色々な告白
幽霊の彼女がいなくなって数日後。世の中はゴールデンウィークになっていて。
「彼氏さんはゲームに弱いですね」
なぜだか、自室で幼なじみの妹とゲームをしていた。基本的に女の子となにかするのは楽しいから良いんだけど。
「その言いかただとゲーム自体が弱点みたいな感じになるかな」
確か、ぼくの記憶が正しければゴールデンウィークにデートの約束をしたのは幼なじみで、その妹ではなかったはず。
「学校の先生みたいに細かいですね」
隣に座っている幼なじみの妹が笑みを浮かべているが格闘ゲームのほうは容赦なく……ぼくが操っているキャラクターをぼこぼこにしていた。
「ユウナちゃん。ゲームが上手いよね」
「そうですか? まあ、姉とやっているので上達しやすい環境なのかもしれないですね」
口では大人っぽく冷静に答えてくれているが満ざらでもなさそうで、にやついている。
ぼくが操っているキャラクターをなぶっているからかもしれない、って考えかたは性格が悪すぎるか。
「そうそう。ぼくの記憶が正しければ、そのお姉ちゃんとデートの約束をしていたと思うんだけど」
「言うのを忘れてました」
どうやら幼なじみが風邪を引いてしまったようで、その代理としてぼくとデートをしてくれているらしい。
「彼氏さんが全くつっこんでこないので……お姉ちゃんに完璧に擬態できているのかと」
「髪の色以外はね」
「なるほど。髪をそめるべきでした」
「問題はそこじゃないから」
幼なじみの妹が目を丸くしている。そんなに変なことを言ったつもりはないが。
「彼氏さんはつっこみタイプでしたか。てっきり、わたしと同じぼけタイプだと」
「そんなタイプがあるんだね」
「ところで、なにかあったんですか?」
ゲームのコントローラを床におき幼なじみの妹がぼくの顔を見上げている。姉妹ともに勘が良いのも考えものだよな。
「お姉ちゃんとケンカとか」
ぼくもゲームのコントローラをおき、正座をしている幼なじみの妹と向き合うように、座りなおした。
「お姉ちゃんは関係ないよ。個人的に面倒なことが起こっちゃってさ、どう解決したものかと思ってね」
ある意味では幼なじみが全てのはじまりと言えなくもないけど、それはあちらの都合。
逆うらみにもほどがあるし。ぼくが殺してしまえば全てあっさりとおわるんだろうが。
「犯人は分かっているけど。証拠がなくて、どうしようもないって感じなんだよね」
全くない……とも言えないが。仮説レベルで証拠として弱い。それに理由はどうあれ、ぼくはそいつを殺すことに対して少し迷っているみたいだし。
「多分、楽しみにしていたプリンやドーナツを食べた犯人だったら、お姉ちゃんで間違いないですよ」
「帰りにさ、家の近くのケーキ屋でなにかを買ってあげるから。その件に関しては許してあげてほしいな」
「良いんですか? シュークリーム三個とか頼んじゃいますよ」
「それでお姉ちゃんが許してもらえるのなら安いものじゃないかな」
幽霊の彼女もだったがプリンやシュークリームに、そんなに価値があるとは個人的には思わないからな。財布は軽くなるが。
「そんなことをされたら、これから彼氏さまと呼ばないといけませんね」
「いや。彼氏さんで良いから」
むしろ、その呼びかたのほうが悪意があるような。
「そうですか。彼氏さんは聖人ですね」
シュークリーム三個を買ってあげるくらいで聖人呼ばわりをするこの子のほうがそれっぽいけどね。
「話を戻しますが、その犯人さんが分かっているのなら証拠は必要ないような気もするんですが? 別に警察とかにどうこうしてもらおうってレベルの話でもなさそうですし」
「そうなんだけどね。証拠と言うよりは……ぼく自身がその真実に対して納得できてないってほうが正しいのかもしれない」
そもそもアカイユウナとミドリサカリョウを殺しているぼくが。今さら、証拠やらなんやらと常識的なことを考えている時点で。
幼なじみの妹が犯人の名前を口に。自分で言っておきながら、意外だったようで驚いた表情をしている。
「彼氏さんもそんな顔をする時があるんですね。少しびっくりしました」
けど、そうですか。まあ、なんとなくなにがあったのかは分かりますね……と幼なじみの妹が軽く笑っていた。
「えと、今の話は聞かなかったことにしますね。わたしもその犯人さんをどうこうしようとは思わないですし。なにをしたのかも知りませんから」
「面倒なことは、きらい?」
「と言うよりは、わたしが関わるほうが問題がこじれてしまうような気がするので」
「確かに」
「それにその問題は彼氏さんがどうこうするのが筋だと思いますよ。お姉ちゃんも断罪をできなくはない立場だと思い」
「ありがとう。そうさせてもらうよ」
少し強引に話を終わらせてしまったか、と思っていたが。特に気分を害してはないようで、幼なじみの妹が笑みを浮かべている。
「にしても彼氏さんでもそんな風に迷ったりするんですね」
「その問題だけなら良かったんだけど。それ以外にも精神的にダメージがあってね」
もう聞く必要のなさそうな質問なんだが。一応、幼なじみの妹にもしておくべきか。
「ユウナちゃん。殺す……って言葉を知っていたりする?」
「お姉ちゃんにプレゼントでも」
「コロンのことじゃないから」
ジョークだったのか幼なじみの妹が口もとを手で隠しながら身体を揺らしている。
「わたしがその言葉を知っていると彼氏さんになにか問題があるんですか?」
「ないよ。できれば確認をしておきたいってくらいだから」
そう言えば、アカイユウナにはこの質問をしてなかったよな。する必要がなかったから当たり前の話だが。殺す、って言葉を。
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。それでユウナちゃんはその言葉を知っているの?」
「答えても良いですが。どうせなら、クイズにしませんか? 殺す、って言葉をわたしが知っているか知らないか」
「良いけど。罰ゲームとかあるの?」
「あー、そうですね。罰ゲームがあるほうが楽しいかもしれませんね。でこぴんとか」
幼なじみの妹が、目を逸らして自分の唇をなぞるように指先で動かしている。自室の扉に向けていた視線をゆっくりとぼくのほうに戻していた。
「わたしも一応は、女の子なので彼氏さんと考えかたが違うと思うんですが」
「まあ、そうかな」
性別に関係なく大抵の人間にはそれぞれの考えかたがあると思うが、細かい話はおいておこう。
「わたしもお姉ちゃんが好きなんですよ」
「仲が良いんだね」
「お姉ちゃんが好きになったものも、好きになってしまうんですよ」
「姉妹だから、好みやらなんやらが似通っているんだろうね。多分」
「彼氏さんは意外と鈍いですね」
クイズの話から脱線をしていると思いつつもだまっていたのだが、悪態のようなことをつかれるとは。
「ユウナちゃんの言う通り今日のぼくは鈍いんだと思うよ」
「年下は眼中にないですか?」
話のながれで考えたらぼくの女の子の好みの範囲のことを聞いている。と言うよりは、からかわれている感じか。
妹もだが、ぼくは年下にからかわれやすい体質なのかもしれないな。悪くはないけど。
「そんなことはないよ。年下でも年上でも、女の子は可愛いと思うタイプだから。ユウナちゃんも異性として意識しているかな」
「それじゃあ、わたしにキスをされたら……それなりに動揺してくれるんですね」
「ん。んー、そうだね」
なぜかキスの話になっているが、クイズの話に戻ってこられるのかね。
「でも、ユウナちゃんにキスなんかしたら、キユに怒られるから」
「逆ですよ。キスをするのはわたしです」
「それでもキユに怒られるね」
そう言うと、幼なじみの妹は息をはきだしつつ。本当に鈍いですね、とでも言いたそうな表情をこちらに向けてきた。
「彼氏さんのことが好きなんです」
「ありがとう。ぼくもユウナちゃんのことが好きだよ」
幼なじみの妹が眉を動かしている。うそはついてないのに怒っているような顔つきに。
「あの、本音ですよ」
「うん。ぼくも本音だね」
頭でも痛いようで、幼なじみの妹が自分のこめかみを指先で軽く触っている。
「今日の彼氏さんには、回りくどい言いかたは意味がなさそうですね」
「急がば回れ、って言葉もあるけど」
「今、そのルートを使ったら脱線してしまったんですよ。彼氏さんのせいで」
「そうなんだ。なんか、ごめ」
「わたしはあなたの恋人になりたいと思っているんですよ。お姉ちゃんをこの手で殺してでも、ほしいくらいに」
ぼくの言葉を遮るように、幼なじみの妹が真っすぐにこちらと目を合わせつつ告白を。
「知ってたんだね。殺す、って言葉」
「彼氏さん的には、そちらのほうが重要なんですね」
不服なようで、幼なじみの妹は頬をふくらませながら、ぼくの顔をにらみ上げていた。




