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もっとも残酷なやりかた

「さ、話の続きをどうぞ。お兄ちゃん」

 どこかにでかけてデートでもしそうな服を着ている妹が目の前に座り、楽しそうに身体を揺らしているが。

「お兄ちゃんの勘違いかもしれないけど……スズナは自分が犯人だったのを認めたよな」

「うん。認めました。さすが、わたしのお兄ちゃんって思った。頭も顔も良くて、探偵もできるなんて」

「世辞は良いから」

 悪びれてないと言うか自分がしてしまった罪をなんとも思ってなさそうだよな。ぼくが言えたことでもないけど。

「それで、どこまで話したっけ?」

「わたしのお兄ちゃんはナギサさんを殺してないのに、彼女のことが記憶から消えてないってところだったと思うよ」

 推理小説のトリック部分の説明みたいな話だね、と妹が笑っている。

「それって、犯人だと認めさせるために説明するものだったような」

「ある意味で、お兄ちゃんがわたしの女心を解明してくれるとも言えるね」

 これがジョークだったら苦笑いでおわるのだが、真面目に言っているからな。

 なんにしてもこんな結末になってしまったのは妹の責任。これから起こることは、本人がどうなろうと受けとめなければならない。

「その話の前に確認なんだが。スズナはぼくの幼なじみのアカイユウナを」

「覚えているよ。お兄ちゃんが殺したんだよね、つき合っていたのに」

 つき合っていたから殺したんだ、と教える必要はないか。全く関係ない話とも言えないが順番もあるし。

「そうだ。そのアカイユウナを殺した後に、お兄ちゃんにとっても予想外のことが起こったんだが。なにか分かるか?」

「キユさんの浮気かな。お兄ちゃん、珍しく怒っていたっぽいし」

 今はミドリサカリョウのことは、どうでも良いんだけど。

「アオハラキユから聞いたのか?」

「半分くらいは、殺す前に。お兄ちゃんから愛されているのにね、そんな酷いことをするなんて人間じゃないよ」

 妹的には、まだ怒りが鎮まってないらしく座った状態のままで、シャドーボクシングをしていた。ぼくには見えないがアオハラキユを殴っているんだろう。

「怒ってくれるのはうれしいが、そっちじゃない。ユウナちゃんのことだよ」

「ん? ユウナさん?」

「もっと正確に言うのなら……ぼくがアカイユウナを殺したことで、アオハラキユの妹が誕生しちゃった」

「別にお兄ちゃんが殺したからユウナさんが生まれた訳じゃないと」

 話している途中でなにかに気づいたのか、妹が口を開けたままでかたまっている。

「スズナも気づいたのか?」

「気づいた、って言うよりは。ほとんど仮説だよね、その話」

「そうだな。でも、その仮説が正しいから、ぼくがシロイロナギサやアオハラキユ、それとユウナちゃんを忘れてない」

 妹がアカイユウナを忘れてないことも同じように。

「それじゃあ」

「ああ。あのアカイユウナも、殺すって言葉を知っていたんだろうな」

 ぼくや妹みたいな人間じゃない。善人で、可愛い、あのアカイユウナも知っていた。

「そもそもアカイユウナがその言葉を知っていたことは。別にそこまで変でもないしな」

 シロイロナギサの生まれ変わりなんだから知っているほうが普通だ。むしろ、あの彼女からアカイユウナのような善人が。

「兄さん、だまってくれる」

 そう言い、隠しもっていたナイフを座っているぼくののどもとに近づけている。万歳をしつつも頭のほうは、それで殺されるのなら悪くないな……と。

「あ、間違えた。お兄ちゃんだったね。このナイフ、ナギサさんのだよね?」

 妹が笑みを浮かべているが、その目は。

「そうだな」

「ナギサさんは死んだのにさ、どうしてこのナイフは消えてないの?」

「それよりも、話の続きをしなくても良いのか? まだ肝心なところは教えてないし」

「ドッペルゲンガー」

 普段の妹の明るい声とは思えないほどに、暗く低い音が自室に響いていく。

「わたし的には、二重人格のほうがしっくりとくるんだけど。ドッペルゲンガーのほうが分かりやすいよね」

「そうかもしれないな」

 個人的には、どっちでも良い。こんな話をすることもないだろうが、聞いた人の解釈に任せるつもりだし。

「わたしのお兄ちゃんが大好きで……善人のアカイユウナさんは。殺す、って言葉の後ろめたさを受けとめられる性格じゃなかった。それだけでしょう」

 だって、善人なんだもん。虫なんかも殺せない。そんな人間が自分の中に、どす黒くて訳の分からない感情をもっていたとしたら。

 声が小さくて、聞こえないが。妹が独り言を口にしているみたいだな。顔色を見るに、本人にとってはそれほど愉快でもなさそうなことを。

「善人だったら、どす黒い感情をもっていること自体が許せないだろうし、常にストレスだったはず」

「当の本人は善人だと思ってなかったみたいだけど、確実にストレスだったろうな」

 思春期だったら、当たり前にするていどの妄想にさえも恥ずかしがるような性格なら。

「だから、殺してあげたの?」

 妹がナイフを揺らしている。なにに対して怒っているのかは分からないが、鋭い視線を向けていた。

「いや。ぼくがアカイユウナを殺したかっただけだよ。楽にしてあげようなんて、少しも思ってない」

 あの時はアカイユウナがそんなストレスを抱えていたなんて知らなかったし。

「でも、結果的には助けたことになるんじゃないの? お兄ちゃんが殺してあげたから、どす黒い感情を分けられたんだし」

 お兄ちゃんの幼なじみの妹として、だけどね。そう、妹が続けている。

「結果的にそうなっただけだよ。案外、ぼくが殺さなかったらアカイユウナは受け」

「お兄ちゃんが殺さなかったら……わたしが殺してあげてたよ」

「自分のためだろう」

「それは、お互いさまだよね」

 それほど耳は痛くないが、確かに妹の言う通りなので言葉がでてこない。

「お兄ちゃんが悪いんだよ……お兄ちゃんがお兄ちゃんだから、わたしは」

「スズナは妹だよな」

 血のつながっている存在だからか妹がなにを言いたいのか分かってしまう。

「お兄ちゃん。なんで今さら当たり前のことを言っているの?」

「スズナが、その当たり前のことを分かってなさそうだからかな」

「結婚はできなくても、わたしがお兄ちゃんを好きなことは真実だよ。それだけは誰にも邪魔できない」

「兄として?」

「たった一人の男の子として」

 そうか。と、ぼくは力なく言っていた。

 間違っても、妹が今さらまともな考えかたをするとは思っていなかったが。それでも、他のやりかたはなかったのか? そう考えてしまう。

「ユウナちゃんのことを幼なじみのドッペルゲンガーと言うのは、面白い考えかただな」

「ほめてもだめだよ」

「分かっているよ、スズナ」

 せめて自分から諦めていれば、こんな結末にはならなかったのに。狂わせてしまった兄として、なんて言うつもりはないけど。

「なんでナギサのナイフが消えてないのか、って質問したよな? それは、お兄ちゃんのプレゼントだからさ」

 ミドリサカリョウが死んだ時と同じように存在が消えれば、その人間に関連した全てのものごとはなくなってしまうが。

 そのナイフはシロイロナギサにプレゼントしたんだから。ぼくが殺されて、存在が消えない限りは。

「ふーん、お兄ちゃんのなんだね」

「ある意味でスズナのものとも言えるな」

 妹が首を傾げている。可愛らしいし、血のつながっている兄妹じゃなかったら、ほれていたかもしれないな。

「ジョーク?」

「ドッペルゲンガーの話の続きだよ」

「その話は、もう」

「スズナもドッペル」

 両目を黒くしている妹が、ナイフをぼくののどにつき刺そうとしたからか、思わず刃を握りしめてしまった。

 ぼくも人間なようで死にたくないらしい。

「兄さん。今のジョークは笑えないから」

 小学生にしては腕力があるとは思うけど、さすがに負けるほどではないな。

「ジョークだと思っているのなら、どうしてそんなに動揺しているんだ?」

「動揺なんかして」

「本当は、気づいているんだろう? 自分もユウナちゃんと同じようにドッペルゲンガーだってことに」

 ナイフを押しこめないと判断したらしく、力を抜いているが。握りしめたままなので、油断はできない。

「スズナは……殺すって言葉を誰かに教えてもらったか?」

 空ろな目をしている妹が、ゆっくりと首を横に振っている。涙をながしているようで、床にこぼれ落ちていた。

「でも、ドッペルゲンガーって証拠にはならないよ。ナギサさんも誰かに殺すって言葉を教えてもらってないと思うし」

「確かに、そうだが。スズナがドッペルゲンガーなのは、ほとんど確定している」

「なんで?」

「ぼくがシロイロナギサになん回も殺されているからだよ」

 もしかしたら……幼なじみに、と言うほうが正しいのかもしれないけど。

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