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まだ終わらない刺客

 鈍い音が響く。

 俺の放った拳は飛び掛かった男の腹部をとらえ、勢いに負けた男は吹っ飛ばされる。

 頭めがけて降られたナイフは、しゃがみ込んで回避。そのまま足刀、追撃。援護しに来たもう一人に対して牽制。距離をとる。

 いや、地を蹴る。攻撃の意思を見せないなら怖くはない。

 キラリ、と日に照らされたナイフを視界でとらえる。鋭いナイフの斬撃を寸前ですべて避ける。手首を掴んで体ごとひっくり返せば、後は拳を叩き込むだけ。

「まだいんのか……、多すぎだろ」

 舞原と戦った翌日、太陽が頂点に達したこの時間に俺はこの森の中で次から次へと現れる刺客の対応に追われていた。

 淡々と反応、迎撃、回避など動いてはいるが、気を抜けば一瞬で俺の命を刈り取られるだろう。

 地面から突如として生えてきた植物のツタが縄のように巻き付いたそれは、命を持ったかのように俺に襲い掛かる。一本をかわし、後ろから来たもう一本も転がり込んで回避。

 ベルと同じ階級に属する組織の人間、ブライア。植物を操る能力をもつ。このフィールドではなかなかに厄介な相手だ。

 実際、現状奴には手を焼いている。

 奴のもとに行くのは簡単だ。だが、その後どうするかが問題だ。

 跳躍しても着地を駆られれば、さすがに俺もきつい。加えて武器もないからあいつの攻撃に対して避けることしかできない。

 なら相手を利用するという手が一番有効的だ。

 つかみにかかる一人をぶっ飛ばし、走り出す。

 ブライアはこれぞとばかりに、先ほどの攻撃を繰り出す。

 1本目を跳躍することによって回避。そのつたをもう一度蹴って跳躍。ツタの攻撃自体を足場にしてブライアに迫る。

「うっそ、ちょっとまっ……」

 慌てて距離をとろうと背を向けるが、遅いな。

 俺はブライアの目の前に立ち、進路を妨害する。

「おい、どうしたよ。俺がもっと小さかったころは随分といたぶって教育してくれたじゃないか」

「うるさいわね! 調子乗るんじゃないよ!」

 鋭いツタの攻撃。だが、冷静さを失った攻撃の軌道は実に単純で雑だ。

 一瞬で懐へ。

「そんな顔すんなよ。せっかくの顔が台無しだろ?」

「なんっ」

 俺は返答は待たず、顔面を打ち抜いた。

 別に女だろうが何だろうが、俺は容赦なく殴るけど。

「台無しにしたのは俺だったな」

 悪いな、と思ってもないことを口にする。

 気づけば、ほかの刺客達はいなくなっていた。

 俺は素早くその場を離れた。

 すぐに生臭い音が聞こえる。組織が処理した音だ。

 いったい何がしたいいのか。いかれた組織の考えていることなんざ知りたくもないが、ろくなことじゃないのは当然だ。

 勿論、俺の邪魔をするなら力づくでこじ開けるまで。


 日が落ち、俺が拠点とする周りは静寂に包まれる。だからこそ、少しの違和感もすぐに気づくことができる。

 身構える。誰かがここに近づいている。

 刺客の可能性が高い。

 歩幅は、一定。速さは、歩行している? 様子をうかがっているのか? 人数は? 一人、か。待ち伏せなのか。

 あらゆる情報から分析をするが、それは意味をなさないことが分かった。

「椿零様、姿を見せて下さい。お話がございます」

 声がした。どこか聞き覚えがある。

 ガサガサと音を立てながら、確かに俺の方に歩いてきている。

 少なくとも敵意があるわけじゃなさそうだ。

 俺は警戒だけは切らさず拠点から出ることにした。

 声を発したそいつはすぐに見つけることができた。

 物騒なこの試験には見合わない、白い医療服を着たその女は、確かに俺は見覚えがあった。

 前回の試験中、俺はこいつと接触し、組織がこの学校に絡んでいることを悟った時。俺がこき使っていたあの体を金属化する能力を持つ男を始末した女こそ、今目の前に立つ者であった。

「何の用だ。お前らは俺の気分を害するのが相当好きなようだな」

 日中の間、ずっと組織の刺客達を相手取り、試験のポイントも得られないただ時間を浪費するだけの戦闘を繰り広げ、疲労はたまる一方であり、その分機嫌を悪い。ろくなことしか言わないようだったらマジ沈めるぞ。

「勘違いしないように。私は彼らとは違い、戦闘要員ではありません。あなたと戦っても私に勝ち目はないでしょう」

「なら尚更、俺のところを訪ねたことに疑問が生じるわけだが」

「私はただ忠告をしに来ました」

「忠告?」

 仲間がいるかもしれない。警戒は怠らない。だが、わざわざ忠告をするためだけに俺のところに来たというのか。

「戦闘員じゃなかろうが、組織の人間だということに変わりはない。お前らが俺のことを始末することが目的なら、今のお前の行動は組織の命令に反することだ。そんな危険を含んだうえで俺に言いたいことがあるのか?」

 なぜこいつは組織の命令を無視した? 聞きたいことは山ほどある。だが、まずはこいつの話を聞くべきだろう。

「この試験を通して身に染みたでしょう。この学校はあなたがいるべき場所ではない。これはあなたを追い出そうとしているわけではないのです。ここはあまりにも危険すぎる」

「危険すぎる、このまま在籍し続ければどうなる?」

「組織へ逆戻り、で済むといいですね」

「笑えないジョークだ」

 冗談じゃないってことぐらいはわかっている。

 これでようやくわかったことがある。

「この学校は組織の直属なのか?」

「そうなりました。わが主の意志による結果でございます。あなたがいたことはついでの副産物にすぎません」

 俺がいることに原因があるわけじゃなかったのか。組織の狙いまで聞き出したいところだが、今話すことではないか。

「だとしたら、この試験がそもそもの罠なのか」

「おっしゃる通り、この試験では更なる生徒の成長を促進させることと、あなた様の抹殺の意味が込められています。組織はこの学校の優秀な生徒を新たな兵器として取り込むために動いているのです」

「また外道でもやってんのか。飽きないな」

「だからこそ、私からの忠告です。一刻も早くこの場所から離れてください。そのための脱出ルートは私が用意しましょう」

「怪しさ満点だな。暗殺し放題だ」

「私に自身の身の潔白を証明するものはありません。ですが、言えることが一つだけあります。それは私が今も昔の主、あなた様の言う主様を信仰し、彼の残したあなた様という最高傑作を任されているということでございます」

「お世話される筋合いはないが、お前。主の何だったんだ?」

 その言葉に返答はなかった。

 女は時計を見ると、時間です、と呟き踵を返す。時間切れだ。

「なら俺も最後に一つだけ聞きたい。お前は組織の何なんだ。俺に何を望む」

 背中に問うが、遠ざかるばかり。だが、少しだけ振り向くと先ほどと全く変わらぬ表情で応える。

「私は自分の役割を全うするのみ。全ては主のため」

 その言葉が俺の未来を確定づける。もうここにはいられない。

 この試験、最後まで気は抜けない。命のゲームが始まっていた。

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