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ー第13話待ち伏せ




ー第13話待ち伏せ



日は完全に暮れた。

寺の中を抜けて、墓地に入る。右手に近江屋の土蔵が見える。

「隣の井筒屋とは話がつけてあります。こっちに…」

陸奥以外の海援隊士は残り、陸奥を先頭に星岡達がついて行く。井筒屋の裏に出た。陸奥が母屋おもやの裏戸を叩いた。静かに裏戸が開いて、井筒屋の主人とおぼしき人物が手招きした。

「私は残ります。後は井筒屋に頼んでありますから…」

陸奥は残って、アメンティティを先頭に久利坂が最後に入って戸を閉めた。燭台の灯りを頼りに階段を上がり、2階に出る。そこから物干し台に出た。井筒屋は手で方向を示した。

「あれが近江屋さんの物干し台どす」

中からボンヤリと灯りが洩れている。うなづいたアメンティティが物干し台の柵を越えて、屋根瓦の上に立った。

そのアメンティティを、久利坂が手で制した。

「どうしました?」

久利坂は、唇に人差し指を当てて、黙るように合図した。

アメンティティを押し留めたまま、久利坂は屋根の上に降りた。そして、刀の鯉口こいぐちを切って、ゆっくりと近江屋の物干し台に近付いて行く。




その頃。

近江屋の正面前に、一人大男が現れた。

「何者か?」

戸の前の番人役が誰何すいかした。

「薩摩の西郷吉之助でごわす。坂本先生の葬儀ば、ここでごわすか?」

「さっ薩摩の西郷…」

うろたえた番人役は、戸の中に向かって誰かを呼んだ。出て来たのは、田中光顕。

「田中さぁでごわすか。坂本先生のご遺骸、別ればぁ告げ申す」

それだけ言って、西郷は黙った。田中は完全にパニクった。

「西郷殿。申し訳ないが、それは出来よらん」

だが西郷は黙っている。

「…お引き取り願いたい」

西郷は口を開いた。

「どんお方が出来んと申してごわす?。田中さぁでごわすか?」

「わっわしではない」

「では。申しておわす御人を出されよ」

「よしっ分かった」

田中は引っ込んで、中がざわついた。




一向に、誰も出て来ない。

西郷はアッサリ戸をくぐってしまう。中で言い合いをしている田中 谷 毛利が

ーあっ!

と叫んだが、西郷は止まらない。

「西郷殿!西郷殿!待たれよ!」

口々に叫ぶが、誰も止められない。

2階に通じる階段の下で、西郷は止まった。これが手筈てはずだった。2階からも人が降りて来て、押し留めようとする。

2階は無人になった。



久利坂は、ゆっくりと物干し台に上がり、そこから近江屋の2階奥八畳間の様子をうかがった。

棺が3っ置かれて、何本か蝋燭ろうそくが立てられている。

…中は結構明るい。

久利坂は、後ろに来るように合図した。しかし、久利坂は何か気に入らなかった。嫌な気配がする。こういう時には、90%の確率でズドンと来る…。


星岡達が物干し台に上がって来た。

久利坂は、もう一度ゆっくり部屋の中を眺め渡した。血しぶきの掛かった掛け軸は外されている。床の間の壁には、掛け軸を外れた血しぶきが残っている。部屋の脇には火鉢…その横には、鞘の割れた日本刀。一緒に有るのは犯人の名刺か?。芝居の小道具は揃っている。

視線を棺に戻す。久利坂の視線が止まった。一番遠い棺のふたが、わずかにズレている。物干し台に有った空の植木鉢を、そっと拾い上げると…久利坂は棺に向かって放り投げた。

棺に落ちて砕けるはずだが…空中で棺から伸びて来た腕で、植木鉢はキャッチされて、投げ返された。久利坂は居合いで鉢を割ったが、その鉢の破片の向こうから、人が突進してきた。

刀は振り切られていて、切り返す事が出来ない。その隙間すきまを抜けて、男は星岡と理香子の間に突入した。

そして、凄まじい引きで理香子のえりをつかむと、理香子ごと飛び退がった。ようやく切り返した久利坂の切っ先が、男の腕を払った。袖を斬ったが…男にキズはない。


男は、理香子を後ろから抱きかかえるようにして、刀を首筋に当てている。久利坂はすでに刀を収めて、次の間合いを図っていた。

男と久利坂はにらみ合いになった。燭台しょくだいに照らされて、男の顔が見えた。

「おまえ…。野口か?。野口だな?。サトウの従者の野口だな?」

久利坂が言った。理香子は抱きかかえられている為に、顔は見えない。反射的に顔を見ようとしたが、完全にキメられているので微動だに出来ない。

アーネスト サトウの日本人従者野口富蔵のぐちとみぞうは、写真が残っている。彼は、アーネスト サトウが東海道の宿で襲われた際に、見事に刺客を撃退している。

「何故知っている?」

「サトウと写っている記念写真を見た」

野口は多少うろたえた。

「…何者だ。坊主?」

久利坂のスキンヘッドは、この時代なら坊主と呼ばれても不思議ではない。

「野口富蔵!。その人を離せ」

久利坂は必用ひつように名前を言った。刃物を持った相手の扱いは、久利坂の本職だ。




その微妙な空気の中に、西郷が(引き留める土佐藩士を袖にぶら下げて)上がって来た。

上がって来た全員が、そこに展開している光景に見入った。

退路を断たれたと思った野口は、理香子を盾に物干し台に突撃した。西郷が無謀にも後ろから追って、野口の刀の柄を後ろからつかんでモギ取った。しかし野口は、理香子を離さずに、脇差しを抜いて、久利坂の居合い抜きを受けて払った。火花が散り、野口の脇差しは半分から折れて、壁に突き刺さる。星岡が中身が木刀の偽刀を、鞘ごと野口に振り降ろす。頭上で野口は、左腕でそれを受けて、すり抜けた。

なすすべも無く、野口は屋根に飛び移って走ってゆく。

星岡と久利坂がその後を追ったが…。積んで有った箱に飛び降りて、そのまま河原町本通りをーええじゃないかーと踊りながら練り歩く行列の中に見失った。

その喧騒けんそうの中、星岡は道に座り込んで、弾む息の間からうなった。

「人ひとり抱えて。あの走り。しかも屋根の上…化け物か!」

それに答えるように、久利坂は言った。

「人質にするつもりだ。それなら危害を加えられる事は無い。しかし。アーネスト サトウ…喰えん奴らしい」

星岡と久利坂は、明け方まで理香子を求めて、京の街をさまよった。





ー次話!

ー第14話捜索

理香子の行方を求めて、星岡と久利坂は京の街を探し歩く。一方、酢屋の龍馬にサトウから書状が…そこに書かれていたのは?。






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