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似た者同士

「こら。悪戯やめて」

 しばらくの間、触らせてくれていたが……幼なじみに手をはなされてしまった。けど、代わりを引き受けてくれたのか幽霊の彼女がぼくの手を握ってくれている。

 幼なじみのことを敵視しているらしく幽霊の彼女は赤い舌をだしていた。

「悪戯じゃなかったんだけどな」

「だったら、なおさら悪い。うん? 悪いんだよね」

「どうだろうな。個人的には悪くなかった」

 手のやわらかさは、ドローって感じだな。ぼくに手を触らせているからか、幽霊の彼女が幼なじみに向かって、どや顔をしていた。

 ぼく以外には見えないんだから、それほど意味のないことだが。

「悪くなかった、なにが?」

「秘密だ。それに幼なじみにはあんまり理解できないことだろうしな」

「男のロマンか」

「そんな感じ。話がはやくて助かるよ」

 幽霊の彼女がまた赤い舌をだしているのでやめるように目配せを。

「触りたかったら、触っても良いんだよ」

 そう、幼なじみが言ってきた。

 ここまでの話のながれで考えれば、好きなだけ手を触っても良いよ。なんだろうけど、ぼくの脳は色々と壊れているらしく胸のほうに目がいく。

 幽霊の彼女も、ぼくと同じような勘違いをしているのか、それとも幼なじみに対抗でもしようとしているのか分からないがジャンプをしている。

 残念なことに、そんなていどでは幼なじみとの戦力差を引っくり返せそうにはない。

「手を?」

「うん。手のことだけど……他にも触りたいところとかあるの?」

 幼なじみは自分が身につけている兵器には気づいてないのか。純真すぎるのも、色々と問題があるよな。

 本当のことを教え、幼なじみがどんな反応をするのか気になるが、そんなことで関係が壊れるのも面白くない。

「ああ。最近、肩もみにはまっててな。筋肉の動きって言うのかな? それを感じるのがなかなか面白いんだよ」

「肩もみ。マッサージってことだよね? 肩以外のところもできるの?」

「アマチュアでも良いのなら」

 ぼくの右手の指先の動きがどことなく……いやらしく見えたのか、幼なじみが顔を赤くしつつ。

「なんか、えっろー」

 そう言って、笑みを浮かべていたが。苦手な話題なようで顔を逸らしている。

「話題を変えてもらっても良いかな?」

 ぼくから逃げるかのように、下駄箱のあるほうに歩きだした幼なじみの背中をゆっくりと追いかけていく。

 幽霊の彼女の手を引っぱると、ジャンプをしながらついてきてくれた。

「相変わらずストレートに言うのな、こっちは別に良いけど。そうだな、幽霊とか信じていたりするか?」

「見たことないから信じてないかな」

 幽霊の話で、体温が下がった訳でもないと思うが。落ち着いたようで、隣を歩いている幼なじみがぼくの顔を見上げている。

「もしかして信じているの?」

「まあね。最近、信じないといけない状況になったって感じでね」

「ナギサちゃんに会えたとか?」

 幼なじみがそう言うと、なぜか分からないが幽霊の彼女がジャンプするのをやめ、鼻息を荒くしていた。

「想像に任せるよ」

「そっか。良かった」

 幼なじみが善人っぽい言葉を並べている。幽霊の彼女は、その台詞にほだされでもしたのか触れないのに抱きつこうとしたが。

 タイミングの悪いことに、幼なじみが立ちどまってしまい空振っている。

「幽霊のナギサちゃん、可愛かった?」

 幼なじみに抱きつけなくて悔しがっている今の幽霊の彼女が。って意味じゃないよな。

「死んでいるからかな、生きていた時よりも色白で美人になっていたよ」

 まだ諦めてなかったようで、幽霊の彼女が幼なじみに再び抱きつこうとしたけど。

 幽霊の彼女を避けるかのように幼なじみが歩きだしてしまった。彼女が動かなかったとしても触れなかっただろうな。

「もう良いや」

 そう言うと、幽霊の彼女は幼なじみに抱きつくのを諦め、ぼくの背中にくっつくことにしたみたいだった。

 そんな状態のままで、ぼくも歩きだし……幼なじみの隣に並ぶと。

「ふーん、そんなに好きだったんだね」

 幼なじみの言葉にとげのようなものがあると感じるのは善人じゃないからかね。

「隣のきみも、好きなんだけどね」

「そっちも相変わらずジョークが上手いね。そんな感じでナギサちゃんを口説いたの?」

「口説かないと失礼だろう。女の子は皆……きれいで可愛い存在なんだからさ」

「ものは言いようね」

「ほめ言葉と受け取っておくよ」

 下駄箱からスニーカーを取りだし、上靴と履き替えている最中。

「あのさ、その幽霊のナギサちゃん。なにか言ってなかったの? 未練と言うか、彼氏に言い残したことがある……みたいな」

 少し真剣な表情をしている幼なじみがぼくにそんなことを聞いてきた。

「変な質問だな。死人に口なし。多分だが、あの世では話すことができないんだろうな」

 しゃべることはできる、とでも抗議をしているつもりなのか幽霊の彼女が唇をとがらせつつ、にらみ上げている。

「死人に口なし。意味が違うような? 幽霊のナギサちゃんとは話をしなかったってことだよね」

「そうだな。でも、普通は幽霊に会ったことを否定すると思うけどな」

 しかも数分くらい前に幼なじみ本人が幽霊の存在を信じてないと言っていたんだから、なおさら変な感じだ。

「ナギサちゃんの彼氏が会った。って言うんだから信じるしかないでしょう」

「シンプルな考えかただな。なんにしても、信じてくれるのはうれしいよ」

 本人も喜んでいるよ、と言うのは野暮か。オカルトであれ、ファンタジーであれ、証明されるよりも曖昧なほうが楽しめる。

 けど、そう考えると。

「ドラマとかの名探偵って、色々と退屈そうだよな」

 話しかけた訳ではないのだが、幼なじみが律儀に反応していて首を傾げている。

「なんで?」

「色々なことが分かっちゃうからだよ」

 説明するのは面倒なので適当に答えると。

「ん? うーん」

 うそつきの言葉を真剣に考えてくれているのか。異性が目の前にいるのに、警戒もせずに幼なじみは目をつぶっている。

 ここが部屋でベッドがあったら押し倒していた。とは思っているが、なにもしないのも幼なじみに対して失礼だよな。

 だから気づかれないようにすばやく、目をつぶっている幼なじみの唇を奪った。

 互いの唇が軽く触れるていどのものだったがキスに違いはないだろう。

 幼なじみの両目が完全に開く前にはなれておいた。

 幽霊の彼女には幼なじみとキスをしていたところを見られていたが、特に気にしてないようで欠伸をしている。相手が幽霊じゃないから浮気じゃないと判断してくれたのかね。

「え、あれ?」

 幼なじみが自身の唇を指先で触りながら、手を伸ばしても届かないところにいるぼくの顔を見ている。

 夕日のせいかもしれないが、幼なじみの頬が赤くなっているようだった。

「どうかしたのか?」

 心配しているかのように声をかけながら、幼なじみのいるほうに近づいていく。

「んーん。な、なんでもないよ」

「本当か? 顔が赤いぞ」

 さりげなく、頬を触ろうとしてみたが避けられてしまった。思っていたよりも幼なじみは鈍くないらしい。

「あ、ごめん。でも、平気だから」

「それなら良いけど」

 疑ってなさそうだが、頭が混乱しているんだろうな。キツネかタヌキにでもだまされたみたいに。

「それと、うそだから」

「え?」

「名探偵の話。色々なことが分かると退屈になるってやつ」

 むしろ、今みたいに真実を知っていれば、それを知らないやつを観察できる……だからこそ面白いって考えかたもある。

 一種の優越感かな。個人的には理解のできない感情だけど。相手が幼なじみだったからか笑みを浮かべそうになっていた。

「うん? あ、そうなんだ。駄目だよ。あんまりうそをついたら」

「努力はするよ」

 お互いさまだけどな、と言うのは少しストレートすぎか。幼なじみは、ばれてないって思っているみたいだけど。

 あの真相を知らないと思っているぼくを、観察して面白がっている感じでもない。逆に幼なじみはおびえているのだろう。

「努力するのは大切だよね」

 その可愛らしい笑顔と豊満な胸の中に隠している……どす黒い真実。当の本人は忘れてしまったみたいだけど。

 目が合うと幽霊の彼女が抱きついてきた。ぼくの真似でもしているつもりなのか、唇にキスをすると。すばやく幼なじみのいるほうに移動し、背中を向けている。

「どうかした?」

 幽霊の彼女がこちらに身体を反転させて、先ほどのぼくと同じ言葉を口に。

「わたしを殺した女の子だからって、口説かない男の子じゃないでしょう。きみは」

 そう、幽霊の彼女は言ったが。本人も自身の言葉に驚いているようでまぶたを開閉している。まるで生前の彼女みたいだった気が。

「ん、どうかしたの?」

 同じような台詞を幼なじみが言いつつ首を傾げていた。やっぱり可愛らしい仕草。

「ユウナに見とれていただけだよ」

「か、からかうな」

 それなりに効果はあったようで、幼なじみがさらに顔を赤くしている。

 それにしても、自分を殺した女の子と……つき合うように促す彼女も変だけど。本気で口説こうとしているぼくも変人だよな。

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