表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鏖殺の剣の物語2  美姫の檻  作者: かつエッグ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/54

傀儡

20)


 すこし時間はさかのぼる。


 ――農民に扮したルビーチェは、大八車を引いて堤の道を進んでいた。

 農民のふりは演技だが、足取りがおぼつかないのは、これは演技ではない。

 重いのだ。

 荷台に積んだ袋の中には、巨漢のグレンが潜んでいる。


「くそっ、重いぞグレン。だいたい、俺はこういうのは苦手なんだよ」


 ルビーチェがぼやく。


「我慢しろ、お前が慕う、麗しの姫様のためだろうよ」


 と、袋の中から、グレンが、ルビーチェにだけ聞こえるように言う。

 そして、


「どうだ、そろそろやるか?」


 と、続ける。

 横目であたりを見て、位置を確かめ、ルビーチェが答えた。


「ああ、このへんでいいだろう」

「わかった、そおれっ!」


 袋の中で、グレンが跳ねる。


「うわあああ!」


 とたんに大八車のバランスがくずれ、土手を堀に向かって滑り落ち始める。


「早く、早く手を離すんだよ!」


 見ていたものが叫ぶが、ルビーチェがしがみついたままの大八車は、水しぶきをあげて、堀の中に飛び込んだ。

 

「よおし、予定通りだ!」


 堀に沈んだ袋の中で、グレンは、小刀をふるって袋を切り裂き、水中におどりでる。

 その手には、ぐるぐると巻いた綱のようなものを抱えている。

 グレンの横に、ルビーチェも沈んでくる。

 ルビーチェが呪文を唱え、発生した大きな気泡が、二人の頭を覆った。

 これで当面、水の中でも呼吸に困らない。

 その二人の前に、堀の底のほうで、不気味な赤い輝きが、いくつも瞬いた。


(きたな!)


 二人は、お互いに目配せをした。


 ゴワッ!

 堀の底の泥が、爆発するように膨れ上がる。

 泥を巻き上げながら、触手を網のようにひろげ、二人に向かって突進してくるのは、人食い烏賊の魔物ハーブグーヴァである。

 二人を取って喰らおうと、食欲に赤い目を光らせながら、うねるように体を泳がせ襲い掛かってくる。


 はあっ!


 グレンが、素早い動きで、手にしたものを投げた。

 グレンの手から放たれた、二つの銀色に光る金属の刃が、水の抵抗をものともせず、一直線にハーブグーヴァに向かって疾走し、


 どずっ、どずっ!


 ハーブグーヴァの、えらの下に突き刺さり、体内に潜り込む。

 そして、二つあるハーブグーヴァの神経叢に、あやまたず到達し、放射状に金属の根を広げる。

 金属の刃の柄に結び付けられている黒い綱が、ピンと張った。

 この綱は、銀を編んだ芯を絶縁体の樹脂で覆ったものである。コーティングされた電線に他ならない。

 グレンから綱を渡されたルビーチェは、それぞれの手に一本ずつ、綱の端を握った。

 そうしている間にも、触手の網をとじて、二人をからめとろうとするハーブグーヴァ。

 しかし、その前にルビーチェの手元が紫色に輝き、導線を伝わった電気刺激が、ハーブグーヴァの神経叢を貫いた。


 ぎくん! ぎくん! ぎくん!


 ハーブグーヴァの身体が踊るように痙攣し、やがてその触手を、だらりと下す。

 赤い目が点滅する。

 

「うまくいったぜ」


 ルビーチェが、綱を握ったまま右手の親指を少しひねると、ハーブグーヴァの一本の触手が、すっと持ち上がる。

 人差し指を動かすと、また別の触手が持ち上がる。

 こうなれば、綱を通して電気刺激を送り込むことで、ルビーチェはハーブグーヴァを自在に操ることができるのだ。大魔導師ルビーチェにして可能な、超高度な傀儡の魔法である。


「あとは、これを使って――」


 いったんはなんとか浮かび上がった農民が、抵抗虚しくハーブグーヴァの餌食となって水の中に沈んでいく――そんな光景を演じたのだった。



21)


 こうして首尾よく堀の中に潜った二人は、水中を移動し、アラハンの下水道が堀に流れ出る、その排出口にたどり着く。

 排出口には、ハーブグーヴァの力でも壊せない、頑丈な鉄製の太い格子がはまっている。

 本来なら通過できないその鉄の格子も、ルビーチェの腐食の魔法により腐り、ぼろぼろになったところを、操られたハーブグーヴァが触手で掴むと、あっけなく捻じ曲げられた。

 できた隙間から、ルビーチェ、グレン、そしてハーブグーヴァが侵入する。

 格子は慎重を期して、何重にも設置してあったが、すべて、ルビーチェの魔法とハーブグーヴァの膂力によって破壊された。

 下水道は巨大な隧道になっていた。

 片側に、人が並んで立てるくらいの、整備用の通路があり、中央は下水を満々にたたえている。

 ルビーチェが魔法の灯をともす。

 壁と、水面がその光を反射し、影を作る。

 二人は通路を進んでいった。

 ハーブグーヴァは、中央の下水の中を、大人しく付き従って這い進んでいく。


「うむ、臭いな」

「ひどいもんだ」


 生活上のごみや、得体のしれないかたまりで、水は濁っている。

 ある場所には、半分腐って骨が露出した、人の死体と思しきものまで浮かんでいた。

 ルビーチェの魔法の灯りが、苦し気に歯をむき出した死体の顔を、ちらりと照らした。

 地下道に逃げ込んだ犯罪者の末路か、それとも、なんらかの犯罪の犠牲者か。

 二人はそっけなくその横を通り過ぎていく。

 地下道には、ところどころに、地上にでるための縦穴があった。

 だが、梯子は埃と泥にまみれ、使うものも永くなかったようだ。

 やがて、ルビーチェが言った。


「ここだな、この上が広場だ」

「さっきのように、地上に出られる穴があれば都合がいいんだが」


 グレンが天井を見上げて言う。


「残念ながら、このあたりにはないな」

「いいさ、掘ればいいんだから」

「そうだな。どっちみち、少し時間をおいたほうが、上の連中も油断してくれるだろうよ」


 二人はその場に落ち着いて、まずは腹ごしらえをする。

 通路に腰を下ろし、煮炊きを始めた。

 そんな二人の様子を、下水から、烏賊の三角頭を突き出して、ハーブグーヴァの、一列に並んだ、大きく、丸く、赤い目が、無表情に見ている。

 ハーブグーヴァの触手が、さっと延びた。

 

 キキィッ!


 触手に絡めとられ悲鳴を上げたのは、マルモット、犬ほどもある、甲羅を持った鼠の魔物である。普通の人間がマルモットに襲われると、その防御力の高さもあって、かなり手こずる。群れに襲われたらまず助からない。

 煮炊きの匂いと人の気配に引き寄せられたようだ。

 ハーブグーヴァは、マルモットを体の下にある口に運び、鋭い嘴でばりばりとかじった。

 硬いマルモットの甲羅も、ハーブグーヴァにとってはなにほどのこともない。

 活きの良い、美味しい食料に過ぎないのだった。

 二人を餌にしようとどこからともなく現れ、押し寄せるマルモットの群れを、ハーブグーヴァは次々に平らげていった。


「こいつは、なかなかいい番犬じゃないか」


 グレンが笑った。


 それから二人は、ハーブグーヴァも動員して、地下水道の天井を慎重に崩し、広場への出口を掘り上げていった。


「このくらいで十分か」

「そうだな、あとはこいつ(ハーブグーヴァ)が、一押しすれば出られるだろ」

「うむ、では、今夜くらいにやるか」

「そうしよう」


 そして、襲撃の夜が来たのだった。


いつも読んでくださってありがとうございます。こういうことだったんです。


面白いぞ! 続きを早く読みたいぞ! そう思われた方は、応援お願いしますね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ