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奇襲

 突然の爆音。

 何の脈絡もなしに聞こえてきたその音に俺は目が覚める。

 急いで寝袋をたたみ、手ぶらで外に出る。と、何やら森の少し奥の方で既に戦闘が繰り広げられているようだ。横槍を入れるつもりは毛頭ないが、情報収集のために少しのぞいてみることにする。

 少し歩くと、開けた場所に出る。そこで二人は戦っていた。一人は知っている。槙田燐、前回の総当たり戦で戦った双子の一人だ。もう一人の奴は、顔がよく見えない。だが、場面は燐は少し優勢だ。燐は数回足で地面をたたくと、地を蹴り、相手との距離を詰める。相手はそれを察知して後ろに下がろうとするが、遅かった。

 疲労ゆえか、予測まではよかったが体は想定よりも遅く動く。動作は遅れ、燐の射程範囲内へ。瞬間、撃ち込まれる拳で一人の生徒は文字通り吹っ飛んだ。気にもたれかかるようにして伸びている。

 燐はそれで満足したのか、周りを見渡し、俺と目が合った。

「あ、あんた……」

 俺は仕方なく、茂みから出る。

「なに、やろうっての?」

 肩で息をしながらも、俺への攻勢を見せるところ、それなりの警戒はされているようだ。

「いや、別に戦闘の意思はない。お前がやるというのなら話は変わるが……。ただ近くで音がしたから少し見に来ただけだ」

「あっそ。試験でもあんたはそのスタンスを貫くのね」

「何の話だ?」

「あんたはどんなことがあっても自分から行動を起こすことはしない。それはこの試験でも変わらないのねってことよ」

「慌ててポイントを集める必要がないと思っただけだ。まだ試験は一週間以上ある。いまから飛ばしてたら体がもたない」

「総当たり戦で一回もリタイアしなかった奴が言う?」

「それとこれとは話が違う」

 舞台にルールまで違う試験のことを出されても、まったく参考にはならない。同じ戦闘の分野があるからと言って比べる対象になるとは言えないな。

「まあ、どちらにしても私は今あんたと戦うつもりはない」

「そうか、それは助かる」

「でもいつかあんたの顔面に渾身の蹴りを打ち込んでやる」

「そりゃあ、また大層迷惑な話だな」

「じゃ、私は行くから、付いてくんなよ」

「ああ、わかってるさ」

 俺もやりたいことはある。まだ1日は始まったばかりだ。


燐と別れた後、俺は島内の森の中を歩く。

今日は自分から戦闘を仕掛けるつもりは毛頭ない。ほかの生徒から挑まれるというのならば話は変わってくるが、取りあえずは今日は静観して過ごすつもりだ。理由としては、まずは今日が戦闘解禁初日だということ。つまりは、基本的に血眼になってSクラスを目指す生徒たちにとっては一刻も早く、そしてこの試験内になるべく多くの戦闘を行い、ポイントを稼ぐ必要がある。何故なら、舞原、西園寺といった圧倒的実力者と共に、俺という予想だにしていなかった候補が現れたことだ。

Sクラスの枠は10人。そのうちの2枠はもはや決まったといっても過言ではない。後の追随を許さないほどにあの二人の実力は飛びぬけている。だから狙うとしたら、残りの8枠。だがそこに俺という異分子が乱入してしまった。今まで無能力者と、最弱だといわれていた生徒が突然、試験で驚異的な結果を残すという離れ業をやってのけた。それ故に8枠を狙う生徒はこう思う。「他にも同じケースが潜んでいるんではないか」と。当然その可能性は低いが目の前で具体的な事例を見せれてしまえば、頭で理解していようとも、そのような心理に陥ってしまうのも無理はない。つまりは、皆は恐れている。抜け駆けするような実力者が潜んでいることを。そんな状態で悠長はことはしてられない。と、焦る気持ちが先行し、戦闘解禁初日にもかかわらず、アクセル全開で戦闘を開始する生徒は少なくない。

だが、冷静に考えれば、これは大きなチャンスでもある。

初日から飛ばせば体力の消耗が激しいのは考えるまでもない。前回の試験であれば、疲労したとしても、部屋に戻れば柔らかいベットと、美味しい食事にありつけた。言うなれば、疲労回復するための状況は整えられていた。だが、今回の舞台は打って変わって無人島。慣れない環境と、寝心地はお世辞にはいいとは言えない寝袋、十分とは言えない食事。通常の生活も送ることができない環境で回復仕切れず溜まる疲労とそれによるストレス。身体的にも精神的にも疲労したところを俺が刈り取れば、俺の手間も含めて最低限ですむ。わざわざ戦闘を広げるまでもなく、すぐに終わる作業だ。だからこそ少しばかり静観して、隙を見て疲労した生徒を刈り取る。これが今回俺が考える策だ。

そのためには島内の情報はなるべく収集しておいたほうがいい。地形は既に頭に入れたが、今この島がどのような状況に置かれているかを知る術は俺にはない。だからこそ足で稼ぐのだ。なるべく物音には気をつけることにしよう。奇襲ならばいくらでも対応できるが、変に目立ってもいいことはないからな。

そう考えた瞬間だった。

俺は歩く足を止め、辺りを目だけでうかがう。

僅かながらに感じた殺気。だが、それは今は消えている。俺に気付かれたことを察知したか。それとも他の第三者に向けたものか。俺としては後者であってほしいとは思うが。

ほんの一瞬。1秒にも満たないことであったが、ほんの少し首筋に電流のようなチリっとした感覚が走る。そして。

後ろから迫る蹴りをそちらを向かずに受け止める。強烈な一撃。だが、俺は僅かにだが口角を上げて言った。

「命知らずな戦闘狂はお前か?」

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