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死んでいる彼女

 死んでしまったぼくの彼女は幽霊になってしまったようで、透明になっている。なんの前触れもなく目の前に現れたので、椅子から転げ落ちそうになった。

 生きていた時から色白な肌をしていたが。幽霊になっているからか……さらに白くて、以前より美人になっているような気がする。

「今は授業中だから、少し待ってて」

 机の上に顎をのせて、ぼくを見上げている彼女がまぶたを開閉していた。分かった、と言っているつもりなんだろう。

 それにしても授業中にいきなり現れるとはな。なにか、ぼくに言い残したことでもあったりするのかね。




 シロイロナギサ……それが死んでしまったぼくの彼女の名前。名は体を表すと言うのは本当のようで、色白な女の子だった。

 今は、色白な幽霊みたいだけどな。

「話すことはできないんだね」

 授業がおわり、男子トイレの個室に二人で一緒に入り、便座の上に座ると幽霊の彼女がぼくの太ももの上に腰かけていた。

 もう少し詳しく、幽霊の彼女のためにつけ加えるなら。太ももの上に座ってほしいな、ぼくがそう言うと……彼女は首を縦に振ってから腰かけてくれた。

 それにしても、触れるのか。生前の彼女と同じ感触なんだろう、その時と同じくらいにやわらかい手をしている。

「ごめんごめん。びっくりさせたね」

 太ももの上に座っている幽霊の彼女を抱きしめるように、お腹の辺りに両腕をまわすと身体を震わせた。

 生前と同じで、感情があんまり顔にでないようだが、慌てているのか幽霊の彼女が首を横に振っている。

 はなしてほしい、と伝えているつもりなんだと思う。このまま困っている姿を見てたいような気もするけど、相手は幽霊なので変なことが起こらないとも限らない。

 確か、ポルターガイストだったっけな?

 ぼくが後ろから抱きしめるのをやめると、ほとんど同時に幽霊の彼女も首を横に振るのをやめた。

 艶やかな黒髪が揺れるたびに、甘い匂いがしていたので残念な気分だが。幽霊の彼女にきらわれるよりはましか。

「ん」

 幽霊の彼女がぼくの右手を握りしめて……人差し指の先っぽに、キスをしている。唇もやわらかかったが死んでいるからか冷たい。

「きらってないよ」

 人差し指をしゃぶっている幽霊の彼女の頭を左手でなでつつ、そう言っておく。不思議なことに口の中は生きている時と同じようにあたたかい感じがする。

「そろそろ時間だね。また大人しくしてて」

 幽霊の彼女の口から人差し指をゆっくりと引き抜き、そのやわらかく冷たい唇にキスをした。驚いているようで目を大きく見開いている。

「なんだ。生前と同じで恥ずかしがり屋なんだね、少し安心したよ」

 唇がはなれると……幽霊の彼女にそっぽを向かれてしまった。キスの時と同じように、顔をこちらに向かせようかとも思ったが。

「このままサボタージュしようかな」

 ぼくの太ももの上に座っている幽霊の彼女を後ろから抱きしめて、頬ずりをした。赤くなっているのか熱が伝わっているような。

 また、幽霊の彼女が首を横に振っている。サディストではないんだが、反応が面白いので、しばらくそのままにしておくと。

「や……やめ」

 幽霊の彼女がしゃべった。まだ話すことに慣れてないからか、ぎこちないな。

「いや? こんな風に抱きしめられるの」

 幽霊の彼女の耳もとでささやくと首を縦に振った。うそをつくのは苦手なようで小さく笑い声を上げている。

「うそつきだな」

 やわらかい耳にキスをすると、幽霊の彼女は身体を震わせた。くすぐられたりするのも苦手らしい。

「ごめんなさい」

「別に怒ってないよ。けど、生きていた時と同じようにしないとね」

 幽霊の彼女の頭をなで、赤くなっている頬になん回かキスをしていく。唇のほうに移動するまで、そんなに時間はかからなかった。

「チャイムか。やっぱり、サボタージュするしかなさそうだな」

 口の中から引き抜き、ぼくは勝手に舌打ちをしていたようだ。死んでからも、それほど経験はなかったらしく、幽霊の彼女がもたれかかってきている。

「ここは狭すぎるね。移動しようか」

「うん」

 生きていた時とは違って、そんなに時間はかからなさそうだな。少し残念だけど。




 幽霊と言っても透明なだけで、基本的には生きている時と同じなのか。さすがに子どもをつくることはできなさそうだけど。

「透明なだけで存在はしているって感じか。ぼく以外には見られたり触られたりできないみたいだな。今のところは」

 ぼくと幽霊の彼女以外、この保健室に誰もいないことは分かっているのに、なんとなく辺りを見回してしまう。背徳感かな?

「楽しかった?」

 スラックスのベルトを締めつつ、ベッドの上で寝転んでいる幽霊の彼女に感想を聞いたが。生きていた時と同じように、しばらくは夢見心地なようで反応がない。

 ベッドの近くにおいてある、パイプ椅子に座って……寝転んでいる幽霊の彼女の黒髪に触れた。死んでいるとは思えないくらいに、目が開いた。

 起き上がった幽霊の彼女が、顔を真っ赤にしている。透明なだけで超能力はないらしく生きている人間と同じように、慌てて制服を身につけていた。

「ぼく以外には見えないんだから、そのままでも良いのに」

 そもそも幽霊だし、恥ずかしいって感情もなさそうに思うんだけどな。

 そんなぼくの偏った考えかたが幽霊の彼女のなにかに触れてしまったようで、頬をふくらませている。

「幽霊も恥ずかしいよな。ごめんね」

 棒読みにもほどがあるだろう、と言いたくなるくらいの謝罪だと思ったんだが。幽霊の彼女はそれでも良かったようでふくらませていた頬が戻っていった。

 制服を着ると、ベッドの上でしていたことでも思いだしたのか、ぼくから顔を逸らしている。けど……はなれようとはしないな。

 と言うより、はなれられないのか?

 ベッドの上に座っている幽霊の彼女から、ゆっくりとはなれて、引き戸のほうへ歩いていく。

 幽霊の彼女が座っているベッドから大体、二メートルくらいのところまで移動すると。

「わ」

 幽霊の彼女が小さく声を上げつつ、ベッドから立ち上がった。自ら動いた感じではなさそうだな。

 予想をしていた通り一定の間隔。ぼくから半径二メートルくらいまでしか幽霊の彼女は自由に動けない。

 いや。逆に、ぼくが幽霊の彼女に取りつかれているって感じなのかもしれない。そんな細かいことはさておき。

「腹、空いていたりする?」

 透明だが……確かに存在しているんだからエネルギーは必要なはず。基本的には生きている人間と同じっぽいしな。

 幽霊として日が浅いせいか、幽霊の彼女が首を傾げている。両手で腹の辺りを触って、小さく首を縦に振っていた。

 腹は空いているが、それほどじゃないってところか。

「ベッドの上で遊んだからかな」

 形はどうあれ、ベッドの上で遊んだ時に。幽霊の彼女がぼくのエネルギーのようなものを食べた、そう考えれば腹が空いてないのも納得できそうだが。

「違う」

 なぜか顔を赤くしている幽霊の彼女に否定されてしまった。本人が違うと言っているんだから、そうなんだろうが。

「楽しくなかった?」

 個人的には楽しかったから、幽霊の彼女がどちらであろうと別に良いのだけど、できるだけ関係は良好にしておくべきだからな。

 笑みを浮かべ、近づいていくと……後退りしている幽霊の彼女がベッドの上に座った。

 ぼくの質問に答えているつもりなのか首を横に振っている。うそつきな幽霊の彼女の頭を軽くなでつつ、唇にキスをした。

「好きだよ」

 そう聞かせると幽霊の彼女が両手で、ぼくの頬に触れながらキスし。唇をなぞるようになめてくれている。

「にへへ」

 なんにしても気分は悪くないようだ。これくらいの演技で良いなら、こちらも楽だな。

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