俺が普通に見えるか?
「ほんっと、信じられない……」
「何がだ」
広場から移動し、学校に備え付けられた食堂にて、俺たち三人は集まっていたのだが、
「だって……、普通あり得る?」
「さっきからその繰り返しばっかじゃねえか。俺は何がと聞いている」
ミサは俺にぶん殴られた頬をさすりながら、先程から「信じられない……」と連呼するばかりだった。
「私は女よ」
「ああ、お前は男には見えないがな」
性格以外はという言葉がのど元まで出かかったが、辛うじて飲み込む。
「そして、あんたは男」
「俺は自分を女と思ったことはない」
一体何を言いたいのか。
「普通、どんなに戦っていたとしても、どんなに追い詰められたとしてもよ。男が本気でレディの顔をぶん殴ったりするかしら⁉」
「はて、レディというのは何処に……?」
俺は周りを見渡すしぐさをするが、そんなレディと称する女はいなかった。
「殺されたいのなら早く言ってよ」
真正面から冷たい視線が向けられた。ボケるのもここまでか。
「俺は殴る前に、手加減できないとは言ったんだが、聞こえなかったか?」
「聞こえたわよ。でも、もう少し躊躇ってもよくない?」
「躊躇うも何も、あの状況で一撃で確実に仕留めるなら顔面以外ないだろ」
躊躇い、恐怖、優しさ。そんなものは既に何処かに捨ててきた。それを持っていれば、抱いていれば、綺麗で純情な心を持っていたのかもしれない。だが、その代わり、死ぬ。殺される。消し去られる。葬られる。感情を捨て、強さを手に入れる。そんな育ち方をしてせいか、こんなに奴になった。だから、言える。
「んじゃあ、逆に聞くが、俺が普通に見えるか?」
二人は考えることもなく首を横に振った。
部屋に戻り、ベットに飛び込む。
最近、体を張って戦うことが多くなったため、疲労はFクラスでのらりくらり過ごしていた時に比べれば、確実に溜まっている。
「気を張り詰めすぎたか……」
これも癖だ。全く、本当に能力を使ってから昔を思い出すことが増えてしまった。俺としては大変不快なので過去など抹消したいのだが、なかなかそうもいかない。
「明日ぐらい、休んでもばちは当たらないだろう。
そう結論付けた俺はそのまま目を閉じ、暗闇に身を任した。
姉、弟、兄、妹、友達、恩人。様々な俺と関わった人達。血は繋がっていないものの、家族同然。そこには絆があった。それを俺は今、過去形で語っている。
誓った約束。交わした未来予想。目指した光。
そして、果たせなかった使命。約束。目的。
残されたのは俺一人。
皆、目の前で散っていった。掲げた使命に振り回されながら、最後には目の前で何もかも終わっていった。
時が経ち、その掲げた使命は段々と廃れ、危惧した予想は、大きく悪い意味で外し、脅威という闇となって、遺された少年に襲い掛かる…………!
「前にも言ったかもしんないけど、今月最悪の目覚めだわ」
またもや最悪な悪夢を見て、ズキリと頭が痛む。
「なんか、ホントに最近悪いほうへ転んでいるような感じがする。だが、まあ、今日は休む。もう疲れた」
また寝ようとしたが、それでまた悪夢を見たら面倒なので、取り敢えず、身支度を済まして、登校時刻が過ぎるのを待つことにした。
サボりに見事成功した俺は、街に繰り出した。
街に出るのは久しぶりで、Bクラスになってからは学校の敷地内から出ることはなくなっていった。
ラッシュ時間も過ぎた平日の繫華街はまた不思議な空気を漂わせていた。
だが、俺はそんなものも気にも留めず、ただ、目指すべき目的地に足を向けた。
「ったく、ここまで来んのにどんだけ時間かかるんだよ」
歩きで二時間。さらに山を登ること一時間半。
辿り着いた先には、廃墟と化した研究所。所々破壊された跡があり、辺りにはコンクリートの破片がゴロゴロ落ちていた。
俺は躊躇いなく、敷地内に踏み込んで、探し物をし始めた。
探し物を早々に終え、すぐさま下山した。
廃墟と化した研究所であっても奴らの敷地内、ということには変わりない。故になるべく早く下山した。
いつか、またぶつかることになる。今度は一人で、過ちを犯さず、一歩も間違えず、使命を果たす。全く、飛んだ期待を背負わされたもんだ。
そう愚痴をこぼしながら、おれはそう遠くない未来にため息を吐くのだった。




