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やり方

「妹のターンはもう終わりか?」

 苦悶に満ちた表情をしながらベルが問う。

 俺はベルから奪ったナイフを両手でもてあそびながら、うずくまって動けないベルを見下ろす。

「あいつの役目はお前への抑止力だ。お前の戦闘スタイルはどうしても武器を使用した攻撃以外脅威にならない。つまりは激しい外傷を相手に与えることが主な攻撃方法となる。なら、その外傷を回復させてしまえばいい」

「超回復の能力、か。十分すぎる脅威だな」

 そう、俺の妹の能力は超回復。あらゆる外傷は直ちに回復し、回復した場所は一時的に耐性が強くなる。攻撃されればされるほど、相手の勝ち筋が消えていく特殊な戦闘スタイルを得意とする。ベルに対しては相性が良すぎた。

「完成品のお前なら、妹の力など借りずに僕には勝てたんじゃないのか? どうしても僕のような幹部と完成品の実力差はあり過ぎる」

「俺はこの学校で全力を出すことはしない。それに、今回は俺よりも妹のほうが相性がよすぎただけだ」

 俺がもとより全力で相手をしていたとしたら、妹の力など借りずともこの場を制圧できてた。だが、残念なことに俺が全力で戦ったことによる自分への代償がないわけじゃない。

「俺にはそうやすやすと能力が使える状態にはない。その状態の中の最適解を見出しただけだ」

「はっ、そうかい。だがいいのか? 僕にそんなぺらぺらとしゃべって」

「どういう意味だ?」

「僕はまだ敗北宣言はしてないっ!」

 瞬間、ベルは軽く地を蹴り、俺に襲い掛かる。だが、俺はそれすらも予想通りだと言わんばかりの反応速度を見せ、それを避ける。さらに、ナイフを取り返そうと伸ばされた手首を掴み、そのまま振り回してもう一度大木に打ち付けた。

「があっ……!」

 獣のようなうめき声を上げ、その場に崩れ落ちるベル。

「俺に油断はない。その不意打ちも無意味だ」

 この場面で油断していい瞬間などない。

 相手の息の根が止まらない限り、揺るぎない勝利など訪れることはない。

 つまるところ、俺の勝利条件はこいつを殺すこと。それ以外の手段とることは考えていない。

「はっ、そもそも幹部の僕が完成品に一瞬でも勝てると踏んだのが間違いか……」

「いや、どうせその判断は上の判断なんだろ? だとしたら間違えたのは上の連中だ」

「どいつもこいつも、なめすぎた結果がこのざまか。ざまあないな」

 ははは、とベルは力なく笑みをこぼす。

「自己分析をするのは勝手だが、俺もお前に時間を食っているわけにはいかない」

 忘れてはならない。現在進行形で試験は続いている。

 俺はベルの相手をしたことによって幾つかのポイント獲得のチャンスを逃している。

「は、安心しろ。お前がわざわざ自分の手を煩わせる必要はないさ」

 そういった直後、俺の背後からベルの胸元へ光の線が襲った。

 出血、することはなく、また苦悶の表情を浮かべることもなく、静かにベルは絶命した。

「幹部ゆえの口封じ策か。相変わらずイかれた方法をとりやがる」

 掴んでいる手首には既に力はこもっていない。首は重々しくうなだれ、その体重は大木に完全に預けられている。

 俺は手を放し、その場を後にする。この場にいても何もいいことはないだろう。

 きっと奴の死体は組織によって明日までには完全に消滅させられるだろう。お式から逃げている身である俺にとっては避けるべき対面だ。

 つい数分前まで仲間として、幹部として組織に貢献していたはずなのに、躊躇もなくその口封じ策を講じて見せた。

 だが、これではっきり分かった。俺を狙ってきているのは組織の奴らであり、その目的は俺を殺すこと。または組織に連れ帰ること。だが、連れていかれたとしても待っているのは裏切り者としての死以外の何物でもない。

 どちらにせよ、捕まれば死。バットエンドルートまっしぐらだ。

 さらに言えば、どうやらこの学校に組織に所属する人物がいるようだ。試験に堂々と幹部を送り込み、更には武器を承認するとは、学校の中ではなかなかに上の立ち位置にいるのかもしれない。

 だとすると、まだ幹部クラスの刺客は潜んでいる可能性は高い。

 自分の手を汚さずに策を講じてくるところを見ると、組織の人間らしい薄汚い人間性が垣間見える。

 どうにせよ、組織がこの学校に深くかかわっているのは間違いない。もはや疑う余地もない。

 もし、この試験を無事終わらせたとしても、きっと似たような試験が続けば同じような状況に陥るのは想像にたやすい。

 この学校は既に俺の中では安全ではなくなってしまった。ここに居座り続けるのは危険すぎる。時がたてばたつほど行動は大胆に、そしてそのインターバルは短くなる。常に命を狙われる、そんな状態に陥る未来はそう遠くない。

 潮時は近い。いや、それは薄々感づいてはいた。それは前回の試験から。試験に組織の人間がかかわっていることがより、その可能性を高めていった。俺の推測は確証へと変化していった。

 でも、それを深く考える必要はない。俺は今、この試験を何とかして終えることを考えればいい。

 それもこれもすべてこの試験が終われば……。

 微かな希望と覚悟を決めて俺は、朧月が似合う空模様を見上げた。

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