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デートの約束

 アオハラキユ。ぼくとの関係は幼なじみで最近、恋仲になったらしい。告白したりされたりの記憶はあるが、アカイユウナを殺した結果なので実感がない。

 なんとなく今までのことを思いだしてみたが……ぼくの頭が変になったとしか考えられないようなものになるな。

 そもそも人を殺しても罪にならないどころか、その殺された人間自体がいなかったことになる世界。と言うのを知っている時点で、ぼくは普通からはなれてしまっているのか。

「勉強って面白いね」

 隣に立っている、透明で色白な幽霊の彼女のシロイロナギサが楽しそうに授業を受けている。

 しかも幽霊まで見えているんだからカオスにもほどがあるよな、ぼくって。

「そっか。それじゃあ、この問題の答えとか分かったりする?」

「それは。それは、自分で答えないと駄目」

 なぜか……どや顔をしている幽霊の彼女。うそつきのぼくは性格が悪いからだろうな、この問題の答えが分からないんだなと思ってしまっている。

「ナギサは良い幽霊だよな」

「悪い幽霊っているの?」

 さあ? 他の幽霊を見たことがないから、比較のしようがない。でも、個人的には。

「いると思うけどな。人間と同じで皆が同じだったら変な感じになるだろうし」

 それぞれに個性があるから、面白いことが起こったりするんだろうからな。ぼく以外の人間は殺すって概念を知らないみたいだが。

 一部、例外があったりなかったりして。

「うーん。でも、わたしが十人くらいいたとしたら、うれしくならない?」

「逆に、こわくなる」

「そっか。じゃあ、わたしは一人だけにしておいてあげるね」

 幽霊の彼女が、分身もできるようになったのかはさておき。

 幽霊なのに、生まれたてと言うのもなんか変だが。その頃に比べるとかなりしゃべれるようになったよな。

 笑っていたかと思うと、幽霊の彼女が自分の席に座っているぼくの目の前のほうに移動をした。勉強はそれなりにできるので真面目に授業を受ける必要はないけど。

「なに?」

「気にしない。気にしない。わたしは可愛い幽霊ちゃんだから見えないんだよ」

 授業中、ぼくが大っぴらに動けないことを覚えたのか幽霊の彼女が頬を指先で軽く挟むように触っている。

「むにむにしてますな」

 やわらかな両手で、それぞれの頬を触っていたかと思えば唇にキスをしてきた。

「にへへ」

 キスをやめると……ぼくの唇をなぞるように、幽霊の彼女が赤い舌でていねいになめていく。

 舌をからめたくなったが、幽霊の彼女の姿は他の人間には見えないから、ぼくが変人になってしまうよな。

 大人しくなめられていると、なにかを思いついたようで幽霊の彼女が目を見開き、ぼくの頭に抱きついてきた。

 ああ。ものを通り抜けられることも自覚をしたのか、幽霊の彼女の腹を机やらノートが貫通しているように見えてしまうから、なんだか不気味。

「大きくなったでしょう?」

 幽霊の彼女しか見えない……ってジョークはさておき。本人が言っている通りに、胸は大きくなっていた。

 多分だが、アカイユウナを殺した影響か。

「幽霊にも発情期はあるんだな」

「えへへ」

 ぼくの顔面を抱きしめることに夢中で……つっこむのを忘れてしまったっぽい。こちらも女の子に触られるのは悪くないので、どうでも良いけどさ。

「はっ。成長期じゃないの」

 思いだしたように、幽霊の彼女がつっこんでいる。

「発情期と成長期は、同じ時期にやってくるみたいだから間違いでもないかと」

「ふーん、そうなんだね」

 うそ。と言いたかったが幽霊の彼女がさらに強く、ぼくの顔面を抱きしめていく。しゃべれないほどではないけど、息がしづらい。

「うれしい?」

「それなりには」

「ナイフを刺したくなるくらいに?」

 質問に答えても良かったのだが、面倒なので横腹をくすぐることに。幽霊の彼女が大声で笑いながら、ぼくからはなれている。

「はは。ひっ……や、やめて」

 幽霊の彼女が笑っている姿は見ていて飽きないが。目つきが鋭くなってきているので、横腹をくすぐるのをやめた。

 呼吸がととのうと幽霊の彼女がぼくの頬をつまみ、左右に引っぱっている。

「全く。悪戯しないの!」

 今、悪戯をしている女の子にそんなことを言われるとは思わなかったな。




「きみは、ゴールデンウィークに予定があったりする?」

 昼休み。学校の屋上で……隣に座っている幼なじみがチョココロネを食べているところを眺めていると、そんな質問をしてきた。

「キユと会う以外に予定はないけど」

 貯水槽にもたれかかっている、幼なじみが頬ばりつつ首を傾げている。彼女には分かりにくかったか。

「きみと会う約束なんてしたっけ?」

 頬にくっついているチョコレートを指先で取って、幼なじみがしゃぶっている。幽霊の彼女もたまにやるが自覚してないのは厄介なものだよな。

 幽霊の彼女もチョココロネを食べたいのか幼なじみのほうを見ながら、ぼくの人差し指に軽くかみついていた。

「あ。あー、なるほどね」

 先ほどのぼくの言葉の意味を理解したようで、幼なじみの声が小さくなっていく。赤くなっている顔を見られたくないのか逸らしている。

「部屋?」

「本当にゲームが好きだな。たまには、部屋じゃなくて外でデートしないか?」

「別に良いけど。スウェットになっちゃう」

「それじゃあ、予定通り部屋で」

「おい」

 幼なじみにつっこまれた。アカイユウナの時は、ぼくのほうがつっこむことが多かったからか違和感があったり。

「彼女のデート服を見たくないってか?」

「部屋でも見られるみたいだからな」

「それは、ぼけだって。外でデートをするのなら、それなりに気合いを入れるよ」

 なぜか分からないが、気合い……と筆文字で書かれているシャツを着ている幼なじみの姿をぼくの頭が想像していた。

「ん、なんか面白いことを考えているな」

 きみの考えていることはなんでも分かるんだから、とでも言いたそうに幼なじみがにやついている。

「そんなに期待するほど面白いことは考えてないと思うよ」

 今回の幼なじみはスポーツ女子っぽいからだろうな。ぼくの頭が変な想像をしたのは。

「それじゃあ、ゴールデンウィークのデートは、ぼくの部屋ってことで。それならキユのデート服も見られるだろうし」

「それで良いけど。時間とかは?」

「また後で。それくらいなら、LINNとかメールでできるだろう」

 それに、そろそろ幽霊の彼女にもなにかを食べさせないと、ぼくの指が。

 とは言えないので、キユには担任の先生に呼びだされている的なうそをついておくことに。

「ふーん……そうなんだね。うん? 今日は一緒に帰れないの?」

「ごめん」

 他の生徒に見えないようにしつつすばやく幼なじみの唇にキスをする。チョコレートが残っていたのか、甘かった。

「これで許してくれ」

「駄目」

 そう言い、他の生徒が見ていることを気にしていないかのように幼なじみが唇を重ね、舌をからめている。

「わたしに許してほしかったら、これくらいはしてくれないと」

「そうだな」

 恋人同士なんだから見られていたとしても問題はない。それに邪魔になるようなら。




 放課後。保健室のベッドの上で、寝転んでいると傍らにおいてあるパイプ椅子に。

「今日は仮病じゃなさそうだね」

 この前……ここで会った時より顔色が悪いような気がする、とパイプ椅子に座っている保健室の先生が笑みを浮かべている。

 相変わらず、きれいな足をしているので、そちらに視線を向けてしまう。

「最近、彼女と遊んでないのかい?」

「それなりに遊んではいますよ。幽霊の彼女とは」

「ん? ああ……見えていたのか、てっきりきみが殺した女の子が取りついているものと思っていたんだが。へー、そんな関係だったのか」

 なるほどなるほど、道理でその幽霊の彼女がきみになついているような動きをしていた訳だ。保健室の先生が目を細めている。

「で、その幽霊の彼女はどこに?」

「先生が苦手みたいで、ベッドの下に隠れていますよ」

「わたしが苦手? こんなに優しい先生なのに、変な話だね」

「先生は誰を殺したんですか?」

「殺してないよ。存在しなくなるんだから」

 全く動揺せずに。そんなことを聞くためにきたのかい? とでも言いたそうな顔つきをしている保健室の先生。

「そのことは前の時点で分かっていたと思うんだけど。わたしの買い被りだったかな?」

 髪になにかがついていたのか保健室の先生がぼくの頭を触っている。気のせいかもしれないが、顔が近いような。

「一応、確認ですよ。うっかり、そうなってしまった場合もありますから」

「そんな確認をしなくても。わたしはわたしのきらいなやつしか、殺らないよ」

 それに、お互いに面倒なことには口をださないと約束をしたと思うんだけど、と耳もとでささや……キスをされた。

 しかも経験値の差か。手も足もでないほどに上手い。と言うか、どちらもキスの時には使わないか。

「身体を楽にして、なおしてあげる」

「教えてあげるの間違いじゃないですか?」

「そう思うなら、それでも良いよ」

 ベッドがきしむ音とともに、保健室の先生がぼくの腹の上にまたがり。もう一回、唇にキスを。

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