俺は無能力者
「ちっ、待て!」
街の繫華街の路地裏で俺のそんな声が響き渡る。俺は路地裏のゴミや、パイプをよけながら、目の前を走る男にひたすら走る。
「くっ、来るな!殺すぞ!」
男は逃げられないと悟ったのか、振り向くと、ナイフをこちらに向け、脅してくる。
「っ……」
俺は急ブレーキ。男と距離を置く。そして、相手の出方を伺っていると、男の後ろから青髪の青年が男を拘束する。
「チックショー。離せ!」
男は必死にもがくが、青髪の青年はものともせず、言った。
「何突っ立ってんだ。無能力者」
ここは、学校だ。ただの学校じゃない。世界の治安を守る警察になるための教育を受けるための学校だ。先程の男は、能力で強盗をしたため、近くのこの学校に指令が来た。学校にも、かなりの頻度で命令が来ることがある。
「あ~あ」
俺は大きく伸びをしながら、『Fクラス』と書かれた教室へと入っていく。
この学校は、能力や、戦闘技術などでランク分けされている。A~Fクラスまであるため、俺は一番下のクラスに所属しているということだ。
「お前、何もやってないのに、疲れたような顔すんなよな。その顔をしたいのはこっちだ」
と、同じクラスに所属する、汗衫祥太
「仕方ないだろ。俺はお前とは違って能力者じゃない。無能力者なんだ。お前たちにとってはイージーかもしれないが、俺にとってはハードなんだよ。そこを考えてくれ」
「フン。そんなことでよくこの学校に入れたな。元々、ここは能力者が入るようにできた学校なんだ。つまり、入学試験では能力者が優遇される。なのに、お前は無能力者なのにも関わらず、入学できた。初めて聞いた時には驚いたよ。それと同時に、どのくらいの実力なのかも気になった。だが、蓋を開けてみれば、これだ。戦う事は愚か、その他でも能力者との実力はかけ離れている。お前は一体何なんだ」
こう言われるのも初めてじゃない。
この学校は、Aクラスに所属して、一年間功績を残さなければ卒業できない。だから、俺は、今既に上へと進んだ奴らにも言われた。だから俺は、いつも決まってこう答える。
「俺は、警察になれるという、将来が保障された制度に目がくらんだ、ただの無能力者だ」
、と。
「あ~あ」
今日の授業が終わり、大きく伸びをする。
「ったく、こっちの気にもなってみろってんだよ」
そう言いながら、繁華街を歩く。
夜の繁華街は、会社帰りの大人たちや、学生たちで賑わっている。
俺は、近くにあった自販機で缶コーヒーを買うと、飲みながら歩き出す。
夜の繁華街というのは歩くだけでも気持ちを高揚させてくれる。自ら参加しなくてもいいという点では最高の気分転換と言えるだろう。などと、勝手な分析をしていた時だった。
「ん?」
少し先の路地裏の入口付近で何やらもみ合いになっているようだった。
少し近づき、様子を見る。
どうやら、俺と同じくらいの少女が、見るからに能力者という立場を権力に使っていそうな人たちに絡まれているようだ。
このまま見逃してもいいが、何もしないというのは流石に気が引ける。という事で俺は行動を開始する。そのまま歩き続け、俺は肩を複数人いた中の一人にぶつけた。まあまあの勢いで。
「んだ?お前、喧嘩売ってんのか?」
予想通り、すぐに絡んできた。だが、やはり疑問に思う。どうして弱者という者は自分が強者だと勘違いしてしまうのだろうか。
「いや、別にそんなつもりは…」
少し逃げ腰の対応。その間に、俺は少女に逃げろと、視線を送る。少女はゆっくりと首肯したかと思うと、瞬間、駆け出した。
「ちょ、おい、待て!」
この場にいた全員が少女に視線が送られる。この隙に俺もこの場をおさらばする予定だった。そう。予定だった。
「あんたは逃がさないよ」
男に腕をつかまれる。おうおう、面倒くさい方向に流れてきたぞ。
「あんたのせいで逃がしちまったんだ。その責任、もちろん取ってくれるよね?」
ちっ。やっぱり関わらない方が得策だったか。今更ながら後悔した。だが、もう後の祭り。
俺は、嘆息すると、男たちを睨み付けながら言った。
「後悔するなよ?」
そう、俺の名は、椿零。ただの、無能力者だ……。