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新しい世界へ

 幼なじみの妹を家まで送り、自宅のほうに向かっていると。隣を歩いている幽霊の彼女が人差し指で横腹をつついてきた。

「なに?」

「空いた」

 なんのことだろうと思いつつ、幽霊の彼女を見ようと……腹から音がしている。夕日のせいではないと分かるくらい彼女の顔が赤くなり、頭からけむりを発生させていた。

 幽霊としての新しい能力? ってジョークは今は通じなさそうか。そう言えば、今日は色々と忙しかったから、朝からなにも食べてなかったっけな。

「ごめんね」

 謝りつつ、幽霊の彼女の唇にキスをした。ぼくのエネルギーのようなものを食べられるようだし、多少は腹の足しになるだろう。

「なにか食べたいものはある?」

 いくつか食べたいものがあるのか逆立っている幽霊の彼女の黒髪が回転している。目をつぶっている姿が可愛いのでまたキスをしてしまっていた。

 てっきり怒ってくると思っていたのだが、空腹のおかげか目をつぶったまま幽霊の彼女が舌を入れてきている。しばらくすると目を開き、笑いだした。

「えっろー」

 互いの唇がはなれると、うれしそうに幽霊の彼女がそう口にしている。

「今日は、これにする?」

 コンビニにいくのが少し面倒になったのでそう提案してみたのだが。

「んーん。これとね、サンドイッチ」

 幽霊の彼女は意外とよくばりらしい。




 夕食をおえて、風呂に入り、自室で幽霊の彼女と遊んで。扉をノックする音が聞こえてきた。

 ベッドの上に座って、後ろから抱きしめているおかげでもあるんだろうが。ノックの音を聞いたのに幽霊の彼女は逃げずにそのままでいる。

「どうぞ」

 アカイユウナが死んでしまった影響なのか大きくなっている幽霊の彼女の胸を触りつつ扉の向こうにいるであろう妹に声をかけた。

「兄さん」

「わっ」

「んー、どうかしたのか?」

 妹には聞こえないし、見えてないようだが胸をあらわにしている幽霊の彼女が、さらに顔を赤くしている。

「今日……兄さんの部屋でゲームをしたよ。って報告をしておこうかと」

「そうか」

 扉の隙間から顔をだしている妹が、ぼくのほうに近づいてきた。見えてないのに、幽霊の彼女が身体をびくつかせている。

 妹にそのつもりはなかったと思うけど目が合ったようで。幽霊の彼女が恥ずかしそうに顔を逸らしていた。

「うん? どうかしたのか?」

 真っ赤になっている幽霊の彼女の頬にキスをしてから、ぼくの隣に座っている妹に視線を向ける。同級生とケンカでもしたのかね。

「どうもしないけど。兄さんなら、わたしの考えていることが分かるよね?」

「いやいや。兄さんはエスパーじゃないし、人の心を読むこともできないからな」

 とは言ったものの血のつながっている兄妹だからかもしれないがなんとなく妹の考えていることが分かったりする。

「合っているかどうか分からないが、兄さんと一緒の部屋で寝たい、とかか?」

「おー、さすが。エスパー兄さん」

「変な呼びかたをしないでくれ」

 昼間、ぼくの部屋でゲームをしたってことだから、こわくなったんだろうな。壊したい気分を抑えるための道具だからホラー系しかなかったはずだし。

「子どもっぽいかな?」

 年相応に可愛らしく首を傾げながら、妹がぼくの顔を見上げている。

「いや。兄さん的には、そう思わないかな」

 むしろ普段が大人びているので、子どもっぽい一面を見せてくれるほうが兄さん的には安心をしていたり。

「そっか。じゃあ、布団とかもってくるね」

「手伝おうか?」

「一人でできるし。子ども扱いしないで」

 兄さんは頬をふくらませたりすることは、子どもっぽいと思うんだが。妹の中では明確に線引きされているんだろうな。

「はいはい。分かったよ」

 ベッドから立ち上がると、妹が部屋をでていった。

「今日はここまでみたいだね」

 唇になん回かキスをして……幽霊の彼女を後ろから抱きしめるのをやめると。慌てて、まくり上げていた制服をもとに戻している。

「は、恥ずかしいだけだから」

 ベッドの上に座っている幽霊の彼女がぼくの胸板にもたれかかってきた。きらってないよ、とでも言いたそうに顔を見上げている。

「分かっているよ。ナギサ」

 幽霊の彼女のお腹の辺りに両腕を通して、ぼくはうそっぽく、そう言っていた。




「兄さん。おはよう」

 目を開けると、妹の顔があった。いや……首から下もあるのでホラーなところは一つもないのだが。

「布団をもってきたんじゃなかったのか?」

 寝起きで、ぼくの頭と目が混乱しているのなら妹に謝らなければならないが。今、一枚の布団の中で兄妹が一緒に寝転んでいる。

 兄妹だし。妹も小学生だから、変ではないのかもしれないが。ぼくの後ろで眠っているであろう幽霊の彼女がこの状況を見たら……どんな反応をするのやら。

「女体サンドイッチ」

 とか言いながら、背中にくっついてきそうだな、幽霊の彼女なら。ま、寝息が聞こえているからその心配はなさそうだけど。

「大人な妹も、たまには兄さんと一緒に眠りたくなる時があるのです」

「女心は複雑なんだな」

 兄さんの部屋でホラーゲームをした時とかか? なんて聞いてみたいが可愛らしく頬をふくらませている姿が頭に浮かんでいた。

「うん」

 対応は間違ってなかったようで妹がうれしそうに首を縦に振っている。

 もしも……今の一言は子どもっぽくて可愛かったぞ。とか言っていたら妹は怒っていたかもしれないな。

「あ」

 なにかを思いだしたように声を上げると、妹は頬をゆっくりと赤くしていった。先ほどの一言は子どもっぽかったな、とでも思っているのか枕で顔を隠している。

「どうかしたのか?」

「なんでもないから」

 枕を顔にくっつけているので、くぐもった声になっている妹。本人がなんでもない、と言っているんだからそうなんだろう。

「兄さんは、少し子どもっぽいよね」

「一応、高校生なんだけどな」

 言葉の意味は分からないが、小学生の妹にそんなことを言われるとは。




 朝食をおえて、学校に向かおうと玄関の扉を開けると、門扉の前に誰かが立っていた。

 青みがかった黒髪に、健康的な肌色。胸の栄養は実妹のほうにもっていかれてしまったのか幽霊の彼女よりも。

 大きければ良いってことでもないんだが。それに、着痩せをするタイプって場合もあるよな。

「よっ。おはよう」

 しばらく見つめていると……ぼくの視線に気づいたようで、幼なじみのアオハラキユがこちらに笑顔を向けている。

「おはよう。キユ」

 門扉を通り抜けながら、そう返してみると幼なじみの表情がかたまった。頬は赤くしてないが、ぼくになにかを言いたいようで口を開けたままでいる。

「どうかしたのか?」

 幼なじみの頭の上にある青黒い団子は……髪をどんな風に結んでいるんだろうな? と眺めていると。

「き、昨日」

「ん? うん」

「昨日さ、デートだったよね?」

「そうだな。キユの部屋で」

「楽しかった?」

 幼なじみがそう聞きつつ、ぼくの目を真っすぐ見つめている。否定された時のことでも考えているのか、瞳が揺れているような。

「本音で答えたほうが良いやつ?」

「いやいや。この質問で……うそと、か」

 幼なじみの頬を両手で触り、顔を近づけていく。スポーツ少女っぽいので、反応はそれほどないと思っていたのだが。

 顔を赤くしているところを見ると。一応、異性として認識してくれているようだな。

「一緒にいるのが楽しくないなら、そもそも彼氏彼女の関係になってないよ」

「そっか。そうだよ」

 幼なじみの言葉を遮るように、唇にキスをした。ここまでされるとは想像してなかったのか目を丸くしている。

 思っていたよりも反応が面白いので、舌を入れようとしたが逃げられてしまった。

「ふ、ファウルゾーンだから!」

 野球のことでも言っているんだと思うが、恋愛にルールはないんだよな。

「ごめんね」

 ぼくが殺したくなるまでは、関係をできるだけ良くしておくべきか。

 棒読みで謝ったつもりなのだが。幼なじみ的には、これ以上ないくらいに反省しているようにでも見えたのか、手を握ってきた。

 恋人つなぎ、だったっけな? こんな風に手をからめるやりかたは。

「本当に反省をしているなら近くのコンビニまで、このまま歩けるよね?」

 自分から恋人つなぎをしておいて……恥ずかしがっているらしく、こちらに視線を向けようとしない。

「むしろ、ごほうびになっているかな。隣の彼女さんは恥ずかしいみたいだけど」

「そ、そんなことないから」

「じゃあ、こっちを見てよ」

 今回は負けずぎらいなところもあるのか、にらみつけるように……ぼくの顔を見つめてくれている。

「ほら、恥ずかしがってない」

「本当に恥ずかしがってないのなら、キスもできるよね?」

「うぐぐ」

 辺りに誰もいないことを確認している時点で、恥ずかしがっていると個人的には思うんだ……キスをされた。

 油断していたのもあり、一瞬なにをされたのやら。脳が動いてないような。

「へへっ、わたしの勝ちだね」

 そう言いながら、幼なじみがうれしそうにどや顔をしている。

 鏡がないので分からないけど、今のぼくは驚いた表情をしているのだろう。それと同時に。

「キユ、好きだよ」

 好きになってしまった。いや……殺したくなってしまった幼なじみの唇に、ぼくは軽くキスをした。

 顔を赤くし、幼なじみは逃げるように近くのコンビニのほうに歩いている。ぼくのことをきらいではないようで手はつないだまま。

「わたしもだから」

 幼なじみがなにかを言ったような気がしたけど、こちらを見ようとしないので、ただの独り言だったのかもしれない。

「わたしも好き」

 ぼくの後ろをついてきている幽霊の彼女が楽しそうに言っている。

「なにが?」

 手を引っぱっている幼なじみに聞こえないくらいの音量で、ぼくは幽霊の彼女に。またキスをされてしまった。

 幽霊の彼女が、にへへ……と笑いながら。ぼくの名前を呼んでいる。多分、質問の答えなんだろうな。

「あーあ、きみを殺したいな」

 けど、きみを殺すことはできない。透明で可愛くて、幽霊の彼女だから。

「でも」

 言葉を発したつもりだったが、水分が足りなかったようで、上手く声がだせなかった。幽霊の彼女にも聞こえなかったらしく、首を傾げている。

「なに?」

「ナギサが好きって言っただけ」

 空っぽで、うそっぽい言葉だったが、幽霊の彼女にとってはうれしかったようでなん回もジャンプをしていた。

「両思いだね!」

「そうだな」

「えっろー、だね!」

「それは少し違うような」

「んー、なにか言った?」

 手を引っぱっていた幼なじみがゆっくりと立ちどまり、ぼくのほうに顔を向けてくれている。でも、まだ動揺をしているようで瞳が揺れていたり。

「独り言」

「ふーん、そっか」

「うそ。キユが好き、って言ったんだ」

「いやいや。そっちのほうがうそっぽいよ」

「それじゃあ」

 先ほどのお返しと言う訳ではないけど……幼なじみの唇にすばやくキスをした。顔全体を赤くしているが、悪くなかったようでにやついている。

「信じてくれた?」

 幼なじみは首を縦に振って、うれしそうに笑っていた。そんな彼女の可愛らしい笑顔を壊したいと、ぼくは。

「本当に、好きなんだよね?」

 台詞が棒読みだったせいなのか、幼なじみが不安そうに聞いてきている。

「ああ。大好きだよ」

 殺したいくらいに、とは今は言うべきではないんだろう。でも、ぼくは幼なじみのことをそれくらい好きだった。本当に、ね。

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