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根源の男

「う、あ……」

 顔に当たった光によって目が覚めた私は、寝起き早々そんな声を漏らす。

 目に映ったのは真っ白な天井。少なくとも私の部屋じゃないのは確実だ。

 ゆっくりと上半身を起こすが、まだ身体の所々に感じた痛みに顔をしかめる。

 時刻を見ると午後5時。試合が始まったのは10時頃だったから、かなりの間眠っていたらしい。

 備え付けられた窓から外を見れば、強烈な西日が部屋に差し込んでいた。

 そして肝心の試合といえば、

「舞原さん、起きていましたか。体のほうはどうですか」

 何とかして試合の記憶を取り戻そうとしていると、見回りに来た救護担当の女性に話しかけられる。

「えっと、まだ痛みはありますけど、大丈夫そうです」

「そうですか。もう自分の部屋に戻っても平気ですよ。何か手伝いが必要でしたらいつでも声をかけてください」

「はい。あ、それなら一ついいですか?」

 立去ろうとするその女性を私は呼び止める。

「どうかなされました?」

「あの、西園寺との試合はどうなったか、ご存知ですか?」

「え、そうですね……」

 私の質問に少し考えると、

「ああ、あれですね。大丈夫ですよ、あなたたちのチームが勝利しました」

「え、そうなんですか……?」

 想像とは違う返答に少々困惑する。今思い出した記憶が正しければ、私は西園寺の一撃によって倒れてしまったはずだ。同様にミサも巻き込まれていた。つまり、残っていたのはあの男、ただ一人。その結果が勝利ですって?

「ただよかったです。もう1日近く眠っていたので。治療が失敗したのかと……」

「一日……、眠ってた?」

「ええ、その試合というのは昨日のことですよ」

「そんな……っ!」

 それを聞いた瞬間、私はベットを飛び出し会場へと駆け出した。

「あまり無理をなさらぬように」

 女性の言葉を背に受けてとにかく会場へ急ぐ。

 私が丸一日寝ていたですって……?

 だとしたら私のチームは、彼はどうなったっていうの?

 今の私がこんな状態だ。身体はまだ完全に回復しきってない。それなら、ミサはきっと私よりも目覚めたとは考えにくい。

 だとしたら、このチームは彼一人で戦っていたということ?

 ならば、恐らく連勝は止まってしまっている。何とかして西園寺からもぎ取った一勝だけど、その後が続かなければ意味はない。

 彼がどんなに強くても、いくら無能力者の中で随一の実力を誇っていても、能力というアドバンデージを持っている相手を三人もだなんてできっこない。もしかしたらもう一位を目指すのは難しいかもしれない。

 そんなネガティブ、いや、夢だと思いたい暗い現状を予想して会場のフロント、順位が記された電子版を見る。

 そして私は、大きく目を見開き衝撃の事実を目の当たりにした。

 

 ドンドン、とある部屋の扉をたたく。先ほどからやってはいるものの、この部屋で寝泊まりしているはずの人物からの返事はない。

 かれこれ一時間近く。連絡を入れようにも私は連絡先を知らない。

 今のこの現状を作り出したその人物に一刻でも早く事情を聞きたいのに……。

「千歳……?」

 ドアの前でどうするべきか、と頭を悩ませていると私を呼ぶ声が聞こえた。

 そちらに振り向くと、電動車椅子に乗ったミサが不思議な顔をして私を見ていた。

「ミサ? 目覚めたの?」

「うん、さっきね。千歳はもっと早かったみたいだけど」

「よかった……!」

 私は思わずミサを抱きしめた。

 本当に良かった。私でもここまで重症だったからミサにとっては死ぬほど酷かっただろう。けど、今や無事で……。

「でもミサ、その車椅子は……?」

 私はミサが乗っている車いすに目を向ける。

「あはは……、これね。結構ダメージがやばかったらしくて、まだ千歳みたいにはできないみたい」

「え……」

「だから、ごめん。これ以降の試合には参加できない……」

「そう、なの……」

 これ以降の試合への不参加。仕方がないことだけど、かなりきつい状況だ。

 それに私を完全に治ったわけじゃない。残り一日の試合を二人で乗り切らなければならない。

「そうだ、試合経過。ミサはもう確認した?」

「ん? ええ、ここに来る前にね。どうやら私たち含めてこの学校全員驚いているだろうね。ああ、だからここにいたのか」

「ええ、事情を聞こうと思って。でも部屋にはいないみたい。連絡先も知らないし」

「なんか、彼氏を追いかける彼女みたいね」

「へ?」

 妙なことを言うミサに私は思わず素っ頓狂な声を上げる。

 私があいつの彼女? そんなことがあるわけない。……ないのかな?

 いや、ない! そんな未来はないに決まってる。

「いやよ、あんな失礼がなってない奴なんか……」

「失礼? え、なんかあいつにされたの?」

「いや、別に、何も……」

 いつぞやの御姫様抱っこの件やらが頭をよぎるが、表情には出さずに返答する。

「え、何。マジでなんかされたの?」

「だから何もないって!」

 そんな他愛もないことを言いあっていると。

「お前ら、俺の部屋の前で何やってんだ?」

「!?」

 後ろからの声。私はとっさに振り向くと、そこには彼がビニール袋を持って立っていた。

 私は冷静に、声が上ずらないように気を付けて、その男に問い質す。

「ちょうどよかった。貴方に聞きたいことがあってここに来たのよ」

「何だ?」

 彼も同じく表情を変えずに返答する。そんなすました態度に少しばかりの苛立ちを感じながら、その一言を彼にぶつけた。

「一体、どんな奇跡を起こしたのかしら? ねえ、貴方は本当に無能力者なの?」

 目の前の男。無能力という不利な状態から3対1という人数不利を加えた絶望的状況を何度も覆して、強烈な数字をたたき出し、いまだ一位をキープし続けている根源の正体、椿零という最弱(さいきょう)に……。

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