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当然の権利

「告白の結果はどうでも良いんですよ。本当にほしかったら、お姉ちゃんを殺せば」

「ジョークだとしてもその先は言わないほうが良いかな。こんなぼくにも許せない部分があるみたいだから」

「彼氏さんにとってタブーなら、もう言いませんよ。ジョークでも」

 個人的には怒ったつもりなのだが、なにが面白かったのかは知らないけど幼なじみの妹が楽しそうに笑っている。相変わらず女の子の笑いのつぼは分からないな。

「お姉ちゃんがそんなに好きなんですか?」

「そう思っておいてくれれば良いよ」

 幼なじみに対する思いは好きって感情ではあるんだろうが。普通の人が求めているものとは違って。

「ところで、そのタブーを犯人さんがやってしまう可能性がありますけど、それは良いんですか?」

「だから悩んでいるんだよ。ぼくがその犯人を殺せば、全て丸く収まる。と言うか、聞かなかったことにしてくれるんじゃ?」

「今まで、うそをついていた女の子の言葉を簡単に信じるんですね。彼氏さんは」

「それもそうだね」

 やっぱり幽霊の彼女が消えてしまったことをそれなりに引きずっているのかね。ぼくの願いがかなわなくなった訳でもないが可能性は低くなったし。

「提案ですが、わたしが殺しましょうか? 犯人さんも分かっていますし」

「ありがたい話だけど。そこまでしてもらう理由がないからね」

「わたしが彼氏さんを好きだから、は理由になりませんか?」

「それだけで殺されるほうの身にも」

「そんなものじゃなかったんですか?」

 幼なじみの妹はそれ以上……なにも言わなかったがその通りだ。今までだって、そんなていどの理由で殺してきたくせに。

「そうだったね。でもユウナちゃんに殺してもらうのは、やっぱり筋が違うかな」

 シロイロナギサの敵討ちとかそんなセンチメンタルなものではなく。ぼくの目的を邪魔した存在として、見るべきなんだろう。

「今すぐって訳にもいかないけどね。どうせなら、面倒なことを代わりにやってもらってから犯人を殺すよ」

「そうですか。まあ、基本的には彼氏さんの問題ですからね。わたしが口を挟むのも筋が違いますし」

「そんな風に考えなくても良いよ。個人的には、ユウナちゃんのおかげで前向きになれたって感じだからさ」

 殺す決心をさせることを、前向きと言って良いのかは分からないけど。どちらにしてもやるしかないんだからな。

 ぼくの目的のためにも。

 あの幼なじみにもう一回、会うためにも。

「ところで、ユウナちゃんは。殺すって言葉を誰かに教えてもらったりしたの?」

「いえ。この世界に生まれた瞬間から知っていたんだと思いますよ」

「そう。変な質問なんだけど、生まれてから今までの記憶ってあったりするの?」

 正座をするのが辛くなってきたのか、膝を崩しながら幼なじみの妹が首を傾げている。

「本当に変な質問ですね。さすがに赤ちゃんの頃は覚えてないですが、小学生くらいの時に彼氏さんと遊んだ記憶とかなら鮮明に」

 ぼくも幼なじみの妹と遊んだ記憶はある。が、それはアカイユウナを殺した結果で……つくられたもの、彼女の存在自体も。

 そもそも、ぼくも幼なじみも他の人間も神さまがつくったものなんだろうから、今さら悩ませる必要もない。

 最後は皆、同じところにいくんだし。

「記憶力が良いんだね」

「興味のない人とのことを覚えているほど、わたしは優しくないですよ」

「ごめんね。ぼくはお姉ちゃん一筋なんだ」

「ジョークですよ。それに人生は長いので、彼氏さんが人の道から踏み外す時もあるかもしれませんから」

 もう踏み外しているような気もするけど。少なくとも二人も殺しているんだから、天国へはいけないと思う。本当にあるのかどうかは知らないが。

「その時は、お姉ちゃんの前で切腹ですね。介錯はわたしがやってあげます」

「一緒に死んでくれないのね」

「彼氏さんは男前ですからね……全ての罪を背負って腹を切るものかと」

「女の子から言われるとは思わなかったな」

 それは、男のほうが自主的に言うものだと思うが、つっこむのも面倒だな。

「スズナちゃんなら、一緒に死んでくれるんじゃないですか?」

「妹にほれる予定はないよ」

「彼氏さんは意外と残酷ですね」

 普通に答えたつもりなのだが、幼なじみの妹には別の意味に聞こえたのか……どちらにしても本音だから、結果は同じだよな。

「そのスズナちゃんは隣の部屋で勉強をしているんですか?」

「いや。友達の家に遊びにいっているはず」

 それに近くにいるのなら。幼なじみの妹が立ち上がり、近づいてきている。ぼくの背後に回りこみ、両肩にそれぞれやわらかな手をのせてきた。

「なに?」

「彼氏さんにマッサージしてあげようかと。ゲームでぼろ負けするくらいに、疲れているみたいですから」

「フォローをありがとう」

「普通はつっこむか、怒るところだと思うんですけどね」

 やっぱり彼氏さんは変わってますよね、と幼なじみの妹が耳もとで声を震わせている。

 まるで、これから自分がとてもこわいことを体験するのを知って。

「キスをしても良いですか」

「それだけで良いの?」

 そう聞きながら、振り向こうとすると肩を強く叩かれた。マッサージをしてくれていると言うよりは。

「なんで、そんなところだけ鋭いんですか。彼氏さんは」

 全く、全く……と怒っている時のような声をだしているが肩を叩く力としては悪くないと思う。

「ユウナちゃんと同じ性格の女の子を知っていてね。それでなんとなく分かるのかもしれない」

 性格どころかアカイユウナの生まれ変わりなんだろうから似ていて、当たり前なのか。

「以前のお姉ちゃん?」

「それは秘密。そんなことよりも、キスだけで良いの? 報酬として釣り合ってないような気がするんだが」

 幼なじみの妹が、うなり声を上げている。アカイユウナのことを思いだすってことは、それなりに未練があるのかね。それとも。

「報酬って、なんですか?」

 ぼくの勘違いか、そう思うように仕向けているのかは分からないけど、本人がそうしてほしいのなら。

「ごめん……言いかたが悪かったね。今日はユウナちゃんの誕生日だから、プレゼントはそんなていどで良いのかな? ってこと」

「誕生日?」

 あからさまなうそを聞かされて、戸惑っているのか幼なじみの妹の声が少しだけ小さくなっている。

「忘れちゃった?」

 確認をするようにそう言いつつ振り向くと幼なじみの妹はゆっくりと首を横に振った。

「わたしは覚えてましたよ。まさか彼氏さんが誕生日を知っていると思ってなかったので驚いただけです」

 ぎこちなく、幼なじみの妹がぼくの背中にくっついている。うそをつけても身体の反応まではだませないようだな。

「彼氏さんがそう言うのであれば、お言葉に甘えます。昔から、お兄ちゃんもほしかったので」

「そうなんだね」

 背中から力強く抱きついたまま、幼なじみの妹がぼくの左肩に顎をのせている。

「見ないでくれますか」

 ぼくの首はそんなに曲げられないけどね、なんてジョークを……幼なじみの妹の呼吸が荒いような。はっきりとは見えないが、鼻をひくつかせて。

「彼氏さん、目をつぶってくれます」

 ぐうぜんだと思うが、耳に息を吹きかけるように幼なじみの妹が声をだしていた。

「言われた通りに見てないけど」

「なんとなくです。彼氏さんは目玉をえぐりだすくらいしないと安心できないので」

 そんなにこわいイメージをもたれることをした覚えはないんだが、幼なじみの妹の言うように目をつぶる。

「見えてないですよね?」

 背中から、ぼくの正面のほうに移動をしたみたいだな。顔の前で手を振っているのか、あおがれている気がした。

「今は、目を開けたら駄目ですよ。変な顔をつくっているから笑ってしまうと思うので」

「見られたくないなら、それは言わないほうが良かったんじゃないかな?」

「やっぱり鈍いですね。多分……彼氏さんが想像をしているような変な顔じゃないと思いますよ」

「それじゃあ、どんな」

 両手で頬を触りながら、キスをしてきた。舌はからめず、やわらかな唇をなん回も押しつけている。

 可愛らしい顔をしているのにそれほど経験はなかったのか、どことなく不慣れな印象。

「もしも好きな人が自分の言葉通りに動いてくれたら、にやけてしまいません?」

 そうかもしれないね、と言おうとしたが。また……やわらかな唇を。

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