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ー第19話井上源三郎




ー第19話井上源三郎



「では。いくぜよ…」

龍馬はスミス アンド ウェッソン1/2ピストルを真上に向けた。

ーパンッ

乾いた音がして、酢屋の前から人垣が別れた。店の戸は閉められ、2階から嘉兵衛や千代ら酢屋の人々が、無事を祈って見ていた。

小路の両側で様子をうかがっていた武力倒幕派は、まず薩摩兵に蹴散らされた。慌てふためいている目の前を、坂本龍馬と中岡慎太郎が駆け抜けてゆく。

「居たぞ〜」

叫び声を上げながら、河原町本通りを追いかけ始める。

星岡達は高瀬川側を、高台寺党に守られながら四条大橋に向かって走ってゆく。高瀬川沿いは、町家の軒に灯りが入って、暗闇ではない。

もう龍馬がどうなったか、知る事は出来ない。果たして、将軍慶喜は脱出できるのか…龍馬は本当に江戸に行くのか?。ー高台寺にたどりつく事だけを考えるしかない

星岡は割り切った。先頭を走る伊東甲子太郎は、高台寺に隣接する月真寺を本拠地にしていて、道を間違える事はない。星岡はフォークシンガーとして、ランニングを欠かさないが、理香子は息が切れ始めていた。宇宙人達は、テクノロジーに囲まれているはずが、まったく息が切れてない。

ついに、四条大橋から建仁寺を回り込んだあたりで、理香子は止まった。

「ちょっと待って。ごめんなさい」

理香子は建仁寺の土塀に手をついて、息を弾ませる。

追っ手は迫って来る。高台寺党が横に広がって、刀を抜いた。

「理香子!乗れ!」

星岡がしゃがんで、背中を見せた。ミリティ姉さんが、理香子を引っ張って、背中に乗せる。その背中から理香子は言った。

「帰ったら…毎日ジョギングするよ」

「んじゃあ…俺はだな〜こんな事は2度と起こらない事を、毎日祈らせてもらう!」

星岡はウンザリした声で言った。アメンティティは、マズイと云う顔で星岡をチラリと見た。



一行は台所坂から、高台寺に入った。そのまま墓地に向かう。高台寺党が門を閉じて、武力倒幕派を阻止してくれている。

伊東甲子太郎が、提灯に火を入れた。それをアメンティティが受け取って、前回の記憶を頼りに石塔を捜した。

木立がまばらに立つ、古い墓石の間をアメンティティは進んで行く…。

「確かぁこの辺のはず」

提灯を高く掲げた。そこに…

誰かが腕を組んで、座っていた。




浅葱色あさぎいろの羽織り…袖が白いギザギザ。

「伊東。何の真似だ?」

低い声が響いた。アメンティティを後ろに引っ張って、野口と久利坂が前に出た。

「いっ井上源三郎!」

うめいた伊東は、元新撰組の隊士だった。史実では、坂本龍馬に暗殺者が狙っているので気をつけよと忠告した数日後、自らも斬られてしまう。この世界での彼の運命は、まだ定まっていない。

「伊東。こんな大勢で、こんな夜に、墓場で何をするつもりだ。肝試しには寒すぎる…聞かせてもらおうか?」

新撰組6番隊が、井上の周りに湧き出して来た。後ろからガン灯をかざして、星岡達を照らし出した。

「…ここで坂本龍馬が消えたそうな。そして酢屋にまた現れた。そこの異人の顔を持つ二人…さては妖怪か!。伊東きさま〜魔神に魂を売り渡したか?」

井上は、刀の鯉口をカチリと切った。周りの新撰組も、それにならって鯉口を切る。もはや、ちょっとしたキッカケで斬り合いになる。咳ひとつ出せない。

井上が立ち上がった。そして、理香子を見つけた。

「うんっ?。清殿か?。皆、待て」

井上は刀の鯉口を戻した。

「!。隊長。どうされました?」

伍長の島田魁が慌てた。

「知り合いが居る。…清殿。ここで何をしておられる?」

理香子は前に進み出た。久利坂が止めようとした。

「久利坂さん…大丈夫です」

鋭い目で、井上の前に出た。

「井上さま。この2人は、妖怪などではございません」

「ふむ。では何者だと言われる?」

「私達は幕府と薩長の戦を止める為、140年先の時代から参った者でございます」

「何と?140年先の時代。しかし、遠藤善ェ門は娘と…」

「わたくしの祖先でございます。遠藤家の血筋は、人を救う為ならウソもいとわぬ血筋にございます。お許し下さい」

「う〜ん。にわかに信じ難い」

理香子は記憶を頼りにたたみかけた。間違えなければいいが…と思いながら。

「文政12年3月1日生まれ。八王子千人同心世話役 井上藤左衛門の三男。呼び名は源さん。真面目で誠実な性格で、若い新撰組隊士に信頼が厚かった。文久2年に浪士隊に参加。芹沢鴨の粛清後は、副長助勤。池田屋の手入れで、土方隊の支隊を指揮。鳥羽伏見の戦場で、腹部に銃弾を受け死亡。…140年後の井上さまの記録です」

「産まれた日付も父の仕事を知っている者も、三男である事も知っている者はおらん。まこと、140年先から来られたか…」

新撰組の隊士も余りの詳しさに、ざわつき始めた。

「静かにせよ。」

ざわつきは止んだ。

「ここで何をされる?。清殿」

「140年先に帰ります。井上さまの後ろの石塔を使って」

井上は首を回して、鷲の彫刻を見た。

「この鷲の石塔か…」

「そうでございます」

理香子は、源さんの人柄に全てを賭けていた。自分の解釈が正しければ、その通りの性格ならば、井上源三郎は刀を抜かないはず。しかし、源さんは、理香子の解釈とは別に…惚れた女に甘い人物だった。

「願いがある」

理香子は意外な展開に戸惑った。

「何でございましょう?」

「拙者。恥ずかしながら、清殿に惚れ申した。妻として迎えたい。交換条件として、他の者はお帰し申そう。清殿は残ってもらいたい」

相変わらずのストレート真っ向勝負だ。

「お断り申し上げるならば。刃傷にんじょうに及ばれますか?」

「清殿を、ただあきらめる訳には行き申さん。星岡殿への忠義でござれば、刀を抜くしかござらん」

「星岡さまを斬ると仰せられますか?」

如何いかにも」

「ならば」

理香子は、久利坂の小刀を腰から抜いた。正座すると、切っ先をのどに当てた。「何を!」

井上と星岡が同時に叫んだ。

「星岡さまをお斬りになるなら。わたくしも、のどを突いて果てます。どうぞお斬り下さい!」

井上は狼狽ろいばいした。

「待て!待たれよ。死んではならん!」

「では、皆帰らせていただけますか?」

井上は困り果ててみえた。

「わかり申した…井上源三郎の負けでござる。それ程までに、想っておられるとは…」

その後の言葉は予測出来なかった。

「…せめて、清殿が身につけておられる物を何か頂けぬか?」

井上は好人物だった。さすがにかわいそうに見えてきた。理香子は、美術館の予備のIDカードをふところから出した。

「これで、いかがでしょう?」

ストラップがついて、顔写真に名前IDナンバーが入っている。これなら納得のはずだ。

「おお。清殿のいみ名は理香子と申されるか!。写真も色がついておる」

井上は、しばらく涙ぐんでIDカードを眺めていた。星岡はーなんじゃこいつは?ーと訳が分からなくなっていた。

「よし!」

井上は突然叫んで、石塔の前から動いた。

「皆も場所を開けよ!」

新撰組6番隊は、困惑しながら…どうなってんだと言いながら、石塔の前を開けた。井上は完全に自分の世界に入ったようだ。

「清殿。井上は忘れませぬ。清殿も覚えていてくだされ」

言っている横で、アメンティティはー井上の気が変わらない事を祈りながらー水晶を鷲の目に入れた。

野口を除く5人が、石塔の周りに現れた青い光の中に入った。

星岡はビュンと飛ぶ感覚の後、暗闇に包まれた。





ー次話!

ー第20話ロサンゼルス広場再び

2009年に帰還した星岡に理香子。坂本龍馬が生きている事で、歴史も日本も大きく変化していた。歴史を変えて良かったのか…悩む星岡を待っていた物は!






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