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『ダンジョンシーカーズ』 ~スマホアプリからはじまる現代ダンジョン制圧録~   作者: 七篠 康晴
第2章 竜の花嫁

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第六十二話 重家情勢複雑怪奇(3)




 ここまで遅くの時間に、外へ出かけていたことがあっただろうか。

 竜の身となり、眠気というものと無縁になってから久しく、夜更かしの興奮であったり宙を浮いているような気持ち悪さを抱くことはない。


 今日の会合は概ね、有意義なものであったと言える。妖異殺しのものたちとはほとんど話すことができなかったが、ビジネスマンであったり、プレイヤーたちとは話をすることができた。いつどこで使うことになるかは分からないが、間違いなくこの縁は役に立つ。


 人がだんだんと少なくなってきた会場の中で、一人円卓の前に座っている。そこへ、煌びやかなドレスを着た俺の彼女がやってきた。


 机の下が見えないほどに大きいテーブルクロスが敷かれた円卓へ、彼女は手にしていたグラスを置く。その後、淑やかな動作で椅子を引き、座り込んだ。


 周りをキョロキョロと見て、誰もこちらを観察していないことを彼女が確認する。


「……ちょっとだけ、つかれました」


「お疲れ様。里葉。明日は、ゆっくりできるのか?」


「…………ここしばらくは、無理そうです。明日は、ひろといれません」


「……そうか。俺に手伝えることがあれば、なんでも言ってくれ」


 昨夜のことがあった手前、突っ込んだ話は聞けない。少しだけ、気まずい空気が俺と里葉の間に漂う。


 その時、彼女が下の方を気にするそぶりを見せた。何かあるのだろうかと空間識を用い確認してみれば、どうやら、謎の生物が机の下から里葉の足にスリスリしてるっぽい。ひらひらとテーブルクロスが揺れている。


「…………ヒロ。今日はもう、ささかまさんに笹かまぼこあげましたよね?」


 ……あのデブ猫。


 里葉を見て、勝手に出てきやがった。


「ああ。里葉が不在になってから、里葉がやっていたのと同じ量を、同じ回数同じタイミングで与えている。もう今夜もあげたぞ」


「……こら。ささかまさん。私から貰ってないからって、食べれるってわけじゃないんですよ。め」


 優しい、けれど叱るような声色で、彼女は言う。


 里葉は足で、ささかまの顔をちょっとぐりぐりしてるっぽい。顔を歪ませながら、なんですかみたいな顔をしているあのデブ獰猛気まぐれ空想種キャットの姿が頭に浮かぶ。


「ぬっ」


「…………」


 重世界の扉を開き、無理やり強制送還した。

 穴に吸い込まれていく猫の姿を見届けた里葉が、クスクスと笑っている。


 その時の、彼女が左手で口元を隠す動作であることに気づいた。絢爛たる照明に輝くべき、煌めきの姿がない。


「里葉。あのブレスレット、今は外しているのか」


「いや? 私、ヒロにもらってから大事に大事にずーっと着けてますよ? ほら。今は、透明にして見えないようにしているんです」


 能力を解除し、その姿を俺だけに晒した彼女。


 白金の輪からぶら下がる白藤の花を()で、彼女は撫でる。


「ほら。その、重世界産のものですから。これは。目をつけられたりしても面倒ですので」


 何故か言い訳するように言った彼女が、覆い隠すように再び、白藤の花を消失させた。

 開花するその思いはまだ、日の目を浴びない。







 朝焼けの空に鰯雲。春の緩い風が吹き、木の葉のさざめきは嘆くように。


 ━━━━ああ。なんて腹立たしい。


 仙台を訪れ『ダンジョンシーカーズ』の妨害工作を行っていた重術師の男は、彼が仕える家の者たちとともにすでに帰路についている。


 苛立っている今では、天に光り輝くお月様でさえ自分たちを嘲笑っているように思えてならなかった。

 彼の前を進む白川家の当主は、その怒りを隠すことなく顕にして、地団駄を踏んでいる。


「このッ! この……ッ! ふざけおって! 成り上がりの空閑めが! それだけではないッ! 周りの家々も、誇りなき奴を接受しておるではないか! 重術を率いたのは我々白川であると言うのにィッ!!」


「御館様……」


「それに、腹立たしいのは雨宮のアマどもよッ!! 今更抗いおって……幹の渦など、知ったことか! 晴峯の愚か者も、雨宮は立ち直るなどと吹聴しおって……奴らが血を残すのは我らの下でのみだと言うのに、何故それが分からん!」


 発散できない苛立ちに、青筋を立てる当主は握りこぶしを作る。恭しく一歩前に出た重術師の男が、彼に一礼をした。


「……しかし、御館様。なればこそ今、雨宮を抑えるべきかと。妖異殺しの術を得、勢いをつければ、空閑の勢いに勝るとも劣らず」


 みっともなく地団駄を続けていた当主が立ち止まる。彼とて、建設的な話をしなければならないと分かっていた。


「……で、あるか」


「御館様。そこで不肖この鳴滝(なるたき)、雨宮を抑えるにあたって、最強の味方を用意致しました」


 鳴滝と名乗った重術師は、当主である彼に話をする。その計画を聞いた当主は打って変わって上機嫌となり、軽やかな足取りで家を目指した。







 夜の帳が東京に下りてから、長い、長い時間が経った。ある程度の時間を潰した後、即座に退席した保守派に続いて、少しずつ人々はパーティーを離れていった。


 この夜会も大詰めを迎える。


 何度も変革の時を迎え、常に変わり続け存続したと言う妖異殺しの家、佐伯家は、この夜会の中で自ら積極的に動くことはなかったものの、参加した人々の動きをずっと観察していた。


「爺様。ねむいですわたし。それに、あの竜が私のことに気づいたりしたら何が起きるのか分からないのではやくかえりたいです」


 初維(うい)が目元を態とらしくこする。煌びやかな桃色の振袖を着ている彼女は、今すぐにでもその窮屈な服を脱ぎたそうにしていた。


 彼女の前に立つ、巨躯の老人が鋭く否定する。


「我慢せよ。初維。いやはや、この眼で確かめようと久方ぶりに外界へ出てきたが……あれは本物だ。それに、近づいてきたものを見て察するに……存外、猪武者というわけではないらしい。無論、若さはあるがな」


「何いってるかわかんないです。爺様」


「お前はもう少し頭を使え。腕っ節だけでは生きていけぬぞ」


 片付けが少しずつ始められた会場の中で、初維がうんうんと唸る。


「しかし、爺様。結局老桜様はいらっしゃいませんでしたね」


「……あれだけの時を生きておいてあの者は、気分屋なところがある。何かまた、悪巧みをしていなければよいが」


「ねーねー帰りましょうよ。爺様」


「……よかろう。撤収するぞ」


 強大な妖異殺しの家である佐伯家が会場を去るのを見て、他の家々も動き出した。


『ダンジョンシーカーズ』の登場に、やはり重家の峰々は動揺している。こういった不安定な時期ほど、大事件というのは起きるものだ。そう確信した佐伯家の老人は、家の者たちに口を酸っぱくさせて、ただただ備えよと言い聞かせていた。




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