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ー第8話 中岡慎太郎




ー第8話 中岡慎太郎




慶應3年11月12日


アメンティティは、才谷と高台寺に行く予定だった。

朝飯を食べていると、外に人影が現れた。

下で声がして、千代が降りて行って戻って来た。

「石川清之助さまがお見えになってますが、お通ししはりますか?」

「石川か…。通してくれ」


いかにも堅い感じの男が上がって来た。四角い顔に、太い眉毛が少し間を開けて、キリッと見開いた目の上に有る。少し猫背気味に見える。

「才谷。誰じゃ?」

疑わし気に、石川はギラリとアメンティティを見た。

「隊士の雨谷じゃ。国は何処どこか聞くな」

「何故じゃ?」

「おまんの知らん国じゃきに、聞くだけ無駄ぞ」

石川は、いつもの冗談だと思って、面倒臭くなったようだ。それ以上聞くのをやめた。長い刀を腰から外して、2人の前にドカッと座った。

「才谷いかんぜよ」

「何がいかん?」

「エゲレス公使館の通訳が、会うもんにことごとく、おまんが幕府の手先じゃ言うちょるらしい」

「イカルス号の時に、言いがかりを付けて来たサトウとか言う小役人か…。文句を言っても聞く耳はなかろう」

「ノンキな。陸援隊の隊士が、坂本はおかしいと騒ぎ始めちょる。薩摩の藩邸も同様じゃ。幸い西郷と大久保が抑えちょるが…陸援隊はもとより土佐藩邸は、抑えられる自信は無いぜよ。それに加えて、大目付の永井に会っちょる噂が流れちょる」

「それは、事実じゃ」

アメンティティの方が、才谷よりハラハラし始めた。本人はのほほんとしているように見える。石川は苛立いらだって、身を乗り出した。

「龍馬。武力倒幕を考えちょるもん全員がぁおまんを斬りに来るぜよ。京を出るか、釈明するかせい」

石川は本気で心配し始めた。才谷の本名を言ってしまっている。才谷は急に恐い顔になった。

「石川ぁ。戦をすると押さねばならん。押した上で、幕府が持っちょる権力を離してゆく。顔をつぶされれば、幕府も戦をせねばならん。顔を潰さぬようにして退路を作ってやれば、年明けにも新政府が発足できる。もし…それをせずに戦になれば、金もなく街も焼け。産業なく。援助金にすがりながら、外国商人の好き勝手がまかり通る世になる」

石川はうなずいて言った。

「それは聞いた。じゃが幕府は引くか?。新政府でも生き残る算段をしちょるようにしか見えん」

「そこがむつかしい。幕府が引くと判ったら、武力倒幕の熱は冷める。冷めたら、幕府の内部では、引かんでも行けるっちゅう話になるぜよ。それでは倒幕は成らん。戦じゃ戦じゃ言う中で、幕府が引いて行かねばならん」

石川は、あきらめたように黙った後に言った。

「それを言っても、わし以外のもんは納得せん」

「ならば。4日か5日消えるつもりじゃ」

「長崎か?。あそこも安全とは言い切れんが…」

「いや。この世から消える。4〜5日な」

「おまんの事じゃ。抜かりは有るまいが。京を出るのも気をつけんと…あやういきに」

才谷は笑った。

「心配するな」

石川は目でうなづいた。

「そうか。では…」

「行くか?」

「薩摩藩邸に行く。西郷に言づては有るか?」

「いや」

石川は、うなづいて立ち上がった。アメンティティにも目礼して去った。





アメンティティは聞いた。

「あれは誰です?」

「陸援隊隊長の中岡慎太郎ぜよ。切れ者で腕も立つ。人間は実直じゃが…とうて融通が多少きかん。陸援隊は武力倒幕の組織じゃきに、適役ぜよ」

才谷は箸を膳の上に置いて立ち上がった。

「雨谷さん。行くぜよ」

2人は階段を降りて、酢屋を出た。千代が黙って、その背中に無事を祈った。



高瀬川に架かる橋を渡り、鴨川と高瀬川の間を南に歩いて行く。

才谷は四条大橋で鴨川を渡り、建仁寺の南側から建伝町を回り込み、弓矢丁で東に折れ愛宕寺の前を通り、三叉路を北に折れた。そこから路地を東に入って行く。高台寺の南側、台所口の門が見えた。その台所口の並びに月真寺が有り、高台寺党の屯所になっている。


台所口の門は開いており、才谷はためらう事なくそこに入った。ゆるい坂になっており、石段が組まれている。

その坂に入った所で、後ろから走ってくる足音が聞こえた。

「雨谷さん。走るぜよ」

才谷は、振り返りもせず、坂の上の高台寺本堂の門に向かって、走り始めた。アメンティティもついて行く。才谷は門を入ると、柱のかげに回り込んで身をひそめた。アメンティティも同じようにする。

…その目の前を、中岡慎太郎が走り抜けて行った。

しばらくして、数人が坂を駆け上ってくる足音がして、今度は4人が駆け抜けた。

「…先頭は田中だな。最後は駿馬しゅんめか?…」

才谷がつぶやいた。

「幕府の役人ですか?」

「いや。土佐の仲間じゃ」

「じゃあ、何か急ぎの知らせが有るんじゃ?」

「違う。四条大橋から尾行つけられちょった」

「中岡さんが?」

「いや。尾行つけちょったあの4人に気がついて、中岡が先回りした感じじゃ」

「なら…4人の用と言うのは?」

才谷は微笑みながら言った。

「あいつら…わしを斬る気ぜよ」

アメンティティはハッとした。

「その流れなら。今走って行った中岡さんも危ないんじゃ?」

「そりゃあいかん」

才谷は微笑みを引っ込めて、中岡慎太郎が走って行った方向に向かった。



開山堂西側の臥龍池がりょういけで、中岡が4人に囲まれているのが見えた。

ー坂本さんはどこですか?ー

1人が、中岡を詰問している。


才谷はおくする事なく出て行った。

「田中ぁ。わしゃぁここぜよ。何ぞ用か?」

詰問していた男が振り返った。目が見開かれて、驚いている。震える声で言った。

「坂本さん…どこに行かれますか?」

「田中ぁ。問いが変ぜよ。高台寺に来たのが判らんか?」

「にっ逃げるおつもりか?」

「何から逃げる?。おまんからか?」

田中と呼ばれた男も後の3人も、完全に気をがれている。

「坂本っさん。坂本さんが居る限り、徳川は倒れん。よって…お命を頂きたい」

「目ぇ覚ませ。戦で倒す必要などない。圧をかけ続ければ、徳川は消えて無くなる。それを戦にしたら、人も金も町も産業も無くなる。なくなったら、どうやって外国と渡り合う?。この国は外国人の思うままにされてしまうぜよ」

「脅すだけで、徳川が消えるなど…有り得ん」

言って、田中は刀を抜いた。中岡は飛び退がって、刀の鯉口こいぐちを切った。

残りの3人もバラバラと刀を抜く。

才谷は抜かない。

2人が中岡に対した。

残り2人が…ゆっくりと、こちらに向かってくる。



「才谷さん。開山堂の裏で、飛べるように用意してきます。時間を稼いで下さい」

「わかった」

アメンティティは、クルリと後ろ向くと、全速力で走った。

ー雨谷は放っちょけー

怒鳴る才谷の声が聞こえた。

アメンティティは、池の北側に、墓石を見ていた。いったん逃げる振りをして、本堂を回り込み墓石の有った方向に向かう。

墓石が見えてきた。わしの石塔を見つければ助かる。

墓場は小山になっていて、池の周りを逃げ回っている才谷と中岡が見える。刀を抜いた4人をかわして、2人は逃げ回っている。

ーやめちょけ。わしが抜いたら、北辰一刀流免許皆伝ぞ。おまんらを斬る訳にはいかんー

才谷が叫んでいる。

アメンティティは、墓場の中を必死に探した。

それは、まさに開山堂と思われる建物の真裏に有った。

水晶を鷲の目にはめ込む…。これはロサンゼルス広場の物とは違って、自動的に5分で発動する。

アメンティティは、下で走っている才谷に向かって叫んだ。

「才谷さん。用意できました。来て下さい」

ーおぅ〜待っちょけー

返事が返って来た。


2人は時間ギリギリに斜面を登って来た。

「青い光の中に!」

才谷は石塔の前に立った。

「中岡さん。才谷さんを守って!」

「よっしゃ」

中岡は刀を抜いた。4人が3人を取り囲む…。

アメンティティは、腕のコンピューターに向かって言った。

「簡易シールド展開」

透明な膜が、アメンティティと中岡の前にひろがった。

4人同時に、刀で突いてくる。

ガァツ。

シールドと接触して、刀身は止まった。

「中岡さん」

「応よ?」

「逃げます」

すでに才谷は消えていた。

アメンティティと中岡は、石塔の脇を抜け、山の中に走った。シールドは15秒で消えたが、刀は数百度に熱せられた為…4人は刀を放り投げて、手を押さえた。気がついて追う前に、アメンティティと中岡は視界から消えていた。





ー次話!

ー第9話ミリティアーメン。再び現代。星岡は鷲の像の前で20のコードを弾いた…現れたのはホティオティではなく?アメンティティのお姉さんにして、緊急脱出用ポッドの設計技術者だったが…。





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