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ナイフをもってそうな顔つき

 自室で動きやすい服装に着替えていると、扉をノックする音が聞こえてきた。しかも、律儀に三回しているので多分だが妹だろう。

 先ほどの運動で疲れたのか、幽霊の彼女はベッドの下で眠っているらしく反応がない。

「どうぞ」

 部屋の扉を少しだけ開けて、その隙間から妹が顔をのぞかせている。今日は……ポニーテールの気分じゃないようで、きれいな黒髪が滝みたいに垂れていた。

「兄さん。ヒマ、じゃなさそうだね」

 縦に並ばせている両目を動かしつつ、妹が驚いた表情をしている。兄さんも服装に気を配るんだね……とでも言いたそうに口を開閉させていた。

「ヒマじゃないが、まだ時間はあるけど?」

「いや。いやいや、良いよ。その格好はどう考えても今からデートでしょう?」

 自分がデートをする訳でもないのに、なぜか妹のほうが興奮をしているっぽい。

「相手はユウナさん?」

「スズナの想像に任せるよ。それよりそっちこそデートでもするつもりなのか?」

 兄さんのイメージをしている小学生の服装よりも、女の子っぽい姿なのでそんな質問をしてみたのだが。

「普段通りだよ」

「最近の小学生は兄さんの想像を超えている存在みたいだな」

「兄さんは、たまにうそか本当か分からないことを言うから面白いよね」

 家の中でも同じような格好をしているのにさ、と言いつつ妹がけらけら笑っている。

 やっぱり、笑いのつぼが変なところにあるよな。それか兄さんの考えがずれているか。

「で、スズナのほうは友達と遊びにでもいくのか?」

「んーん。もうすぐここに友達がくるから。ヒマだったら兄さんも一緒にどうかな? と思ってたんだけど」

 妹が楽しそうに……にやついている。その必要はないよね、と表情だけで伝えてくれるので楽だな。

「ユウナさんとオセロとかするんだね」

「その辺の発想は小学生なんだな。少し安心をしたよ」

 考えかたが可愛いので頭をなでていると、妹が頬をふくらませていき、怒った顔に。

「もう、子ども扱いしないで!」

 そんな風に抗議している間は、子どもだと兄さん的には思うが。そんなにはやく、大人になりたいものかね。

「いやいや。逆だって、普段のスズナは大人びているから安心したって意味」

「グラマラス?」

 両目をきらきらと輝かせているスズナが、うれしそうに首を傾げていて、可愛い。

「おう、マーベラスって感じだな」

 マーベラスの使いかたはこれで良かったのかな? まあ、妹が年相応の喜びかたをしているし、言葉の意味とかはどうでも良いか。

「にへへ。あ、そうだ。兄さんの部屋にあるテレビゲーム、使っても良いかな? こわいやつとか」

「別に良いが。平気か?」

 兄さんのイメージしている小学生より大人びているとは言え、そのこわいゲームをするのは少しはやいような気もするが。

「うん。平気平気。友達の男の子が、わたしや他の女の子に男気のあるところを見せたいだけだから、それくらいじゃないと」

 妹が口を閉じて……吹きだすように笑っている。悪戯に引っかかったやつを眺めているみたいな感じだな、と思っていたり。

「ふふっ。それくらいじゃないとさ、面白くないでしょう。わたしには兄さんがいるのに口説こうとしているんだから」

 気のせいか? 妹の身体から黒いオーラのようなものがでてきているような。

「兄さんは関係ないような気もするが。その友達の男の子のことは知らないけど。スズナや他の女の子に自分の良いところをアピールしようとしているって話だろう?」

「そうだよ。でもアピールしてくれるのなら最低でも兄さんができることはやってもらわないと」

 一番近くにいる年齢の近い異性が兄さんだから、基準のほうもそうなっているってことかね。

「兄さんは高校生だからな、小学生の友達にできなくても普通だと思うんだが」

「へへっ、兄さんは優しいね。でも、大人になった時のことを考えたら、兄さんより性能が良くないとほれちゃうのを戸惑いそうじゃない?」

 性能。ほれたはれたに関しては分からないが。できることが多いほうが好まれる、って考えかたは全否定できないな。

 兄さんが少し不安そうな顔をしたからか、妹がさらに口を動かしはじめた。

「国語だけが得意な男の子よりもさ、国語とゲームをするのが得意な男の子のほうがほれやすいでしょう?」

 例えは、小学生っぽいんだけどね。

「スズナの言いたいことは分かるよ。でも、今はその男の子とは友達なんだろう? ほれたりはれたりする予定もないんだったら普通にゲームとかで遊んだら良いんじゃないか」

「ええー。アピールをしてくるのに?」

「スズナには、むずかしいかもしれないが。大人の女性はそうやってアピールしてくる男を自分の魅力だと思っているらしいぞ」

 妹の心のなにかに触れたせいか、少しだけ眉が動いているような気がする。

「わたしも大人だもん。それくらいのことはできるし、分かるよ。グラマラスだし」

 多分、大人の女性はグラマラスって言葉をこんな風に面白くできないよな。

「そうか。それは悪かった」

 個人的には一人だけを選ぶって、考えないのだが真面目っぽい妹には理解できないものなんだろう。




 妹の相談のようなことを聞いた後、ぼくは自宅をでて、幼なじみの家に向かっていた。その辺を歩き回る予定だったが、雨が降ってきたので部屋でデートをすることに。

 幼なじみが、きみの家にいくけど? 的な文章を送ってきたが。そのメッセージを見た時には、すでに自宅をでていたので彼女の家で遊ぶことになった。

 自宅からでた時は、分からなかったが確かに雨が降ってきている。運が良いことに……本降りになる前に幼なじみの家に到着。

「はい。あ、はやかったね」

 インターホンを鳴らすと、すぐに玄関の扉が開いた。家の中からでてきた幼なじみが、少し驚いた表情をしつつ、ぼくの身体全体を見ている。

「良かったね。あんまり雨にぬれなくて」

「もっとぬれていたら、ユウナがなにかしてくれていたのか?」

「変なことばっかり言わない。ほら、はやく中に入って」

 変なことでも想像したようで顔を赤くしている幼なじみに背中を向けられた。後ろから抱きしめたくなったが、両親がいる可能性もあるからな。

 雨は当たるらしく、幽霊の彼女が犬のように身体を震わせてから、ぼくの後ろをついてきていた。寝起きだからか欠伸もしている。

「お邪魔します」

 ぼくと幽霊の彼女が廊下の辺りまで移動をすると、幼なじみが玄関の扉に鍵をかけて、キッチンに向かっていく。

「わたしの部屋は、分かるよね? お茶とか用意するから先にいってて」

「お構いなく」

 とは言ったものの、この使いかたは合っているんだろうか? そんなどうでも良さそうなことを考えながら、二階にある幼なじみの部屋のほうに。

 幼なじみの部屋の前で立ちどまり、なんとなく辺りを見回し……幽霊の彼女以外に誰もいないことを確認していた。

 ぼくらしくもなく、きんちょうをしているっぽい。彼氏彼女の関係で本人も了承をしているんだから、怒られることもないんだが。

「あれ? 先に入ってくれて良かったのに」

 結局、幼なじみがくるのを待つことにしていた。ぼくが自分の部屋の前で立っているのが面白かったのか木製の盆をもっている彼女が楽しそうに笑っている。

「ナイフをもってそうな顔をしているきみも彼女の部屋に一人で入るのはきんちょうするようだね」

「どんな顔だよ、それ。まあ……きんちょうしてないとは言えないけどさ」

 女の勘ってやつかね。表情にはだしてないつもりだったんだけど意外と分かるものなんだな。




「相変わらず、ゲームが好きなんだな」

 幼なじみの後ろをついていくように、ぼくも部屋に入らせてもらった。久しぶりと言うほどでもないんだが、ゲーム機の数が増えているような気がする。

 誰かが、いきなり入ってこないだろうが、部屋の扉の鍵を静かにかけておいた。

「きみも好きでしょう? ホラー系とか」

 部屋の真ん中辺りにおかれているテーブルの上に、幼なじみが木製の盆をのせている。

「ぼくの場合は、ホラーゲームが好きと言うよりも、それで気分をととのえている感じだからな」

「黒い想像?」

「そう。現実では、倫理やら道徳でできないがゲームでなら満足をさせられる」

「ふーん、なるほどね」

 考えたことないや、とでも言いたそうな顔をしつつ。木製の盆にのせていたマグカップやクッキーが入っている皿をテーブルの上に移動させていた。

「ところで、両親はいるの?」

「ん? いや。わたしだけ」

 ゲームの話題からは、かなりはなれた質問だったからだろう、幼なじみが不思議そうに首を傾げながら答えてくれている。

「だから、玄関の扉の鍵をかけてたんだよ」

「それもそうだな」

 可能性が低いとは言え、両親がいないとは言い切れないしな。できる限り確認をして。

「あっ」

 マグカップに入っているコーヒーを飲んでいると幼なじみが声を上げた。先ほどの質問の意図にでも気づいたのか顔を真っ赤にしている。

「どうかしたのか?」

「ん、んーん。なんでもないよ。それよりもコーヒー苦くなかった?」

「苦いほうが好きだから、平気かな」

「そっか。良かった良かった。それじゃあ、ゲームしよっか……ほら。前にやってみたいって言っていたゲームが手に入ったんだよ」

 なんで慌てているんだ? そう幼なじみに質問をしてみたかったが、すばやくゲームのコントローラを渡された。

 どうやら対戦型の格闘ゲームのようだが、やってみたいと言った覚えがないな。

「罰ゲーム、ありにする?」

 意外でもないが、サディストなんだろうか両目を輝かせている幼なじみ。

「相手にクッキーを食べさせてあげるくらいだったらな」

 それに勝負の結果は大体、火を見るよりも明らかだけど。今回は負けるほうが勝ちとも言えるかもしれない。

 結局、ぼくは一回も勝てなくて。幼なじみが幸せそうにクッキーを食べているところを眺めることになった。

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