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ー第14話捜索




ー第14話捜索




近江屋の2階は、西郷がおさめた。

星岡 久利坂 アメンティティ ミリティ姉さんの4人は、酢屋に引き下がらざるおえなかった。葬儀自体は、予定通り行われ空の棺が11月18日の深夜、海援隊と陸援隊によって、高台寺に埋められた。この棺が明治以降に調査されたら、遺体が無いと云う展開になるんだろう…と星岡は推測した。

龍馬は、英語の分かる隊士をすぐに、神戸のアメリカ公使館に走らせた。

「星岡さん。メリケンに抗議させるきに」

「なんとかなりますか?」

「心配いらんぜよ。すぐに理香子さんは戻る」

龍馬は笑って見せた。

そこに、階下から上がって来る音がする。酢屋の主人嘉兵衛だ。

「才谷さん。来ましたよ。おそらく…」

嘉兵衛は手紙を龍馬に差し出した。封を切って、巻紙をパッと広げる。

星岡の見た所、見事な毛筆の書体で、線がのた打っているようにしか見えなかった。

「サトウからぜよ」

龍馬は、差出人の名前を指差して言った。アーネスト サトウは毛筆で候文そうろうぶんが書けた事が知られている。

「本人が記名で」

「間違いない。この威張りくさった文句は、イカルス号の時のサトウの言いぐさと同じぜよ」

「何と言って来てる?」

「わしのやる事が気に食わん言うちょる。取引したいきに、12月7日五っ半に油小路花屋町の天満屋にひとりで来い言うちょる」

久利坂か静かに一言を差し入れた。

「待ち伏せて、殺す気だ」

「じゃが、行かねば理香子さんは助からん。行くぜよ」

星岡はあわてた。

「才谷さん。あなたが死んだら意味が無い。俺が身代わりで行く」

才谷は、もの凄い力で星岡の肩をどやしつけた。

「惚れちょるかぁ?。星岡さん、目が本気ぜよ!」

星岡は痛む肩を押さえながら言った。

「理香子が戻らなかったら、俺も戻らない」

才谷は、星岡の目をしばらく見つめていた。

「分かった。何か策を考えよう」




龍馬と中岡は、公には死んだ事になっている。幕府大目付の永井尚志が、新撰組の近藤勇を尋問した…と云う噂を千代が持って来た。12月6日には、神戸と新潟が開港し大阪は開市された。開市と云うのは、それまで外国人は大阪の町に入れなかったが、入れるようになったと云う意味だ。

この日に、後藤象二郎が酢屋にやって来た。星岡は久利坂と理香子の捜索に出て居ない。彼は龍馬と中岡の上司に当たる。実際には身分の関係で、藩の重役や山内容堂公との繋ぎ役でしかない。龍馬や中岡は直接会う事が出来ないからだ。

「坂本。王政復古令に徳川慶喜の名前が無いが為に、殿が暴れるぞ」

明治新政府の人事リストの事を、後藤は言っている。

「暴れるとは何ぜよ」

「慶喜は朝議には出られん。出れば一緒に幕軍が動いて戦になる。しかし容堂公(土佐藩主)は朝議に参加した上で決するべきだと言うちょる。おそらく、王政復古令の文書に判を押すのを拒否する。拒否すれば、朝議は慶喜を呼べと言う話になる。朝廷に呼ばれれば、慶喜は京に居るしか無い。居れば戦じゃ」

龍馬は気の無い様子で答える。

「そこまでの話は、大目付永井と打ち合わせちょる。将軍は、王政復古令に何が書かれて有っても、二条城から一兵も外に出さん。いよいよとなれば、大阪城に下る。その後は、頃合いを見計らって、船で江戸に戻る事になっちょる」

後藤はなる程とうなずいた。

「将軍が京からも大阪からも退けば、幕軍は戦えない。薩摩も戦う名目が無くなる。しかし、そうすんなりと退かせてくれるか?」

「早ければ早い程うまく行く。遅れれば戦になる。永井にもそう念を押した。…時に」

龍馬は言葉を切った。

「…理香子さんの捜索の件は、どうなっちょりますか?」

「うむ…」

後藤は声を低くして、顔を近付けて来た。

「英国軍艦アドベンチャー号。大阪湾天保山沖に浮かんじょる」

「海の上か…。ファンケル バーグも判らん事が、ようわかったな?」

「それじゃ。天保山沖の夕霧の甲板に、投げ込まれちょった。これは一体何ぜよ」

後藤はふところから、四角い物を取り出した。ちなみに、夕霧は土佐藩所有の船だ。

龍馬は、それがすぐ携帯電話だと分かった。二つ折りの携帯を開くと、まだバッテリーが残っていて、画面に文字が有った。


りかこ あどべんちゃーごう とさ さいたにさまに ぶじ しんぱいない




「理香子さん。ただ者ではないぜよ。アドベンチャー号と、夕霧を見分けたとは…。こりゃあ星岡さんに見せねばならん」

龍馬はバッテリーを保たせる為に、電源を切った。

「龍馬。それは何ぜよ?」

「携帯電話ぜよ」

「何をする?」

「手紙みたいなもんじゃ」

後藤は理解出来なかったが、理解する振りをした。



星岡は連日、理香子の消息を求めて、久利坂と京の町を歩き回っていた。星岡は髪が長かったので、そのまままげを結ってもらった。久利坂はスキンヘッドのままで、ヤクザ者のように見えた。2人で歩くと、若侍と用心棒のように見える。

理香子の言ったように、高瀬川は川幅も広く高い土手に挟まれていた。そして、多くの高瀬舟がひっきりなしに往来おうらいしている。あの日、用水路になった高瀬川を見つめていた理香子の横顔を、星岡は思い出していた。ここは、言葉も気持ちも通じるが、明らかに異国だ。自分達の世界では無かった。人々は懸命に生きている。彼らの生き方の先に、140年の先に自分達の世界が有る。戻りたいと星岡は願った。理香子と共に…。


気付くと、高瀬川沿いから遥か四条通りの薩摩屋敷まで来ていた。

今出川の二本松で聞いた話で、あの夜侍姿の女を抱えた男が、この薩摩屋敷辺りを走っていったと云うのだ。

「ここに居るなら、西郷さんが教えてくれるはずですよね?。久利坂さん?」

「おそらくもう…居ない可能性が高い。大阪の領事館に逃げ込んでいるかもしれません」

「でも、天満屋に理香子を連れて来るなら、大阪まで行きますか?」

「西郷が我々の側なら、大阪まで行くしかないでしょう…もしかしたら、大阪湾の軍艦の上かもしれません」

久利坂は言葉を切って、視線を走らせた。

「見なさい。西郷は私達に護衛を付けてくれている」

視線の先の四つ角に居た男がスッと消えた。

「西郷さんは大丈夫なんですか。俺達に味方して?」

久利坂は星岡を促して、酢屋方向に戻り始めた。もう日が傾きかけている。

「西郷が正しいと言えば、それは正しい。薩摩の人間にとって。西南戦争では、誰もが西郷の為に喜んで死んでいった。まぁ出来れば、西郷には別の道を選んで欲しかったがね」

星岡は眉間にシワを寄せた。

征韓論せいかんろんも西南戦争も、なんでそうなるんだろうって思いますよ。ワケが分からない」

「いろんな説が有る。謀略ではめられた。内乱になりかねない不平士族を、自分が共に死ぬ事で収めたとも言う。西郷は参謀を、誰も薩摩に連れて行かなかった。桐野利秋きりのとしあきだけを連れて行った。勝つつもりは無いと云うか…負ける為に西南戦争を起こしたとも」

「久利坂さんは、どう考えます?」

「わからん。だが西郷は、人の心を最も尊重する人だ。西南戦争は士族達が望んだ。だから、彼らの望みをかなえてやったんだろう。西郷は優し過ぎたのさ。士族達の痛みが分かるが為に、彼らの死に場所を作ってやったんだろう」

星岡は嫌な顔をした。久利坂は、それを見てニヤッと笑った。

「久利坂さん。俺はそれには同意出来ません」

「ほぅ?」

「生きてこそ人でしょう。生かしてこそ人じゃないですか」

「そうだ。西郷が冷酷なら、生かしただろう。生き生かすと云うのは…冷酷な事なんだよ、星岡さん。ちなみに、謀略説を教えておきましょう。西郷は、イギリスのコントロール下に有った明治政府を、アメリカを後ろ盾にして脱しようとした。坂本龍馬のように…。謀殺されかけた西郷を士族達が守る為に西南戦争が起こった。征韓論は後付けの理由だから、話がおかしいのだとね。今の西郷に聞いても分からん話だが…知りたいものだな」

星岡は首を振って、黙った。

2人は戻った酢屋で、理香子がアドベンチャー号に居る事を知らされた。





ー次話!

ー第15話天満屋

サトウが待ち受ける天満屋に踏み込む龍馬…スミス アンド ウェッソン1/2ピストルの合図で海援隊と星岡 久利坂が天満屋に突入するはずだったが…。理香子は果たして?。







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