共闘
それは突然起こった。
Bクラスのリーダーと接触してから数日経ったある日。俺はいつも通り学校に登校していたのだが、校門に人だかりができていた。だが、何故かAクラスの人間とFクラスしか見当たらなかった。
「何があった?」
俺は唯一話し掛けられる人物である、汗衫にそう問い掛ける。
「あ、零か。実はな。俺も登校した時には校門はもう閉まっていたんだ。どうやら、Aクラスと俺たちを学校内に入れさせないつもりらしい」
「Bクラスか」
「ああ、多分な。ったく、何が狙いなんだ?」
Bクラスが何が狙っているのかなど分からない。そうなれば、本人に直接聞くしかないだろう。
俺は、学校の周りを観察するように歩き出す。
「裏口もダメだぞ。そして、学校の周りにも能力に反応する結界が張られてるからな」
「ああ、分かった」
結界、か。ということは、このエリアでは能力が使えないというわけだ。
「まあ、関係ないがな」
俺は、脚に力を入れて、軽やかに跳躍し、5メートルもある学校の塀を飛び越える。
「なんか、簡単だな」
確かに、能力者に対しては効力を発揮出来るが、俺のような無能力者には何も意味をなさない。
俺は脚をトントンと地面に軽く打ち付けながら、俺は校舎へと歩を進めた。
校舎内に侵入し、上にあるBクラスの教室へと向かう。が、
「やけに見張りが多いな…」
常にBクラスたちが校舎内を巡回している。俺はトイレ近くの物陰に身を隠す。すると、前方から足音が聞こえてくる。それは少しずつ近づいてきていて、俺は次の行動を考えていた時、
「――ッ」
いきなり肩をたたかれたかと思うと、口元を抑えられ、トイレの中へと引きずり込まれた。
「間一髪だったわね」
「……何でお前がいるんだ、舞原千歳」
俺をトイレに引きずり込んだのは、舞原千歳だった。
「あら、それはこっちのセリフだけど、無能力者さん?」
「あの結界が無能力者に意味をなさなかっただけだ」
「あっそ。まあいいわ。取り敢えず、仲間、っていうことでいいのよね」
「好きにしろ。で、今回の情報はないのか?」
「ええ、あるわよ。でも、知っているのは一つだけ。これを実行したのはBクラスのリーダー、堀藤雅ということよ」
「なるほどな」
この間、接触したやつのことだろう。
「で、これからどうするつもりなんだ?このままじっとしてても侵入した意味がないだろ?」
俺は少し、辺りを見渡しながら、立ち上がる。
「何でそんなソワソワしてるのよ」
こいつ、デリカシーというものを知らんのか。当の本人は、本当に不思議そうに首を傾げている。
「いいか、俺は男だ」
「ええそうね。見ればわかるわ。貴方が女には見えないわね。馬鹿にしてるの?」
「違う。問題はそこじゃない。お前はここがどこだか知ってるのか?」
「トイレの中ね」
「#女子トイレ__・__#のな」
そう。俺たちがいるのは女子トイレの中なのだ。どう考えても、俺がいていいべき場所じゃない。
「何?私に男子トイレで隠れろと?」
「違う。そういうことじゃない。ああ。もういいや。さっさと行こうぜ。どうせ教室にいるんだろ?」
「ええ、おそらくね。だけど、楽しみね」
「何が?」
意味深なことを言う舞原にそう聞き返す。
「貴方の本気を見れるのが」
そんな馬鹿なことをいう彼女に俺は答える。
「俺は常に本気だよ。何せ、無能力者なんでな。手を抜いたら、殺されちまう」
「それが本当かどうかはこれからわかることよ」
と、言いながら、俺達はトイレを出る。
舞原は俺にどれほどの期待を持っているのかは知らないが、事実、俺は無能力者。本気もくそもないっていうのに。
そうして、俺達は最上階にあるBクラスの教室を目指していたのだが、その道中。
「手をゆっくりと上にあげろ」
突然背後からそのような声が響き渡り、俺達はゆっくりと手をあげる。チラリと後ろに目をやると、こちらに向けて手のひらを向けている男がいた。巡回に見つかったか。だが、構えを見るにおそらく能力者。何かを発射する系の。
「お前ら何処から入ってきた?外には結界が張ってあったはずだ」
「結界も何も、それが不完全だったからじゃないのか?」
「そんなことは…」
「それに加え、」
俺は隣にいる舞原に視線を送り、
「お前のその警戒心も不完全だったということだよ」
瞬間、舞原が動いた。それと同時に鈍い音が聞こえ、男は倒れた。俺は嘆息しながら、舞原に言う。
「仕留めてくれた所悪いが、そんな音だしたら…」
その直後、前方と後方から音を聞き駆け付けた巡回していた生徒たちが一斉に俺達を取り囲んだ。
「こうなるだろ」
「盲点だったわね」
盲点でもないだろ。こうなることぐらい予想してもらわないと困る。俺はため息をつく。
「じゃ、後はよろしく」
「何言ってんの?貴方も戦うのよ」
まるで当たり前かのように言う舞原。冗談じゃない。
「俺が能力者ならそうしたかったがな。あいにくと、俺は無能力者なんだ。戦闘には向いてないんだよ」
「じゃあ、その腰にぶら下げているものは何なの?ただの飾り?」
舞原が俺の腰の辺りを一瞥する。
「これは護身用にだな…」
「だったら、尚更今使うべきなんじゃないの?」
全くの正論だ。俺は渋々、ナイフを抜き、舞原と背中合わせになる。
「私の背中、預けたわよ」
「だったら、丁重にお返しさせてもらおう」
そう言って、俺と舞原は同時に動き出すのだった。