エピローグ 逃げる男
その男、シャスカは、逃げていた。
南へと。
南には、大海があるという。
逃げなければ。
大海を越えて、その向こうへと。
どこまで逃げても自分を追いかけてくる、あの恐ろしいものから。
その恐ろしいものがいったいなんであるのかはよくわからないが。
とにかく、逃げなければならない。
もし、追いつかれたら、たいへんなことになる。
急げ!
剣としてのシャスカの精神は、鞘としてのシャスカの精神の奥深くに潜み、いま逃げているシャスカには、自分が今までどこでなにをしてきたのか、それすら分からない。ただ、怯えていた。
そんなふうに、すべてを忘れたシャスカであったが、風の便りに、王国の美姫と忠義の魔導師の噂を聞いたとき、なぜか、心が温かくなるのを感じて、はて、いったいこれはどうしてだろうか、と不思議な気持ちになったのだ。
だが、そんな考えもすぐに、逃走への強い衝動によって片隅におしやられ、そして、足を速める。
逃げろ。
南へと。
シャスカは逃げる。
逃げていく。
そして、グレンもまた、南へと——。
「鏖殺の剣の物語2 美姫の檻」完
読んで下さってありがとうございました。これにて、「鏖殺の剣の物語2」は完結です。
私の書く話はたいていそうですが、もちろん、シャスカとグレンの冒険も終わっていません。南国を舞台にした「鏖殺の剣の物語3」を構想中であります。お楽しみに!




