拷問の後はシスコンの時間
丸一日学校をさぼったのだが、案の定、
「で、なんでさぼったかを聞いてもよろしいかしら?」
「え、言わなきゃダメ?」
「黙って従う」
部屋に突然訪れた舞原千歳とミサ・ミステリナに拷m……ではなく、ただ問い詰められていた。だが、
「一つ聞いていいか?」
「何?」
「何よ」
「何故俺は、舞原に槍を向けられ、ミサは俺のナイフを構えているんだ?」
この状況。どう見ても拷問されているとしか思えない状況。そんな大罪を犯した覚えはない。
鬼の形相をした舞原と、般若と化したミサ。もしかしたら、俺は今日ここでお亡くなりになるのかもしれない。ハッキリ言って、死ぬ瀬戸際にいるよりも怖い。ここは地獄か何かなのか?
「それにだな、俺が休んだところでお前たちが損をするわけじゃなかっただろ?」
「「損したわよ!」」
即答だった。
「あんた分かってる? 特別試験まで一週間なのよ。本格的に作戦を練らないと、落ちるわよ?」
「貴方が楽観的なのは分かっていたけど、危機感がなさすぎだわ。もう少し緊張感をもって」
「あのなあ……」
俺は深々とため息を吐く。
「お前たちは特別試験をまだ二回程度受けただけだろうがなあ。俺はもう数十回は受けてるんだ。俺がお前たちより年上っていうこと忘れんなよな」
学校は五年間の間にAクラスで一年間功績を残して卒業しなければならない。こんなにも厳しいのは、『警察』という組織が常に命に関わる事件を担当するからで、それほど危険な仕事といえる。
そんな中、俺はもう四年もFクラスに居座り続け、今年で五年目。今年のうちにAクラスに上がっておけば、一年間は保障される。もし、落ちれば退学だ。
そして、四年間に受けた特別試験と命崖の修羅場をくぐった回数なら、今までに食べたパンの枚数よりも多い。(何故なら、俺はご飯派だからだ。)
それ故、今年に入学して、Aクラスへと上がったこの二人よりは経験豊富というわけだ。
「それに、今回の試験は作戦を練るも何も、総当たり戦の組み合わせは当日だし、対戦相手によって戦い方変えなきゃならないから、何も言えることはない」
勿論、鍵となるのは体力。如何に温存し、最後まで高いパフォーマンスを維持するかが重要である。
試験の日程は、六泊七日。初日に闘技場と備え付けられた寮に入ってから総当たり戦の組み合わせ発表があり、その日は終了。そこから六日間に渡って総当たり戦が繰り広げられる。だからこそ、一日の体力と回復力が必要になる。
「計算して戦って、よく寝る。今言えるのはそれだけだ」
「ま、まあそうだけど……」
「何も言えないわね」
「ささ、帰った帰った。ここは俺の部屋なんだから、権限は俺にある。さっさと自分の部屋に戻れ」
しっしっ、とジェスチャーする。
「あれ、なんで私たち、こいつの部屋に来たんだっけ……?」
「知るか」
そのまま、二人が戻ったのを見届けた後、俺はベットに寝そべると、目をつぶり、意識の中に身をゆだねた。
「ねえ、最近私の出番少ない~!」
落とされた意識の中、俺の目の前に立つ、俺を女化させたような少女がそう文句を垂れる。
「ああ。だが、これは俺の体だ。本来の意識は俺なんだから、別人格のお前が出るのはおかしいだろ?」
「でもでも……」
「駄々こねるな。学校での立ち位置が変わってきているから、中々今までのようにはいかないんだよ……」
この、今話している少女は、俺の妹。椿霊夏。
だが、こいつは半分死んでいる。
ある事件で、こいつは死にかけたのだが、魂だけ俺の中に入り込み、今こうなっている。
「じゃあじゃあ、今度の試験で、いい?」
「却下だ」
「え~、なんでよ」
「お前なあ、今までに学校の奴にお前を晒したことあったか?」
「それは……、ない……、けど」
「このことがばれたら、面倒なことになるのは確かだ。試験に出るのは却下だ。だが、危機が迫っているのも事実だ。その時には好きに使っていい」
「さっすが、お兄ちゃん。分かってる~」
「ノリがいいな。相変わらずだ」
この天使欄間な笑顔に幾度となく、俺は救われてきた。その点でいえば、俺はこいつに貸しがある。
「ところで、お兄ちゃん」
すると、霊夏はニヤニヤ顔に表情を変えて、
「あの二人、どっちが好みなの?」
「…………は?」
こいつは突然何を言い出すんだ? 言っている意味がいまいちよく分からない……。
「だ~か~ら~、今度の試験で仲間になったあの二人だよ。どっちがタイプ?」
「…………、これは、どう答えたらお兄ちゃんの正解なんだ?」
また答えにくい質問を……。
「正解も何もないよ。お兄ちゃんが思ったことそのまま言えばいいんだよ~」
そのままと言われてもな。だったら、ここは……。
「まあ、俺はお前が一番だよ」
と言って、適当に誤魔化す。
「…………シスコン……」
ニヤニヤ顔をそのままに、予想通りの四文字を頂く。
「うっせ。そもそも俺がシスコンなのは今更だろう」
「ふふん。やっぱり私が好きなお兄ちゃんだよ」
そんなはっきり言われると照れるじゃないか。
「だからこそ、死なないでよ、お兄ちゃん」
真剣な顔付きに戻って、神妙に言った。
「ああ、それに関しては約束しよう。俺は死なない。まだやるべきことが山積みだ」
霊夏は、誰よりも俺が置かれている世界の立場を分かっている。だからこそ、こうやって心配の一言をかけてくれるのだ。
「安心しろ。最期はお前と一緒だ」
そう言って、俺は意識を起こした。
眠りから目覚めると、眩しい朝日が俺を出迎える。
「ぐっすりだな」
いつよりも起きる時間は大幅に遅かった。
だが、そのおかげか、頭は最近で一番すっきりしている。
「さて、」
と、身支度を始める。
試験まで一週間を切った。試験はかなり苦痛なものとなるだろう。だが、それ以上の苦痛は既に味わっている。
「さあ、戦争を始めよう」
朝日に照らされる部屋の中で一人呟いた。




