ー第6話妨害
ー第6話妨害
理香子を乗せた久利坂の車は、久屋大通り公園に向かっていた。
車は古そうだが、車内はチリひとつ無く掃除されている。理香子は、警察車両に有るはずの物が無い事に気づいた。
「久利坂さん。この車…無線が無いのは何故です?」
久利坂は前を見たまま答える。
「任務によっては、こういう車両も使います。無線、サイレン、回転燈も積んでない。そのかわり、この車は鈴鹿サーキットで勝てるレベルにチューンされてまして…その手の任務に使います」
久利坂は、バックミラーをチラッ チラッと、規則的に見るようになった。
「誰か…つけてるんですか?」
「えぇ。多分…イギリスの…識別名称サトウチームって云う、結構レベルの高い特務機関です。坂本龍馬関係にヘンリーパークス、アーネストサトウ関係で出動して来るんです」
「第2代イギリス公使に。その通訳官。サトウはイカルス号事件で龍馬とやりあってる。イギリス水兵を2人殺害した犯人は、海援隊隊士だと言いがかりをつけて…」
「あぁ…サトウが言ってる事に、龍馬が笑ったんで、叱りつけたら悪魔のような顔になって黙ったって話ですか…。人の国に来て、理不尽に威張り散らされたら、何様だってムッとするのは当然でしょう。それも、いい加減な状況証拠で」
そう言う久利坂に、理香子は考え込みながらつぶやいた。
「…専用のチームをイギリスが編成してるのは何が有るんだろう…。アーネストサトウが、薩摩土佐と言わずに…武力倒幕を考えてる人達に、龍馬が外国4ヶ国はもちろん…幕府ともパイプを持っている事を、悪意を込めて洩らしたと云う説が有ります」
「つまり。龍馬は、外国と幕府の手先だと…。そう言えば、仲間の誰かが龍馬を襲うのは目に見えてる。黒幕はイギリス公使館説って所ですか?。本当なら、日本の反イギリス感情は増大するでしょうね。100年以上も前の事とは言え、謝罪しろなんて話になるかもしれない。サトウチームなんて名前を付けている所をみると、案外図星かも知れない」
突然。
久利坂は、急ブレーキを踏みハンドルを切ってテールをスライドさせた。
そして、反対車線に入るとアクセルベタ踏みで走り始めた。
それを久利坂は、理香子の体を左手でシートに押し付けながら、眉毛ひとつ動かさずにやってのけた。
「どうしたんです!久利坂さん」
久利坂の表情はまったく変わってない。
「実力公使です。始まりました。私に任せて下さい」
久利坂は、運転しながら巧みに理香子のシートベルトを装着させた。車は前後左右のG(重力加速度)に揉まれている。
そして、携帯を取り出すと、見もせずにリストを選択して電話を掛けた。
「…2部か?久利坂だ。サトウチームが名古屋広小路通りで、やりたい放題だ!。5分で何とかしろ。出来なかったら、お前らの部長をクビにしてやる!!」
久利坂は、理香子に理解不能な事を言って携帯を切った。
「5分時間を稼ぐ。後は、外国スパイ専門の連中に任せる」
理香子は、アクセルベタ踏みの車で名古屋市内を逃走する事態に陥った。気持ち悪いどころではなく、前後左右のGで死にそうだった。
「来たっ!!」
久利坂が叫んで、車のスピードが緩んだ。
「…4分ジャストか。さすがは白根部長。いい仕事をしてくれる」
理香子は、助手席で気絶していた。久利坂は、いったん公衆トイレの前で車を停めると、理香子に当て身を入れた。気が付いた理香子は、必死に吐き気をこらえた。
「トイレが有る。吐いた方が楽になる」
久利坂は素早くシートベルトを外して、ドアを開けた。
口を押さえながら、理香子はトイレに駆け込んだ。
星岡は、遅いと思いながらダンボール小屋の前に立っている。そこに、青白い顔をした理香子が、背広姿のスキンヘッドの男と現れた。
「…どうした?。大丈夫かぁ?」
理香子は涙を溜めた目で言った。
「大丈夫じゃない。車に酔った」
「どういう事だ?」
星岡は背広スキンヘッドを見た。
「君らは、イギリス特務機関の任務対象になった。連中を巻く為に、乱暴な運転をしたので、君のガールフレンドは酔ってしまった。申し訳ない」
久利坂は軽く頭を下げた。
「誰だ?あんたは?」
理香子がいきさつを話した。
「坂本龍馬が居るだけでもややこしいのに…先祖の無念を晴らしたい公安警察官とは。加えて、イギリス特務機関だって?。007が出て来たら、気絶させてもらうぞ…」
理香子は手で、愚痴っている星岡を制した。
「それで。どんな事情で坂本龍馬が居るの?」
「あぁあん…?。アメンティティだ。また遭難して、慶應3年に脱出したらしい。脱出した場所が、この間理香子と行った酢屋の前で…龍馬に助けられて…自分の水晶で龍馬を現代に飛ばして、この有り様だ」
「どうするつもりなの?」
「暗殺された11月15日以降に、アメンティティ用の別の水晶を持って、龍馬を戻せって事らしい。それで、20のコードを弾いてホティオティと連絡をとらなきゃならない」
久利坂の眉間にシワが寄った。理香子がそれに気づいた。
「久利坂さん。どうしたの?」
「遠藤さん。星岡さん。そのエジプト人みたいな名前の人物は、もしかして宇宙人?ですか?」
「間違いなく…。なぁ理香子」
理香子は星岡に同意した。
「それはそれとして、宇宙人関係の特務機関も存在しています。こちらは、かなり危険な連中です。やるなら、最短で行動すべきです」
星岡は空を仰いだ。
「気絶してるヒマはないか…」
次話!
ー第7話 遠藤研究員 坂本龍馬と会見する
。歴史上の謎はすべて答えが出るのか?しかし、時空は理香子と星岡を呑み込んで流れ始めていた!!。