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鏖殺の剣の物語2  美姫の檻  作者: かつエッグ


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48/54

開戦

89)


「おのれッ、一気に押しつぶせっ!」


 アルベルトが怒鳴り、指揮官の号令一下、包囲していた万の軍勢が、武器をかざして、いっせいに塔へと殺到する。


 それを見て、ルビーチェが魔法の詠唱を始めた。


「四大よ我が霊の呼びかけに応え、その秘められたる力の門を開け……」


 すると、そのルビーチェの声に応じて、塔をとりまく草原に、何本もの輝く光の筋が立ち現れる。

 やがて光が結び合わされ、草原に浮かび上がったものは、幾重もの円と、交差する直線と、妖しく揺れる古代文字。

 それは、塔を中心にした、巨大かつ複雑精妙な魔法陣であった。

 この塔を拠点としたとき、ルビーチェによって、周囲の大地の中にあらかじめ準備され、あとは起動を待つばかりになっていたのだ。


「風と火が二重星のようにお互いをめぐり熱の渦を発す、炎熱(ゲヘナ・)の竈(メイルシュトローム)!」


 ルビーチェが一声叫ぶと、


 ゴオオオオッ!


 魔法陣の外縁に、突然真っ赤な炎が燃え上がった。

 円形に燃えさかる炎からは、激しい高熱が放射される。

 ルビーチェの大魔法、炎熱(ゲヘナ・)の竈(メイルシュトローム)が炸裂したのだ。


「ぎゃあああああ!」

「熱い、熱いっ!」


 槍と剣を構え殺到した兵士たちは、いきなりのことに踏みとどまることができず、もろに、燃えさかる灼熱の炎の竈の中に、突入してしまった。彼らはたちまちに地獄の炎に焼かれ、のたうちまわる。


「止まれっ、だめだ、押すなあ!」


 炎の中に押し込まれようとする最前線の兵士が叫ぶ。

 しかし、密集した兵団は急には停止できない。

 後方からの圧力に押し出され、次々に、燃えさかる炎に呑みこまれていった。

 ようやく部隊が停止したとき、あたりには、吐き気を催すような肉の焼ける臭いのなか、累々と黒焦げになった兵士が倒れ伏しているありさまだった。


 軍議が交わされる。


「くそっ、これでは近づけないぞ」

「いや、たとえヤツが大魔導師だとしても、しょせんは人だ。そんなに魔力が持つはずがない。かならず魔力が切れる」

「それまで時間をかせげばいい」

「弓だ、弓を持て」


 弓兵部隊が前面に出た。


「やれっ!」


 塔に立つ三人めがけて、雨のように無数の矢が放たれた。

 さすがに、三人が立つ位置まではなかなか届かない。

 指揮官はそれでもいいと思っていた。こうしている間に、ルビーチェの魔力が尽きれば、攻め込むことができるだろう。

 だが、そこで、


「ええぃ、おれがやる」


 名乗りを上げ、筋骨逞しい武人がひとり、いならぶ弓兵を押しのけて現れた。


「おおっ」

「魔力切れを待つなど、そんな悠長なことをいわず、あの魔導師を射殺せばいいだけの話ではないか?」


 彼は、王国一の弓使いとして名の知れた武人であった。

 武人は、彼にしか引けないといわれる強弓に、太い矢をつがえ、ぎりぎりと弓を引き絞る。

 人びとは固唾をのんで、それを見守っていた。


 ビョウンッ!


 一瞬の静止ののち、矢が放たれた。

 強弓の驚くべき張力によって推進された矢は、距離をものともせず、凄まじい速度で、一直線に飛んでいく。

 狙いは確かだ。

 その鋭い鏃は、塔の上に立ち、詠唱を続けるルビーチェの顔へと、あやまたずに突進する。


「獲った!」


 武人は確信した。


「おお、やったか?」


 だれもが、必殺の矢がルビーチェを射貫くことを疑わなかった。

 と、その時だ。

 ルビーチェの横に立っている姫が、そのたおやかな右腕を、ひょいと伸ばした。

 そして、放たれた勢いを失わずに飛んできた、その太い矢を、横からさっと掴み取ってしまったのだ。

 それはまるで、野の花を摘みとるような、そんな優雅な動作だった。


「ばっ、ばかなっ!」


 見る者すべてがあっけにとられた。

 自分の目が信じられない。

 矢を放った武人も、あまりのことに口をあんぐり開けていた。

 そして、ルビーチェも、驚いた顔をして、姫をまじまじと見た。

 グレンが可笑しそうに、言った。


「おい、ルビーチェ、どっちが護られてるのか、わかりゃしないな」


 姫は、にっこり笑って、


「ルビーチェさま、これまでのお返しに、わたくしがあなたをお護りいたしますわ」

「いや……なんといって……姫……」


 ルビーチェはうろたえて言葉が返せない。


「それにしても、ルビーチェさまを狙うなんて、あの男、許せませんね」


 そういうと、姫は、掴み取った矢を持ちかえると、美しい指に挟んで、ぽんと放った。

 軽く投げたように見えたが、矢は、どのような力が働いたものか、みるみる加速し、風を切る音を立てながら、稲妻のような速さで飛来し


 ドズッ


 武人の金属の鎧を、やすやすと貫いた。

 武人は、強弓を取り落とし、絶命してその場に倒れ伏したのだった。

 


90)


 この場合、本来なら、軍に動員されている魔道士たちも参戦し、魔法による攻撃をかけるところであろう。ルビーチェの炎の魔法を打ち消すような技を使ったり、あるいは氷柱の槍(アイスジャベリン)のような遠隔攻撃のできる魔法を使うなど、魔道士の使いどころは確かにあった。

 だが、そうすることができなかった。

 彼らは全員、ある()()のために忙殺されていたのである。

 大勢の人夫を使い、たいへんな労力を払ってここまで運んできた、あるもの。

 それを使うためには、動員された魔道士全員の魔力でかからねばならなかった。

 そのために彼らは、戦いに加わらず、温存されていたのだった。

 今、そのものは、本陣のわきにおかれており、戦況によって起動の準備が始められようとしていた。


いつも読んで下さってありがとうございます。最後の戦いが始まりました。楽しんでください。


面白いぞ! 続きを早く読ませろ! そう思われた方は応援お願いしますね!

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