なろうに投稿したら彼女ができました
俺の名前は丸橋正雪。
かの反乱者とその仲間を合体させた名前を持つ者だ。
と言っても俺は反乱を企てているなんてことはないごく普通の学生なんだけどな。
そんな俺は今日から小説家になります!
アマチュアだけどね。
小説家になろうというサイトがある。
ネット上で自作小説を公開するためのプラットフォームで一番の大手サイトだ。
俺は前々からこのサイトで暇な時間を消費していた。
いろんな人が書いた小説をたくさん読んできた。
その中には、あれ、これなら俺の方が面白い文章書けるんじゃね? ってのもあるわけだ。玉石混交だからな。
もちろん面白い小説も多い。
面白い小説の中には、俺も書いてみたいなあと思わせるものがある。
そしてそんな気分の時に、これなら俺の方が、という小説を読んでしまったらどうなるだろうか。
俺の場合はその上で、“小説を書いてみたいけど躊躇しているあなたへ”というエッセイを目にしてしまったのだ。
このエッセイは、俺の中の小説書いてみたい欲求を刺激した。
もともとやってみたいなと思っていたところを、後ろからどんと背中を押されたようなもので、俺はその気になってしまったのだ。
だから俺、小説家になります!
見ててくれよな、面白い作品を書き上げて人気作家に、果ては書籍化やコミック化、アニメ化なんかしちゃったりして。うへへ。
●
●
●
全然面白い小説が書けない。
ほとんどポイントがつかない。
いや、4ポイントだけつくんだ。
投稿すると数時間以内にブックマーク1と評価★1個がつく。
お気に入りユーザ登録してくれているのだ。逆お気に入りユーザで確認済みである。
お気に入りユーザに登録すれば、ユーザーページのホームの下の方で、新着小説を確認できる。
この機能は俺もよく利用している。一本をじっくり書く作者はともかく、次々新作を発表したり短編専門の人もいるから、作品のブックマークだけじゃ追い切れないのだ。
で、つまり、この人は唯一の俺のファンというわけだ。
0ポイントの小説も多い中、4ポイントでもありがたい。十分ありがたい。
だけど言わせてくれ。
どうせなら★5付けてくれてもよくね?
★1個って。へこむわ。いや、0よりは多いんだけどさ。わかるだろ?
“小説を書いてみたいけど躊躇しているあなたへ”では、たくさん読んでたくさん書けと書いてあったので、俺はひたすら小説を書いて投稿した。
最後まで書けとも書いてあったので短めだったり短編が多い。
一度長編に挑戦したが書いているうちに面白くない気がしてきて続きが書けなくなってエターした。腕が上がったらまた挑戦しようと思っている。
しかし一向に面白い小説を書けるようになる気がしないのだ。
腕が上がらないまま、ネタの方が枯渇してきている。
書きたい欲求はあるのだ。
だが、ネタがないんじゃ……どうするかな。
ネタに詰まった俺は自分の部屋の中をぐるりと見まわした。
いつもの変わりない光景だ。
……そうだな、ノンフィクション、は身バレするとまずいかもしれないから、現実をモデルにしてちょっと改変して書いてみよう。
そうと決まれば話は早い。
現実というネタをどう料理するか。
俺は考えながらスマホをスワイプし始めた。
●
●
●
おかしなことになった。
俺は現実をモデルにして、ちょっとエッチなラブコメ小説を書いたんだ。
するとどうだろう。
現実で、俺が書いた小説と、同じことが起きた。
つまりちょっとエッチなハプニングである。
主人公は俺。
ヒロインは幼馴染をモデルにした。こいつはいつも俺の部屋に入り浸り、ゲームをしている女である。
親同士が親友で家は隣、生まれたのは1時間違いで産婦人科まで一緒だというから筋金入りの幼馴染だ。
そんな相手にちょっとエッチなハプニング。うっかりドキドキしてしまった――ではなく。
どういうハプニングかは彼女の名誉のために割愛するが、とにかく小説と同じことが起きたのだ。
こんなことってある?
まさか、俺には書いた小説を具現化する能力があるのでは!?
そんなバカな話があるわけがない。
だがしかし、実際に起きたのだ。投稿した翌日に。
……冷静になれ、俺。
これは確認してみなければ。
俺はちょっとエッチなラブコメの続きを執筆し始めた。
●
▽
★
私の名前は星狩愛。丸橋正雪という名のバカの幼馴染だ。
最近私の幼馴染が、小説家になろうに投稿し始めた。
なぜ知っているかというと、こいつ、自分の部屋にいる時に考えていることを口に出す癖があるのだ。
私は毎日のようにこいつの部屋に入り浸っているから、こいつが考えていることは全部わかる。
小説家になろうに投稿するための小説を書いていることも全部だ。
で、まあ冷やかしてやろうと思ってその小説を見に行くだろ?
誰だってそうするよな?
で、読んでみるとこれがつまらない。小学生の時の教科書を読んでる方がなんぼかましかもしれない。まああれは国に認められた内容だから名文なんだろうけどさ。
当然ポイントもつかないもんで、かわいそうになった私はブクマと★1だけをつけてやるようになった。
小説が面白くなったら星の数を増やしてやるつもりだ。不正はいけないからな。
今のところ前よりはましになってきているような気がしないでもないが、絶対値的にみるとたいして面白くはなっていない。
私がこいつの小説を読んでいることも当然秘密だ。
本人が面白くないとつぶやいているような小説を身近な人に見られたら、と思うと私なら嫌だから。
本人が実は小説書いてるんだと教えてくれた時、こっちも教えてやろうかと思っている。
と思っていたんだが、最近正雪のバカがちょっとエッチなラブコメを書き始めた。
しかも、自分と私をモデルにしたものをだ。
ちょっと待てお前、同じ部屋にいるんだぞ。よくそんなもの書けるな正気か。
そう思った私は、どうしてくれようかと考えた。
もちろん辞めさせるのだ。さすがにこれは見るに堪えない。読まされる私が恥ずかしい。
だって、ちょっとエッチなやつだぞ。自分をモデルにしたやつだぞ? いかん、もうベッドの上で枕に顔を伏せてバタバタしたい。
だが待てよ?
このバカがこんな小説を書くということは、この小説のようなシチュエーションにあこがれているのではないか?
正直なところを言うと、私は正雪が好きだ。毎日部屋に上がり込むというアピールを続けているくらいだ。
だがこいつはまるで気にしていない。まあそういうやつだということは私が一番知っている。朴念仁なのだ。
無理押しして今の関係を崩すのも怖いしと、なあなあでやってきたのは私も悪い。
ともあれこいつは私のことを女としてみていない。
そう思っていたんだが、ここにきてこのちょっとエッチなラブコメである。
もしかして思っていたより脈あるんじゃね?
いや待て早計だ。
そうやって希望的観測で見誤って失敗してきた者は歴史上数多くいるのだ。
私がその二の舞になるわけには……。
だが……。
私は一晩かけて心を決めた。
正雪の小説のラブコメを再現してやろう。
そうすれば、正雪の気持ちもはっきりするんじゃないか。
そしてちょっとエッチなラブコメのハプニングを再現したのである。
ものすっげえ恥ずかしかったが。誰だこんなの考えたバカは。バカだった。
そしてその翌日。
あのバカ、自分の小説が現実になる力を持ってるのではとか言いだした。
そんなわけあるかバカじゃねえの。そうだよバカだよ。知ってるよ。
そしてお前、続きを書くのかよ、おい正気か?
結局私はあと3回ほど正雪に付き合い、ちょっとエッチなハプニングと、わりとエッチなハプニングと、かなりエッチなハプニングを再現し、4回目でぶん殴って押し倒したのだった。
そのあと責任取らせた。
まあ結果だけ見ればよかったんじゃないかな。あいつも私のこと好きだって言ってくれたし。
おしまい。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
フィクションです。
ベタを目指してがんばりました。
ぼくも毎日部屋に来てゲームやってる異性の幼馴染が欲しいです。あ、ゲームじゃなくてもいいよ。
こういうのでいいんだよと思ったら、ブクマと★5をよろしくお願いします。面白く無かったら★1お願いします。間ぐらいだったら★2~4をよろしくお願いします。
作中に出てきた「小説を書いてみたいけど躊躇しているあなたへ」は筆者の投稿作品です。
もし興味がわきましたら作者名のリンクからどうぞ。
今後ともよろしくお願いいたします。
ほすてふ。