犯人は
「今なら死んだり……殺されちゃったりしても。わたしは満足できそうな気がしますね」
「そう」
個人的には勘違いか、満たされているような気分になっているせいだと思うが。
「あ、目を開けたら駄目ですよ」
「分かっているよ」
目を開けなくても、幼なじみの妹がなにをしているかは把握できてしまう、と言うか。もたれかかったり、手を触っていたからな。
「目をつぶっているから分からないんだけどさ、時間とか平気なの?」
「太陽がオレンジっぽいですかね」
「帰らなくて良いの?」
「今日だけですからね。彼氏さんがわたしの言いなりになってくれるのは」
それは、そうだろうな。ぼくと幼なじみの妹が想像をしているであろうことが、本当に起こっているのなら。
「ユウナちゃんの頼みなら、どんなことでもかなえてあげるよ」
「あんまりうそをついたら駄目だよ……って言ったのに」
幼なじみの妹の言葉づかいが変わったからか、思わず身体を震わせてしまう。
「覚えているの?」
「彼氏さんが、男の子っぽいことをしていたことは覚えているみたいですね」
「じゃあ、それがぼくに協力をしてくれる」
「少し違いますね。それも全く関係ないとは言えませんが」
これから自分が言うことに対して、変だとでも思っているようで吹きだしている。
「ジョークとか言うつもりなの?」
「いえ。なんと言うか、自分がそんな大層な人間じゃないのにこんなことを言わなければならないのか、と思ったら。つい」
しばらく笑うと、聞き覚えのある声が。
「善人だから、かもしれないね。それにほれちゃった男の子が困っていたら、助けるのが普通かと」
「殺されないと助けられないのに?」
「自分を殺した相手に言われるとはね」
あきれたように目の前の女の子は息をはきだしているのだろう。
「謝ったほうが良いかな?」
「んーん。きみがあんな風に楽しそうにしているところは見たことなかったから。許してあげても良いと思っていたり」
「そっか。ありがとう」
お礼を言ったつもりなのだが……なにかが気に入らなかったようで胸の辺りを、なん回か軽く叩かれた。
「なんかむかつくから、やっぱり謝って」
「殺しちゃって、ごめんね」
ぼくに殺されて、少しだけ性格が変わったと言うか。そもそも別人だったよな、真似をしてくれているだけで。
「ユウナちゃん」
「彼氏さん、空気を読んでくれませんか? なんのために人が演技をしていると思って」
「ごめんごめん。でも、彼女を殺したことをぼくは後悔なんかしてないんだよ」
そもそも……人を殺してもなかったことにされてしまうこの世界で後悔しろ、ってほうがむずかしい。
「ユウナちゃんは、ぼくが彼女のことを後悔しているから。言いなりになってくれているって」
「別に思ってませんよ。この人の真似をしたら彼氏さんがどんな反応をするのか見てみたかっただけなので」
「そう、なんだ。悪戯好きだね」
目を閉じているので、はっきりとは分からないけど、空気の漏れているような音がしている。幼なじみの妹が、口もとを手で押さえながら笑っているっぽいな。
「やっぱり彼氏さんはうそつきですよね」
なにかを言ったような気がしたけど、声が小さくて聞こえなかった。
「目を開けても良いですよ」
言われた通りにすると目の前に笑みを浮かべている幼なじみの妹の顔が近づき。
「もう一回だけ」
やわらかな唇を押しつけてきた。目が合うと、舌をからめて。廊下を誰かが歩いているのか、部屋の外からきしむような音が。
「上手ですか?」
小さな子どもみたいに、質問をしてくれているが鋭い視線を自室の扉のほうに。誰かが中をのぞいていたのか、少しだけ。
「ユウナちゃんは覚えるのがはやいね」
「好きな人のためですから」
ぼくもユウナちゃんのことが好きだよ、と言うべきなんだと思うが、先ほどと同じようには。
「彼氏さんは言ってくれないんですか?」
「幼なじみの妹として、って意味だし」
「ものは言いようですね。どうせなら、もう一回だけ。彼氏さんに」
「それを言っちゃったら、お姉ちゃんの前で切腹しないといけなくなるからさ」
ぼくの言葉を聞くと。幼なじみの妹が目を見開き、吹きだすように笑っていた。
ジョークのつもりじゃなかったんだけど。
「そうですね。それは大変ですよね」
窓のほうを、目を細めつつ見てから。彼氏さん、家まで送ってもらえますか? と立ち上がっている幼なじみの妹が、ぼくを見下ろしている。
「その前にケーキ屋でシュークリームを買うんじゃなかったっけ?」
「お姉ちゃんに食べられてしまうと思うのでやめておいてあげます」
また、出会うことができたらその時はよろしくお願いしますね。そう、幼なじみの妹は言っているが。
「それじゃあ、次のデートの時にでも」
「ええ。楽しみにしておきます」
自室からでようとすると、幼なじみの妹がぼくの右手を握りしめてきた。震えていて、冷たいような気がする。
「やらなくても良いんだよ」
「もう遅いですよ。彼氏さんがなにを言ったところで全ては決まってしまいましたから」
「そうならない可能性も、全くないとは言い切れないんじゃないかな?」
「本当にうそつきですね。どうせなら」
つないでいるやわらかな手を引っぱって、幼なじみの妹を抱きしめ、耳もとで。
「ユウナのことも好きだよ」
「それ、本当ですか?」
「本当」
「そっか。良かった」
抱きしめられるのは苦手らしく、幼なじみの妹がはなれているが。手を握るのは好きなようでぼくの小指と薬指を包みこんでいる。
変な握りかただが、指をおり曲げるつもりもないだろうし。そのままの状態で幼なじみの妹の家まで。
忘れないように、その可愛らしい顔を覚えようとしたが、彼女の家に着くまで目を合わせてくれなかった。
幼なじみの妹を家まで送り、自室のベッドで寝転んでいると頭が痛くなった。
アカイユウナとミドリサカリョウを殺した時と同じ。いや、それ以上の痛みが頭に。
けど、全てが分かったような気がした。
腹はそれほど空いてなかったらしく、ぼくはそのまま眠って。
はじめに変だと思ったのはシロイロナギサが殺されてしまったのに、ぼくが覚えているからだった。
確か、シロイロナギサの説明によると人間を殺しても認識されない。細かいが、殺すのと死ぬのは違うんだから寿命の場合はルールに適応されないのかもしれない。
でも、シロイロナギサは自死だった。
自分を殺したんだ。寿命で死んでしまった訳じゃないんだから、ぼくが覚えているのは少し違和感がある。
神さまがいるのかどうかは知らないが自死をすることも寿命として認識しているなら、この仮説はなかったことになってしまう。
けど……アカイユウナはシロイロナギサの生まれ変わりである善人の彼女は以前の自分のことを覚えていた。
シロイロナギサは教えてくれなかったが、殺された本人のことを覚えているのは基本的に一人だけ。
自分にとって不都合やら、きらいな人間を殺したやつだけになるはず。例え、殺すって言葉を知っていたとしても、記憶は消されてしまうみたいなのに。
なぜか、あの時点でシロイロナギサのことを知っている人間が三人もいた。
ぼくと、アカイユウナと、もう一人。
アカイユウナが覚えているのは、シロイロナギサの生まれ変わりだから、だとしても。
なんでシロイロナギサのことを覚えているやつが二人いる? ぼくは彼女を殺してないのだから、記憶を消されるはず。
幽霊の彼女も自死じゃないと言っていた。一応、その言葉を信じればシロイロナギサを殺した人間がいる、ぼく以外で。
それなのにぼくがシロイロナギサを殺した存在だと認識されてしまっている。本当に、ぬれ衣。
「ねえ……お兄ちゃんは一体なんの話をしているの?」
「スズナがぼくの彼女だったシロイロナギサを殺したって話をしているんだよ」
ぼくと血がつながっている可愛い妹が実は犯人だったって話。
「そっか。ばれちゃったんだ、残念」
目の前で寝転んでいる妹が小さな舌を可愛らしくだしている。
「さっさと話の続きをしたいけど、その前に服を着てくれないか? スズナ」
「下着姿だから、裸じゃないよ。それに布団の中だし、お兄ちゃんとくっついているから風邪も引かないかな」
風邪を引いても、お兄ちゃんが甘えさせてくれるから、にひひひ。と妹がうれしそうに笑っていた。
以前からなんとなく思っていたことだけど妹は少しブラザーコンプレックスなところがあるみたいだな。




