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黒かった彼女と黒いぼく

 幼なじみを家まで送り届け、ぼくは自室のベッドの上に寝転んで、目をつぶっていた。傍らで妹が走らせているシャープペンシルの音が耳に。




 隣で幽霊の彼女が眠っているせいだろう、今日の夢は生前の彼女とのことらしい。

 シロイロナギサ。色白で可愛い……ぼくの生前の彼女。そんな女の子はとても言えないし、文章にもできないようなことを数え切れないほどしていたっけな。

 一言で説明するなら、人を殺していた。

 少なくとも十人くらいは殺していたと思うが、二十人は殺していなかったはず。

 生前の彼女にとって、それは趣味で殺した人間を数えていなかったと思う。それに彼女には少し変わった能力があった。

「わたしの恋人のきみだけにこの世界の秘密を教えてあげる」

 超能力と言うよりは、この世界のルールの一つだったな。別に生前の彼女が特別だった訳じゃない。そのことを知っていれば誰でも使うことができる権利か。

 どうしてそんなことをぼくに教えるつもりになったのかは結局、分からなかった。

「ふーん、どんな秘密?」

「この世界、人を殺してもばれないのよ」

「人を殺しても、ばれない」

 その時のぼくは、生前の彼女が言っていることが理解できなかった。人を殺すって言葉自体が。

「多分、わたしの言っていることが理解できないと思うけど。人を殺すことができるの、この世界は」

「そうなんだ。人を殺す、だっけ? それにメリットのようなものはあるのか?」

「自分にとって、不都合な相手を消すことができるわ。しかも誰にも文句を言われない」

 その時のぼくは生前の彼女の説明を聞き、ノートに間違って書いてしまった文章に消しゴムを使う感じだろうと解釈をしていた。

「暴力ってことか?」

「間違ってないけどケンカでもないのよね。強制的に寿命を迎えさせること、って言ったほうが分かりやすい?」

「相手の寿命を短くさせる」

「そう。その解釈が一番、近いわね」

 自分にとって、不都合な人間を消すことができる権利がある。それは分かったが。

「でも、その殺す? をしたら人間が消えるってことだから。変になるんじゃないか?」

 その時のぼくの質問を聞き、生前の彼女はにやついていたっけ。分かる分かる、わたしも同じことを考えていた時があった、とでも言いたそうな顔つきで。

「はじめに言ったでしょう。変にならないのよ。殺した時点でその殺された人はそもそも存在してなかったことになるから」

 透明な幽霊みたいにね……と本当に幽霊になってしまう前の彼女は言っていたっけな。まさか自分が殺されて、そんな風になるとは思っていなかっただろう。

 いや、その記憶は。




「おはよん」

 目を覚ますと、幽霊の彼女の顔が逆さまに見えていた。幽霊としてレベルアップをしたらしく空中に浮くことができるようになったようだな。

 それはさておき、壁から顔だけがでてきているので生首みたいに見えてしまうほうが、問題っぽいか。

「おはよう」

「チュー」

 そう言いつつ、幽霊の彼女がこちらに顔を近づけている。唇が重なると、舌を口の中に入れてきた。寝起きで、そんな気分じゃないので彼女の好きなようにさせておこう。

 それにしても変な夢だったな。半分くらいは本当にあったことだけど。

 世界の秘密って言うか、ルールだよな。

 この世界に、人を殺すって概念はなくて。

 人を殺した場合、その時点で殺された人間の存在自体がなかったことになってしまう。

 そして。

 キスをすることに飽きたようで幽霊の彼女が空中でくるくると回転をしている。女の子のたしなみなのか、律儀にも穿いている下着が変わっていた。

 ベッドから起き上がり、制服に着替えようとすると。慌てて、幽霊の彼女は部屋の外に通り抜けていった。

 いや……壁から顔だけをだしている。両手で目の辺りを隠しているが少し隙間が空いているような。見られても、こっちは別に気にしないが。

 気になることは、もっと別にある。だからこそ、ぼくは幼なじみを口説こうと思ったのかもしれない。

 けど、全部が全部。こんな風に理由だらけって言うのも面白味のない考えかただよな。




 朝食をおえて、ぼくは普段よりもはやく、スクールバッグをもって……家をでていく。向かっているところは学校ではなく幼なじみの家。

 ぼくの後ろをついてきている幽霊の彼女は浮かぶことが楽しいようで、空中で背泳ぎのような動きをしている。

「あ」

 そんな動きをしている幽霊の彼女を横目で見つつ、幼なじみの家の前に到着すると声が聞こえてきた。

 門扉を閉じている幼なじみと目が合ったがそっぽを向いている。夜道で、あれだけしておいて今さら恥ずかしがるとは。

「おはよう。ユウナ」

 悪いことをしたつもりは全くないが昨夜は驚かせてしまったようだし。ここは、ぼくのほうがリードするべきなんだろうな。

「お、おはよう」

 なんとか顔をこちらに向けてくれてはいるが……目が合わない。普段の幼なじみは善人すぎるからか、人と話す時は真っすぐ相手の目を見るのに。

「珍しいね。朝から家にくるなんて」

「そうだな。でも昨夜あんなことがあったんだから可愛い彼女に、はやく会いたいと思うのは普通じゃないか」

「な、なんかあったっけ?」

 幼なじみは、うそをつくのが下手らしい。顔が赤くなっているので丸分かりだった。

「忘れたのなら、思いださせてあげるけど」

 幼なじみに近づいて、そのやわらかい手を力強く握りしめると彼女は身体を震わせ。

「お、思いだした! 思いだした、から」

 声を荒らげつつ視線を下に落としている。大体、ぼくのへそのところを見つめながら、幼なじみはうなり声を上げていた。

「そう。良かった」

「本当、性格が悪いよね」

 少し怒っているようで、幼なじみがぼくの顔をにらみ上げている。

「可愛い彼女をいじめたくなるだけ。ユウナはころころと表情を変えてくれるから、なおさらね」

 幼なじみの頭をなでると、目を見開き……逃げるような動きをしたようにも見えたが。結局されるがままになっている。

「手をつないで、学校にいきたいんだけど」

「誰かに見られないなら、良いと思う」

 動揺しているせいか、変な日本語になっているが幼なじみの言いたいことはなんとなく分かった。

「誰かに会うまでなら、手をつないでいてもオッケーってこと?」

 幼なじみが首を縦に振っている。変な条件をだして、申し訳ない気分にでもなっているのか、ぼくの右手を力強く握りしめていた。

「き、きみのことは好きだから」

「そっか。安心したよ」

 分かっているよ……と、今の幼なじみには言うべきだったかもしれないが。ぼくの頭はその言葉よりも、こちらのほうが良いと判断したってところか。

「やっぱり性格が悪いのかもな」

「そんなことないよ」

 つぶやいたつもりだったのだが、幼なじみには聞こえていたようで、否定をしてくれていた。先ほどの自分の発言を気にしているのかな、とか思っているんだろう。

「可愛いわたしをいじめたくなっただけなんでしょう?」

 自分で言うのな……って、つっこみは駄目か。幼なじみが、どんな反応をするのか見てみたいが。

「ありがと」

 優しく耳もとでささやいておいた。普段はそれほど使わない声色だったからか幼なじみがにやついている。

「へへっ。彼氏みたいな声色だね」

 この幼なじみにはキスとかじゃないと効果がないんだな。目だけを動かし、誰もいないのを確認してから。

 幼なじみの耳にキスをして、さらに耳たぶに軽くかみつこうとしたが、すばやく逃げられてしまった。

「い、今は駄目だから」

 なんのことだ? 耳にキスをしたから……えろいことでもされると思ったのか。さすがに、朝からそんなのをするつもりはない。

「それじゃあ、昼休みだったら?」

 幼なじみの要望でもないんだろうが、異性としてはそんな風に誘われたと考えて、勝手に応えるのが筋か。

「良いけど。誰も見てないところだよね?」

「ああ。誰にも邪魔されたくないからな」

「本当に?」

 ぼくの性格を把握しはじめてきているのかどうかは知らないが、どちらにしても答えは同じようなものだよな。

 うそつきはどんな言葉も信じてもらえないものだが、それでも。

「信頼してほしいな」

 そう、普段とは違う声色で言い、幼なじみの唇にキスをする。どさくさにまぎれ、胸を触ったが。誰も見ていなかったからか彼女はなにも言わなかった。

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