#2:海へ行こう
「晴登、海に行こう。夏と言えば海だよ」
夏休みも残り一週間となったある日、相変わらずだらだらと部屋で過ごす僕に楓が元気な声でそう提案してきた。
夏と言えば海。その言葉にはとても納得できるが話があまりにも急すぎる。
「突然どうしたの?昨日までそんな素振り見せてなかったじゃないか」
「だって今行きたいって思ったもの。しょうがないでしょ」
「なるほどね、納得。で、肝心の海に行くかどうかだけど僕はパス」
「どうして?夏と言えば海だよ。つまり海に行かなくちゃ」
どういう思考回路で考えればそういう結果になるのだろうか?
「1人で行ってきたら?海は1人でも行けるんだし」
「駄目よ。1人で行ってもつまらないもの」
「じゃあ他の人を誘えばいいじゃないか」
「私は晴登と行きたいの」
よくもまぁ、そんな恥ずかしい台詞を堂々と。いくら付き合いの長い幼馴染とはいえ顔が少し赤くなってしまう。志田 楓ファンクラブの人たちが言われたら卒倒してしまうかもしれない。
「卒倒って何?」
「また人の心を。まぁ、それは置いといて海には行かないからね」
「・・・・晴登・・・は、私と・・・遊びたく・・ないの・・?」
うっ。
とうとう出ちゃったか。楓の必殺技ともいえる泣き落とし。おそらくいつも通り嘘泣きではあると思うけど僕はこれに極端に弱い。
男は女の涙に弱いものなんだよ。
そんな事を格好つけながら言っていた友人を思い出してみる。
「分かったよ。海に行くから泣くのは止めてくれ」
「・・・本当?」
「うん、本当。海でも山でも川でもどこにでも連れて行ってくれ」
「山と川には行かないよ。それとも晴登行きたいの?」
「今のは忘れてくれ。それより、行くならさっさと準備して行こうよ」
「うん。善は急げってやつだね」
これが善なのかは疑問だが、そう言う事にして頷いておく。
「じゃあ私、準備してくる」
楓はそう言い残すと凄いスピードで僕の部屋を出て行った。うん、それはもうとてつもないスピードで。しかし、すぐに部屋の入口の方に戻って来てこう言った。
「ありがとね晴登。大好きだよ」
またそんな恥ずかしい台詞を堂々と。
そう思わずにはいられない僕だった。
どうも、月飼いです。
1000字以内だと書くのが楽ですね。
短くまとめる難しさはありますが。
これからもよろしくお願いします。