ー第20話ロサンゼルス広場再び
ー第20話ロサンゼルス広場再び
深い漆黒の闇が、数秒で開いた。
久屋大通公園ロサンゼルス広場の見慣れた階段に、木々が見える。白根刑事部長が、疲れ果てたように生け垣のブロックに腰掛けていた。星岡達に気がついて、立ち上がった。なぜか眉をひそめた。
「星岡さん。久利坂さんは?」
白根に言われて、まわりを見渡した。理香子にアメンティティ…ミリティ姉さん。久利坂の姿が無い。
「久利坂さんなら…」
アメンティティが答えた。
「…飛ぶ寸前に、外に飛び出しました」
「なんで?」
「さぁ…何か有ったんでしょう。大人の事情が。」
ー訳が分からないと思いながらー星岡はアメンティティから白根に視線を移した。
「こっちは、収まったんですか?」
「まぁなんとかね」
「我々に危険は?」
「有りません。どうやら歴史が改変されたようです」
「…ようですってのは?」
白根は記憶を探るような表情をした。
「私は、外国の諜報機関を相手にする仕事をしてます。そのために、日本史世界史は頭に叩き込んで有ります。その記憶が変わってゆくのが判ります。まず…坂本龍馬の暗殺は無くなりました。佐賀の乱も…西南戦争も未然に防がれました。大久保利通も伊藤博文も暗殺されません。そして…」
白根の顔に驚きが広がった。
「そして?」
「日清戦争が消えました。日露戦争も…一次大戦、二次大戦も…」
理香子が思わず聞いた。
「待って?。じゃあ…世界はどうなったの?」
白根は眉間にシワを寄せた。
「…日本は。中国 朝鮮 ロシア モンゴルで、東アジア経済圏を設立。その主導権を握りつつ…アメリカ イギリスと冷戦の真っただ中です。東南アジアでは、代理戦争が勃発しています」
星岡は理香子を見た。
「それは。俺達の知ってる日本よりは、ましな日本になったのか?」
「わからない。でも。日本はきっと、世界一の軍事力を持ってる事だけは確かね」
2人は、頭を整理する必要を感じた。白根の記憶は、改変されたようだが、星岡と理香子の記憶は変わっていないからだ。その2人とは別に、宇宙人達は平然として見えた。
「ホシオカさん。リカコさん。私達は戻ります。ホティオティが心配してますので」
考え込んでいる2人に、アメンティティが言った。こう星岡は聞くしかなかった。
「アメン…。戊辰戦争を止めるだけで夢中だったけど、これで良かったと思うか?」
アメンティティは迷う事なく答えた。
「4っの戦争が消えた。それの何に不満が有るんです?。アメリカの正義の戦いなんて、必要ないんですよ。一般市民には。必要としているのは国家と言う名の組織だけです。それも、命を削ってでも戦わない努力をしないせいで。消えた4っの戦争の裏ではきっと、龍馬さんと海援隊の人達…その意志を継いだ人達の、命を削る努力が有ったと思いますよ」
「でも。歴史が変わってしまった」
アメンティティはニッコリ笑った。
「大国の謀略と、反抗するテロリストが殺し合ってる歴史に…僕は何の未練も感じませんね。それより、龍馬さんの理念が受け継がれている世界にまだ救いを感じます」
言っている事は分かる。しかし、星岡は釈然としなかった。
「それでも、変わった歴史の中で、運命を変えられた人がいると俺は思う」
「それは解ります。でも運命を変えられた人々にも、この歴史はベストだと僕は胸を張れます。だから僕は、坂本龍馬を暗殺させまいとしました。歴史を改変した責任は、このアメンティティ アーメンに有ります。すべての責めは僕が負います。その審判は、コロニーの市民法廷で下されるでしょう」
「審判って?。罰せられるかもしれないのか?」
「勝算は有ります。死刑になる覚悟も」
「おまえ?。気分と思いつきみたいに見えたけど…最初から命賭けてたのか!」
星岡は目頭が熱くなるのを感じた。
「確かに助けられた相手が、坂本龍馬だと分かっての思いつきですけど…。しかし涙が似合わないですね〜泣かないで下さい。大丈夫ですから」
「駄目だ!。俺達だって一緒にやったんだ。俺達も行くよ。アメンは間違ってない。必ず俺達が無罪にする!」
「ありがとうございます。でも地球人をコロニーに連れて行ったら、そっちの罪で死刑になります。ガマンして下さい」
「だけど…」
ミリティ姉さんが星岡の手を握った。
「心配しないで。知り合いに腕利きの弁護士がいるの」
星岡は、この宇宙人達に不可能と限界が無い事を思い出した。
「わかった。でも、結果は必ず知らせて下さい。もし有罪になったら助けに行きます」
ミリティ姉さんはアメンティティと顔を見合わせた。アメンティティは、星岡の物まねで言った。
「んな事は無い事を願ってるよ。でも、その時は頼む!」
星岡とアメンティティは抱き合って、肩を打たき有った。
「それじゃあ。リカコさんも元気で!」
理香子もアメンティティを抱きしめた。
「ホティオティによろしくね。赤ちゃんが産まれたら会いに来てね」
「もちろん!」
アメンティティとミリティ姉さんは、青い光と共に、名古屋の空に消えていった。彼らのゴタゴタは、まだ続いてゆくようだ。きっと、また呼ばれる日は、そう遠くない。…あきらめ顔で星岡は空を見上げていた。
ー次話!完結
ー第21話エピローグに続く!