透明人間の使いかた
ゲームに限らず当たり前の話だが、上手い人がやるのと下手な人がやるのとでは、全く違うよな。
「これだけ上手ならさ、一人でできるんじゃないのか?」
強く降ってきているのかゲームの効果音にまじって、雨音が聞こえている。風も吹いているようで窓を叩く音も響いていく。
「言ったよね。ゲームをするのは得意でも、こわいのは苦手なんだよ。だから罰ゲームできみに、こうしてもらっているの」
後ろから抱きしめられている幼なじみが、コントローラを触りながら……ぼくの顔を見上げていた。
ぼくだったらテレビから目をはなした時点でゾンビのような生きものの餌食だろうが、幼なじみはあっさりと回避している。
ノールックプレイって言葉があるのかどうかは知らないが、そんな感じだった。
「そうだったな。ごめんごめん」
「本当にそう思っているの? それを理由にきみに後ろから抱きしめてもらおうと考えている、とか疑ってない?」
「どちらかと言うと……そんなことを思ってくれているほうがうれしいかな」
「ゲームはあんまり得意じゃないのに、口は上手いよね。きみは」
意外と本音だったりするんだけどね。生前の彼女のこととは関係なく、ぼくは幼なじみにほれちまっているんだろうか。
その思いみたいなものは、上手く伝わってないようで、幼なじみはゲームに集中をしてしまっている。
このステージの最深部に到着したようで、ボスと戦うことになったみたいだな。
先ほどまでのゾンビのような生きものよりも醜悪で不気味な赤黒い体つき。人差し指の辺りから伸びている爪のような刃を武器に、襲いかかってきていた。
ゲームの中でも雨が降っているせいか……幼なじみが操っている男性キャラクターが、動きにくそうに爪のような刃を避けている。
「雨が降っているせいなのか? このキャラクターが動きにくそうにしているのは?」
「そうだね。正確には、足もとがぬかるんでいるから動きにくそうにしているって感じ」
「ふーん……変なところにリアリティを追及していて、面倒な感じだな」
「そう? わたし的にはこんな感じのバッドステータスは説得力があるから好きかな」
「バッドステータス?」
それほど聞き慣れない言葉なので、思わずオウム返しのようなことをしていた。
「デバフのことだね」
「もっと分からなくなったな」
「そんなにむずかしいことでもないよ。そうだな。例えば、なんの理由もなく鉄の重りを背負って、その辺を走ってきて。って言われたらどう思う?」
「どう思うもなにも、やりたくないな。理由どころか、メリットもないんだろう? それって」
個人的にはそんなことを言ってきた時点で相手が男だったら殴っているかもしれない。
「きみらしい答えだね。じゃあ、鉄の重りを背負って、その辺を走ってきてくれたら願いごとを一つかなえてあげる。だったら?」
「どれくらいの願いごとをかなえてくれるのか。にもよるが、大抵のやつはその条件なら走るだろうな、多分」
かなえてくれる願いごとが……鉄の重りを背負って走る労力よりも大きければ、かね。
「で、きみはどんな願いごとをかなえたら、鉄の重りを背負って走ってくれるのかな?」
からかおうとしているようで、幼なじみが意地悪そうな笑みを浮かべている。
「話が逸れているような」
「答えられ」
お腹の辺りに通している両腕に力を入れ、幼なじみをさらに強く抱き寄せていく。動揺しているようで、先ほどまで軽やかに避けていた、刃のような爪を武器にしているボスの攻撃を受けてしまっている。
その攻撃を起点に、コンボのようなものが成立してしまったらしく、幼なじみが操っている男性キャラクターが連続で切り刻まれ、ゲームオーバーになってしまった。
「なかなかグロテスクだな」
ゲームオーバーになると、操っていた男性キャラクターの死体を見せられるのか。確かに女の子が一人でこれを見るのは、なかなかきつそうだ。
「それと、質問の答えだけど。今のぼくにはかなえたい願いごとがないから、鉄の重りを背負って走るつもりはないよ。だって」
「う」
「ぼくがほしかったものは今、腕の中で顔を赤くしているからさ」
自分で言っておいてなんだが。恥ずかしい台詞を口にしているな。まあ、今の幼なじみにはっきりと聞こえてなさそうだから、別に良いか。
「うう。こ、こら……やめ」
「いやなの? こんな風にされるのは」
服の中に両腕をつっこまれている幼なじみが小さく首を横に振っている。ぼくが指先を動かすたびに楽器のように声を上げていく。
「この前みたいに、がまんしなくて良いよ」
そう、耳もとでささやかれても恥ずかしいのに変わりはないんだろう、幼なじみは口を閉じている。彼女のそんな姿を見せられ興奮でもしているのか血がたぎっていた。
「好きだよ。ユウナ」
幼なじみの頬にキスをしつつ、ゆっくりと服をまくり上げていく。小さなへそに、腰のくびれ、黒いブラジャーに包まれている胸が見え……とめられてしまった。
「す、少しだけ待って」
ぼくと目を合わせないように、顔を逸らしつつ幼なじみが服の裾を下に軽く引っぱっている。
「いやとかね。きらい、じゃ」
服の中に両手を入れ、胸の辺りにある敏感なところを指先でつまむと。幼なじみが声を荒らげて、身体を小さく震わせていた。
「分かっているよ」
口では否定しているが身体のほうは求めているようで、指先でつまんでいる彼女の敏感なところがかたくなってきている。
「心配をしなくても。ユウナも楽しんでいることは、ぼくも分かっているから」
胸の辺りをマッサージしているおかげか、幼なじみが聞かされたいであろう甘い言葉をささやいているからかは分からないが、身を任せてきていた。
この前の教室の時とは違って、慣れてきたのか変に身体もかたくなってない。
そんなきんちょうをしている状態でやるのも、なかなか楽しいものなんだけどな。
「やっ」
いきなりフロントホックブラを外されて、驚いたらしく……夢見心地な表情をしていた幼なじみが胸の辺りを触っている。
「な、なんで外しかたを知っているの?」
「なんとなくできちゃった」
質問に適当に答えながら、こちらのほうに顔を向けている幼なじみの唇にキスをした。
先ほどよりも大きく揺れている胸を下からもち上げるようにもんでいく。敏感なところを指先で触っていると、幼なじみが唇をはなしてしまった。
「服。まくり上げても良いかな?」
ぼくの言葉を聞き、少ししてから幼なじみが小さく首を縦に振っている。
幼なじみの熱い身体がかたくならないように、切り刻みやすいように。甘い言葉を聞かせて、ていねいにマッサージを。
「きれいな身体」
幼なじみが着ている服を胸の上のほうまでまくり上げていく。彼女も、興奮をしているようで桃色の敏感なところが立っていた。
「今日は時間もあるみたいだし、この前よりもゆっくりするね」
そう言い、幼なじみの左耳にキスをする。マッサージの効果がでてきているのか、目を細めて眠たそうにもたれかかってきていた。
幼なじみの身体に触れつつ、なぜかベッドの上で自分のスカートをめくっている幽霊の彼女のほうに視線を向ける。
ぼくの目配せに気づいたようで水色の下着を身につけている幽霊の彼女が、小さく口を開けた。
「透明人間について、どう思う?」
善人の幼なじみでも、マッサージに夢中になっている時までは、さすがに反応できないようだな。
「今は答えられないか。子守唄みたいなものだと思って、聞きながしておいてよ」
幼なじみがなにかを言ったようで唇が少し動いている。はっきりと聞こえなかったが、肯定してくれているんだろう。
それに、否定していたところで意味のないことだけどな。
「はい」
幽霊の彼女が制服のポケットから、生前の彼女が愛用していたナイフを取りだし、ぼくに渡してくれた。
「ありがと」
左手で幼なじみの目を塞ぎ、右手でもっている大きめのナイフを……彼女のみぞおちにつき立てる。痛みを感じたのか、彼女が短く声を上げた。
みぞおちにつき立てているナイフの刃先を真っすぐ線を引くように、幼なじみの大切なところがある下腹部のほうへと。