今日、勝負下着を購入しました。
汗ばんだ身体を急速に冷やす百貨店の空調を気持ちよく感じながら、エスカレーターで目的の階まで乗り継いだ。目的の階に着くとそこは神聖な場所のように静かで綺麗な匂いが漂い、品のある女性がこちらに熟練された柔らかな微笑を向けた。その微笑に惹きつけられるように神聖な場所に右足を突っ込んだ。重力が変わってしまったのかと錯覚し全身が軽く、驚いた。
さっきの笑みのまま「いらっしゃいませ」と会釈するのを尻目に受け、お上品な色の下着に恍惚とする。自分の胸が平均よりも大きく、サイズの合う下着に限りがありすぎて、下着を色や柄で選ぶということをしてこなかったので憧れが強い。あと、大きいサイズで可愛いものと値段の上がり方は比例していてなかなか手が届かなかった。でも、もうハタチが目の前だ。勝負下着の一つを持っていないなんて恥ずかしい。だから奮発して私の好きな色とデザインの下着を買おうと思い、この神聖な場所へ来たのだ。別に、今好きな人がいるってわけではない。だけど予定ではもうすぐできるはずなのだ。備えあれば憂いなし、だ。
レースに光が当たって、キラキラと輝く様が女の子の夢の中にいるみたいで食べたら美味しそうだ。そうやって見ているとさっきの女性ではない女性、ここでは店員Bとでも呼ぼう。その店員Bさんが「こちらの商品かわいいですよね」と私に話しかける。こういうのは何度受けてもなれないが、今日は夢の中同然なので「はい、すごく。」と本音が出た。次にサイズの有無を訊くとまず私の胸のサイズを測ることになった。久しぶりに測ったがサイズに変化は特になく、成長が止まったことに意図せず安心を覚えた。店員Bさんが「こちらの商品ですとお客様に合うサイズの取り扱いがないんですよ〜」と今まで何度も聞き台詞化した言葉が耳に届く。少し残念に思っているとサイズ展開のある商品を紹介された。どれも可愛くてその中から二、三着選び試着することにした。
下着が汗を吸収し湿っていた。冷却シートで上半身を拭きピンクというより桃色をした下着をつける。胸にフィットし肋骨のところも痛くなくて高級品の質に感動する。桃色が私の肌を綺麗に見せ、昔深夜に見た海外映画のワンシーンを思い出した。次は紫、黒、と色々つけ違う自分になっていく鏡の私が可愛く綺麗だった。いつかこの姿を好きな人に見せる日が来ると考えたら顔が火照り続いて胸の辺りが騒がしくなった。結局、ピンク色じゃない桃色の下着にした。好きな人にはこういう雰囲気の私に触れてほしいと思ったからだ。予定はないけれど。
試着室を出て、店員Bさんに「これをください。」桃色の下着とその他の下着を区別して渡す。すると「サイズはいかがでした?」と聞かれ「ちょうど良かったです。」と少し言葉の使い方が違うような返答をした。
お値段は予算内ではあったが1ヶ月分の食費が消えた。ブラジャーと合わせてパンツも購入した。予算を超えた。だが後悔はしていない。夢の中で女の子になった私が今の私だったからだ。支払いを済ませ歩き始めた頃にはここの重力にも馴れエスカレーターに飛び乗った瞬間押し潰されそうな重力に鶏胸肉が一番安い店を探した。