまりのまずさに吐き出しそうになりました。しかし、これさえ食べればあの青年がウソつき呼ばわりされなくなるかもしれないと思い、我慢して食べました。


体中にどろどろとした果実の汁が回りだす感覚に耐えながら、何とか食べ切ったカラスは、人間たちがよく水を汲みに来る川で水浴びに行きました。


そこには青年の姿はありませんでしたが、青年のそばによくいる人間たちが魚を釣っていました。


人間たちは魚を横取りをすると思ったのでしょう。石を投げつけてきました。


「僕は魚を捕りに来たんじゃないよ。僕を見て、何か思わないかい?」


それを聞いた人間たちは、石を投げるのをやめ、カラスをじっと見つめます。


一人がハッとした顔をして言いました。


「ずいぶん羽が綺麗だね。宝石のような光沢だ。」


カラスは残念に思い、住処へと帰りました。


数日後、仲間のカラスがごわごわとした毛玉を持ってきました。


「人間たちはこれを使って様々な汚れを落としていた。きっと君の色も落としてくれる。」


カラスは喜んでそれを咥えると、器用に体中を満遍なく洗いました。


そして人間たちがいる川へ向かうと、羽を大きく広げて体を見せつけました。


「どうだい、随分と綺麗だろう。」


人間たちはチラリとカラスを見て答えました。


「ああ、綺麗だよ。魚を捕るのに邪魔だから、どこかに行ってくれないか。」


カラスは頭が良いので、それが心の底から言った言葉ではないことにすぐ気づきました。肩を落としながら住処に帰ったカラスは、それでもその毛玉で自分の体を何度も洗いました。


また数日後、仲間のカラスは火の付いた木の枝を持ってやってきました。


「この煙を体中に当てると、綺麗になるらしい。」


カラスは煙でむせながらも、なんとかして体中にあてました。


そしてまた人間たちが来る川に行き、自分の変化を聞きました。


すると、人間たちはカラスが魚を捕りに来たのではないと知っているはずなのに石を投げつけてきました。


「どうして石を投げるんだい。僕は魚を捕りに来たわけではないよ。数日前、羽を誉めてもらったあのカラスだよ。」


人間は答えました。


「その羽からする匂いはわが村の特産品である香木の匂いだ。さてはお前、盗んできたな。」


カラスはそんなことを知らなかったので、謝りました。そして、お詫びとして代わりに魚をたくさん捕って渡しました。


住処に帰ると仲間のカラスにお願いをしました。人間たちが大事にしているものは僕たちも大事にしよう。人間たちのものは盗らないようにしよう。


仲間のカラスはカラスに謝り、もうしないことを約束しました。


その次の日から仲間のカラスは住処に帰りませんでした。カラスは僕と顔を合わせるのが気まずいのかと思い、申し訳ないことをしてしまったかもしれないと思いました。


その間もカラスは毎日毛玉で体を洗い、周りの人間には「少し茶色のような色になってきたね。」と言われました。茶色とはなにか分かりませんでしたが、黒ではなくなってきたのは良い兆候だと喜びました。


数十日後、仲間のカラスが小さな石ころを咥えてやってきました。しかし、カラスはそんなことよりも仲間のカラスがボロボロで怪我をしていることに大きく驚きました。ところどころの羽は抜け、足がおかしな方向に曲がり、お尻からは排泄物と血が混じったものを出していました。


いったい何があったのか尋ねると、仲間のカラスは息絶え絶えに答えました。


「人間たちがここから遠く西にある山の上にはこの世のどんなものよりも真っ白な石があると話していたんだ。その石は周りに影響を与え、近づくものを白くするそうだよ。これをお食べ。きっと白くなれるんだから。」


そう言うと仲間のカラスはがっくりと力を抜き、そのまま動かなくなってしまいました。


カラスは泣きました。僕のためにたくさん力を貸してくれたのに、僕は何も返せて上げれていない。激しい後悔に襲われました。


一通り泣いたカラスは、その石を飲み込みました。すると体が怠く、元気は無くなりました。


しかし、不思議と体がスース―とし、気怠いのに体は軽く感じました。


きっと色が抜けたんだ。カラスは嬉しくなり、どこか違和感のある羽を思いっきりに広げて人間のいる川へと羽ばたきました。


いつものように魚を捕っていた人間に、今日は自分の変化を聞きせんでした。何も言わなくても勝手に気付いて何か言ってくる。カラスはそう信じて人間たちの少し上をぐるぐると飛び回りました。


カラスに気付いた人間は、カラスに聞きました。


「大丈夫なのか。具合が悪いのか。」


カラスはおかしなことを聞くなあと思いながら、話すために地上に降りました。


「体調じゃなくて体色に言及してほしいね。今日の僕はいつもと違うだろう。」


人間たちは頷き、こう言いました。


「ああ、羽がところどころ折れて、しなびている。一体何があったんだ。」


カラスは驚き、水面に映る自分の姿を確認しました。羽はところどころが落ち、色は斑のように一部だけが薄くなっているようでした。そこで自分が、青年の言ったような白いカラスでも、済んだ色をしたカラスでもなくなっていることに気付きました。


カラスが呆然と水面を見つめていると、青年がやってきました。青年は髪も髭も伸び放題で、しばらく家に帰っていなかったようでした。


周りの人間も青年へ口々に心配の声を掛けました。


青年は嬉しそうに答えます。


「みんな、心配をかけてすまなかった。実はね、少し前に言っていた白いカラス、ついに捕まえたんだ。」


そう言うと木でできたカゴを掲げ、みんなに見せびらかします。その中には雲よりも雪よりも真っ白な、澄んだ色をしたカラスが入っていました。真っ赤な目が、幻想的な雰囲気を醸し出します。


人間たちは度肝を抜かれました。そして、青年を誉め、謝りだしました。


「あの時は疑ってすまなかった。」「なんてきれいなカラスなんだ。」「キミがウソをつくわけがないのにな。」


全部、カラスが言ってほしかった言葉でした。


カラスは突然体の具合が悪くなってきました。フラフラと大きく頭が揺れ、ついには倒れてしまいます。


そんなことに誰も気づかず、人間たちは村へ帰って自慢をしようと帰り支度を始めます。


そのとき、青年はふとカラスを見つけました。羽は折れ、光沢を失くし、ところどころが不自然に茶色っぽい弱ったカラス。


カラスを見て青年は言いました。


「なんて汚いカラスなんだ。あんなものが近付いてはこの真っ白なカラスに悪影響だ。」


青年は勢いをつけてカラスを蹴り、川へ落とします。


カラスは川底に沈みながら思いました。


青年はそれでも心優しい人間なんだと。きっと白いカラスを信じてもらえず、バカにされた日に、あのカラスよりも真っ白だった青年の心は黒ずんでしまったのだと。


その川はカラスの血で一時は真っ赤に染まりかけました。しかし、血は水で薄まり、流され、3日後にはいつものきれいな川へと戻りました。


きっとカラスは世界で一番白いカラスだった。誰にも知られることなく白いカラスはその生涯を終えるのでした。

僕はしゃべるのがとても苦手な子供でした。でもしゃべりの上手い人になりたかった。同時に自信がなく、努力が嫌いでした。

母親はよく喋れるようになるためにはこういう練習をしなさい、と具体例まで挙げて説教をしてくれていたのですが、僕は反抗期真っ盛りだったので嫌だと駄々をこねていました。その時の反論としてよく、カラスはどれだけ頑張っても白くなれないのだから、僕がしゃべれるようになれるわけがないと言っていました。今考えると意外に喋れる子供だったのかもしれません。

結果的に成人を超えた今、僕はそこそこしゃべることはできる大人になりましたが、周りの環境が少し違えばこんな結末もあったと思います。

結構自信作です。感想、誤字脱字の指摘、お待ちしております。

Twitterもやっているので、興味がわいた方は七代金平で検索かけてください。

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