ー第9話ミリティ アーメン
ー第9話ミリティ アーメン
再び現代。
星岡と理香子、才谷梅太郎に久利坂は、ロサンゼルス広場にやって来た。
「時間は、あとどれくらいです?。久利坂さん…」
「約15分程度」
周りは日曜だと云うのに、人影が消えている。しかも、遠くでサイレンが鳴り響き爆発音までしている。星岡はギターを取り出すとノートを広げた。あぐらを掻いて座ると、コードを鳴らし始めた。
20のコードが鳴った。
2秒後に空気を切り裂いて、青い光が落ちて来た。
光が消えると、某有名デパートの制服を着た女性が現れた。
星岡と理香子がハモった。
「ホティオティ?…じゃない?」
女性はホティオティよりも背が高く、お腹も大きく無い。
耳までのストレートの髪に、赤いフレームのメガネを掛けている。彼女は、星岡をジッと見て言った。
「ホシオカさん?。私はアメンティティの姉のミリティと申します。アメンティティの消息をご存知でしょうか?」
「それが…」
星岡は、ミリティと名乗る宇宙人と握手して、いきさつを手短に話した。
ミリティは天を仰いで、ため息をついた。
「わかりました。弟のせいで、こんな事になって申し訳有りません」
星岡はヤキモキして来た。
「ですがお姉さん。そんな事言ってる時間が無いんです!。この4人を、慶應3年12月16日に送って下さい。選択肢は無いんです」
ミリティ姉さんは、慌てる素振りも見せない。
「わかりました。私も行きます」
「いや…お姉さんはチョット行かない方が…」
ややこしくないと云う言葉を、星岡は飲み込んだ。
「いえ。緊急脱出用ポッドの設計技術者としては、責任を感じています。これ程不具合が生じては、黙っている訳にはいきません。5人分を送る調整をします」
イライラし始めた星岡達を尻目に、ミリティ姉さんは鷲の像の台座の正面を開け、ゴソゴソやり始めた。
「あの。…どれくらい掛かります?」
理香子も焦って聞いた。
「安全係数を上げるには、30分必要です」
理香子は、久利坂を見た。久利坂が言う。
「ミリティさん。あと6分経過すると、ここは滅茶苦茶になります」
「では…ギリギリまで作業しますから、カウントダウンしてもらえますか?」
久利坂は、腕時計を目の前に上げた。
「…あと。5分10秒…」
星岡はたまらず言った。
「ミリティさんもう行きましょう!」
ミリティは四つん這いで、顔を台座に突っ込んだままだ。
「体がバラバラになって到着したくないでしょう?。専門家に任せて下さい」
「何で…ヤキモキさせるのは、アーメン家の家風なんですか?」
「皆さんそうおっしゃるわね…」
あっさり言われて、星岡は黙った。
久利坂の携帯が鳴る。
「…大丈夫だ。心配ない」
そう言って携帯を切った。
「白根部長だ。まだ居るみたいだが、大丈夫かと聞いてきた」
星岡の腰が砕けそうになった時。
「オッケー!」
とミリティ姉さんが叫んで、5人は青い光に包まれて飛んだ。
一方。慶應3年11月12日
中岡に先導されて、アメンティティは高台寺の墓地から、東に向かって斜面を登っていた。簡易シールドを使った為に、腕時計型解析コンピューターは、バッテリー切れを起こしていた。その為、東山を登って、粟田口に向かっている事をアメンティティは知らながった。抗生物質の無いこの時代に、刀傷を負ったら傷口の感染症で2日と保たない。アメンティティは、中岡に必死について行った。
やがて尾根に出た。斜面は、登りから下りになった。
20m程下ると森が切れた。山仕事用の細い道に、2人は転がり出た。
立ち上がって、下りの方を見ると5人くらいの男達が居る。腰には大小刀を差している。上りに目を転じると、そっちにも3人居た。
アメンティティは、道から斜面に飛び降りようとしたが…中岡が袖を捕まえて止めた。
「ありゃ伊達小次郎じゃ。味方じゃきに助かったぜよ」
5人が下から登って来て、先頭の男が言った。
「中岡さん。隊長は?」
「別に逃げた。…なんで、おまんら海援隊8人勢揃いしちょる?。大阪長崎に散っちょるはずじゃろうが?」
伊達小次郎と呼ばれた男が言った。
「2日前に手紙を受けておりました。高台寺で事を起こすので、事が破れた場合に、この山道に逃れてくるので救援に来いと」
伊達小次郎は土佐弁では無かった。
「ウム…事は成ったが、わしらはおまんらの事は聞いちょらんぜよ」
アメンティティが代わりに答えた。
「襲って来た4人に知られる訳にはいかなかったんでしょう」
「襲われましたか?」
伊達も他の7人も色めき立った。
「応よ。谷に毛利、田中に白峰じゃ」
「白峰…。駿馬でごさるか?」
「間違いないぜよ」
伊達小次郎は、上目使いで何か思考を巡らした。
「駿馬までが加担しているとなると。武力倒幕派全部敵と云う事でしょう。京師には、中岡さんも雨谷さんも身の置き所は無くなりましたね」
中岡は憮然とした。
「何たる事じゃ」
中岡の後をアメンティティが続けた。
「…おまけに、16日には才谷さんが戻って来てしまいます」
「雨谷さん。どこに戻って来る?」
「酢屋の前の舟入に落ちてくるはずです」
アメンティティは、星岡や理香子、さらに姉までが落ちてくる事は知らない。
「消えたのは、高台寺じゃきに酢屋は安全じゃが…?」
伊達小次郎はそう言う中岡に言った。
「とにかく。この下の民家を借り受けています。そこに隠れましょう。おそらく…谷や毛利は薩摩や岩倉とも繋がってます。山狩りをするでしょう」
一行は、午後の粟田口を足早に駆け下りた。
ー次話!
ー第10話 龍馬暗殺される?
粟田口に潜む中岡とアメンティティに知らせが入る。五っ半過ぎに隊長 中岡 藤吉が新撰組に斬られたと…。谷 毛利らの動きを封じる為の謀略に、海援隊が遺体が有ると云う近江屋に向かうが?…。