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最期の特別試験

 数十秒。俺が立ち上がってからそれほど経ったが、未だに攻めてくる気配がない。

 相手チームのもう一人のメンバーはFクラスの生徒だったが、こちらも攻めてくる気配はない。俺は伝えられた作戦通り、ミサに合図を送ると同時に、地を蹴り、直線的な動きで、否、最短距離で燐と聯に突っこんでいく。ただ、先程とは違うことが一つ。それは、

「本当に単純ね」

 俺と共に舞原も突っ込んでいるということだ。

 事前にマークしていた二人。燐と聯。単体でもかなりの戦闘能力を誇るが、警戒すべき点はそこではない。これがチーム戦だということ。つまりは二人の意思疎通、連帯関係、連携プレーにこそ、本当の危険があると予測を立てた。

 だからこそ、舞原は後ろでバックアップするのではなく、戦線に出て、二対二という構図を作ることとした。ミサは一人で戦うことになるが、彼女ならば大丈夫だろう。たとえ倒せなくとも、俺たちが終わるまでには耐えしのいでくれるはずだ。その分、俺たちは素早くこの二人を倒すことが必要だ。

 背後を取る。なんてことはしない。ただただ真正面からぶつかりに行く。結果は見えているだろう。先程と同じように吹っ飛ばされる。だが、それだけでは終わらない。

 鋭く放った俺のフックにすぐさま反応したのは燐。さばきで受け止めると、投げ飛ばす体制へと移行する動作が今度ははっきりと見えた。

 刹那、俺は無理矢理体をひねり、蹴りを放つ。

 手ごたえがあった瞬間にはすぐに距離を取る。きっとダメージは望むようなほど与えられてはいない。だが、今度は聯が俺へと突っ込んでくる。手は握られておらず、開いた状態のまま。だが、ここでつかみ技は考えにくい。だとすると、答えは手刀のみ。

 頭で処理し、行動を移す前には、本能によって回避行動をとっていた。

 予想通り、手刀の先端を首に打つような感じでからぶっている。本来ならば、ここで反撃に出るのだがそうはいかない。次に来たのは燐。この連携を警戒しての判断だ。

 俺も同じく燐へと走り出す。そして、ぶつかる瞬間、俺は体を滑らせるように燐の足元へ、俺の後ろには、

「お邪魔します」

 禍々しい剣を振るいながら、舞原が燐へと攻撃を開始する。

 場は整った。

 連携を警戒するのならば、二人を無理矢理分断してしまえばいい。つまりは一対一を二つ作り、個人的な戦いへともつれさせる。それが狙いだ。

 聯はここぞとばかりに攻撃を仕掛ける。俺は寝たきりで反撃はできないと判断したのだろう。だが、まだ、浅い。

 放たれた拳を足ではさむように止めるとそのままひねり、相手のバランスを崩す。その動作を立ち上がりながら行い、優位に立つ。

 だが、それも秒も持たない。すぐさま俺への攻撃を開始する。俺は腕を巧みに使い、それらをいなしていく。刹那、

「零!」

 舞原の甲高い声が聞こえたと同時。聯が突如体をかがめたかと思うと、それを台にするかのように、燐に容赦ない蹴りが襲う。瞬時に腕をクロスし防御するも、今度は足元からの聯の攻撃に会い、受け身を急ぐ。

「分断できたと思った? 甘いよ」

「計算不足だね。そう簡単にはいかないよ」

 二人そろってニヒルな笑みを浮かべる。

「……っ、はあ。思った以上に厄介だ……」

「それは同感ね……。でも、どうする? 手はもう打ったわよ」

「ああ、ここからはアドリブだ。俺に合わせてくれ。もう力を抑える必要はない。最終試合だ」

「ええ、了解したわ」

 今ので二人の分断は不可能と断定してもいいだろう。できたとしてもすぐに修正してくる。だったら、もう二対二をやるしかない。手は既に打った。あとはその時が来るまで……。

「行くぞ、舞原。ここが正念場だ。一応今日のな」

「言われなくとも……!」

 二人同時に疾駆する。

 完全なるアドリブ舞台だ。何やってもいい。だから、

 俺は力強く跳躍し、舞原の上を越すように飛びかかる。

 空中では反撃されにくい。と判断したのだろう。

 聯が構えた瞬間、俺の喉元へと手刀が打ち込まれる。だが、反撃は出来る。

 伸ばされた手をつかみ上げると、もう一方の手で聯の首をつかみ、頭から地面にたたきつけた。これで腕時計のランプは一つ。

 これで怯む聯ではなく、拳を固めると、素早く連続的に拳を打ち込んでいく。だが、俺はその合間を縫うように、聯の鼻に何度も拳を命中させる。当てることを意識しているため、一発の威力は低い。だが、鼻を叩くことで、攻防は入れ替わる。

「……! ……てめえ……!」

 人間という構造上、鼻に衝撃が来ると、あるものを誘発する。

 それは『涙』だ。

 人間誰しも、鼻に衝撃が与えられれば、涙を誘発する。そして、誘発された涙は徐々に聯の視界を奪っていく。

 これは能力者も無能力者も関係ない。

 例え、能力者であれど、人間の作り逆らうことは不可能だ。

 拭う暇も与えず、視界が十分狭まったところで、鋭いアッパーカットを放ち、聯を完全に沈める。もし立ち上がったとしても、腕時計のランプは二つとも点滅しているため心配はいらない。

 後ろでは舞原が戦っているのが分かる。だが、俺は下手に手を出すのをやめ、ミサのフォローに走った。


 零から渡された燐の相手をしながら思う。

 彼は、零は相当なバケモノだと。

 能力に頼らず、身体能力をも活かし、攻撃してくる燐と零が重なる。

 根本的な戦い方は零と同じなのだ。能力ではなく身体能力で圧倒する。違うのは能力を一切使わないことだ。今までに能力を使用したような描写はそれなりにはあった。だが、この試験ではそのような様子は一切ない。私が気づいていないだけかもしれないが、きっとそのはずだ。

 だが、能力を使わずとも相手を倒してしまうのが零という少年だ。

 事実、強力な能力に部類される能力を有する汗衫を上回り、更には疲労が溜まっていたであろう体でもこの聯と燐を一瞬でも互角に戦い、上回った。

 そんな彼に比べれば、私は数段劣る。現にこの試験では私よりも彼の方が脅威となっている。

 でも、だからといって、私が負けることはない。伊達に『学校最強』を名乗っていたわけじゃない。無駄に一年を過ごそうとしているわけじゃない。

 私は具現化した槍を今一度持ち直す。拳に自然と力が入る。体がまだいけると訴えてくる。

 そんな訴えに呼応するように、私は思い切り地を蹴った。

 燐はきっとよけてからの背後に手刀を叩き込んでくるだろう。

 それを瞬時に処理し、身を捻りながら後ろから来た燐へ攻撃を加える。

「何で……⁉」

 驚愕の声が燐から漏れるも、私がそのような言葉に流されるはずもない。

 燐の能力。それは『空手をマスターできる能力』。凄まじい技の数々と持ち前の運動神経を持ってしてみれば、かなり脅威となる能力。

 逆に聯の能力は、『中国拳法をマスターできる能力』。こちらも強力な能力だ。

 だが、どちらにも同じような穴があると彼は言う。

 それは、体力の消耗が激しいということ。

 彼曰く、身体能力を駆使するとなると、臨機応変に対応する為の集中力と、対応する際の無茶な動きが必要だそうだ。そこに能力が加われば確かに強力にはなるものの、体への負担は必然と大きくなると。つまりは持久力が問題で、その課題こそが、これだけの威力をもってしてAクラスではなくCクラス止まりだった理由だと仮説を立てていた。

 そして、その仮説通り。

「……ッ、……はあ、はあ……」

 燐はかなり体力を消耗していた。既に息切れしている模様。そこを私が逃すはずもない。

 今度は握っていた槍をサーベルに変え、軽く薙ぐ。そしてそのまま地を踏み抜くと一直線に燐へと突っ込む。

 通常ならよけられた単純な攻撃だが、体力を失った体には苦痛な重労働だ。

 身をよじってそれを間一髪よけるものの、私の放ったもう一撃。もう一方に握ってあった短刀によって、燐の腕時計は一つ目の赤いランプを灯す。

「……ッ、まだ……!」

 最後の力をふり絞り、完璧なタイミングで、ここぞという時で全力のカウンターが私を襲う。私は敢えてそれをよけずに短刀を投げ出した左手でつかみ上げる。流れるままにこちらに引きずり込むと持っていたサーベルをバットのように振って、燐を吹き飛ばす。

 燐は地面に体を引きずるように吹き飛ばされ、最後のランプが点灯し、点滅した。

「……ふう……」

 ゆっくりと息をつく。

 実に危ない試合ではあったが、結果は勝てたのでよしとすることにしよう。その方が心は軽い。そうではないと、腰の痛みを顔に出してしまいそうだ……。


 ミサの元に駆け付けた時には既に戦いは終わっていた。ミサが珍しく一人で片付けたようだ。

「珍しい……。明日は槍でも降るのか?」

「そうね……、舞原の槍であなたが串刺しになるのならそれもいいかもね……」

「しみじみと言わないでくれるか? 普通に傷付くから……」

 こいつらは一体俺をなんだと思っているのだろうか。俺だって普通に傷付くことだってあるのに……。ニンゲンダモノ。

「……お待たせ、終わったわ」

 一人で心の傷を癒していると、燐を沈めた舞原が近寄っていた。

「おう、お疲れ。取り敢えず今日は終わりだ」

「そうね、疲れたわ……」

「お前、一番働いてないだろ」

「失礼な! 私だってこの試合は……」

「この試合だけだろ」

「うぐ……」

 この中で一番疲労が少ないのがミサだ。ただいじっているわけではなく、ミサには体力をなるべく温存してもらわなければならない。そういう狙いだ。

「ほら、いつまでもここにいるわけにはいかないぞ」

 そう声を掛け、俺たちはステージを後にする。

 さて、今日一日目のポイントは計11ポイント。この後は西園寺たちのチームの試合だが、俺たちはこのまま引っ込むことにする。しっかりと疲れを癒すためだ。だが、俺は真っ直ぐに部屋の戻らず、人気のない宿泊施設の奥へと進み、そのまま突き当りの壁に背を預けて寄りかかった。

 やがて、右側の通路からフードを目深に被った男が俺の前で止まり、一言。

「お疲れ様です」

「ああ。そっちはどうだ? 何か動きは?」

 男は俺を見ずに淡々と呟く。

「大きな動きは未だですが、おそらくは最終日に接触する可能性があるかと……」

「まあ、予想していたことだ。取り敢えずそれだけか?」

「それと、この間に管轄へ行かれた事を知っていました。その為、側近二人が警戒している模様です。どうか気を付けて下さい」

「元々これ以上管轄には近づくつもりはない。それに、側近二人と言ってもここにはいないんだろ。関わっているのは本人か?」

「おそらく……」

「分かった。礼を言う。お前は引き続き任務を全うしろ」

「分かりました。こちらからも警戒をしておきます。それでは……」

 男はそれだけ言うと、フードを被り直し、もと来た道へ戻っていった。

 本人が、絡んでいる。

 これも予想してたことだ。まあ、覚悟していたが、


 どうやら、これが俺にとっての最後の特別試験になるようだ…………。


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