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川下り

白秋祭~初参加、船頭の奮戦記~

作者: 山本大介

 晩秋のおまつり。

 今年の白秋祭は中止となった。

 コロナウィルスの昨今、当然のことではあるが寂しい(多少、嬉しくもある)。

 途中まで、書き綴っていた初参加した去年二日目の様子を加筆して書きあげた。



柳川市あげてのイベント「白秋祭」が11月1、2、3日で行われた。北原白秋先生の命日2日をはさんで3日間、柳川名物川下りのコースを船でナイトパレードするというもの。コース上にステージが設けられ柳川市民が合唱や合奏を行う。太鼓や大正琴の演奏。柳川の奇祭、「おにぎえ」や「どろつくどん」の公演等が行われる。最後に「かんぽの宿」足湯と呼ばれる場所で花火が打ち上げられる。


 新人船頭の私は、ありがたいことに初日は見で2、3日の操船を任された。夜船はやったことないし、およそ70隻以上の舟が一同に介する状態は想像に絶する。YouTubeで映像を見て雰囲気を感じようとしたが、見れば見たで不安がつのるだけだった。今までやってきたことをしっかりとやろう、いろいろ考えたけど結論はこうだった。


 ついに初日を迎えた。初日は日中の仕事であがりなので、少しは気が楽だ。通常の営業は普段より早い2時10分の川下りでしまいとなり、そこからは「白秋祭」の準備となる。

舟に紅白の簡易的な手すりをつけ、そこに提灯を飾る中にはLEDの電球、船頭が立つデッキの下にはバッテリー。舟板にカーペットを敷き、テーブルを置く。前のデッキには予約されている会社の名前や個人名等のついた行灯。周りを照らすランタンや白秋祭のパンフ、ごみ袋、ぞうきん等の小物類14隻分をきっちり用意する。

17時を回ると予約のお客様がぼちぼちと集まってくる。各々がお酒や飲み物、お弁当、食材、またはお鍋などを持ち寄り、舟へと積み込んでいく。各舟の担当船頭は本日のお客様に挨拶し、荷物を運ぶのを手伝う。

すっかり日も暮れ、薄暗くなった半頃、乗船場から舟がゆっくり二ツ川のステージへと向かっていく。今日、参加しない船頭は店じまい、片付けトイレ清掃等を済ませる。

仕事があがると私は、川ステージの近くまで歩いていく。自分の目で見たかった。歩道のガードレールから眺めると、それは壮観だった。係留された舟がずらりと並び、ステージ上では白秋の歌がうたわれている。私は会社の船頭のところに行き、目配せで合図をおくる。ビリビリ感じる船頭達の緊張感、お客さん達の高揚感、えもいわれぬ空気が漂っている。開会式が終わりやがて、ゆっくりと舟は進み続々水門へと消えていく。私はみんなの舟を見送った後、帰宅した。


二日目。土曜とあって日中からお客さんが多く、川下りは大賑わい。今日は初の白秋祭でのデビューとなる。緊張もあるが、とにかく日中も忙しく、バタバタしながらその時間を迎えた。会社が用意してくれた弁当を食べ、自分の受け持つ舟へ。

 夕暮れなずむ乗船場で舟が整然と並び、出発の時を待つ。

 私は落ち着かずソワソワしながら、準備をする。

 やがて、乗船場は白秋祭に参加するお客様がチラホラ訪れ、船内にご馳走や飲み物を運んでくる。

 私が操船する舟のお客様も見えられ、荷物運びのお手伝いをする。

 出発10分前、船内のバッテリーを接続し、提灯が灯る。

 先頭のデッキには行灯が光る。

 すべてのお客様も舟に乗り込み、出発を心待ちにし、ざわつきはじめる。

 

前方の舟会社の舟が会場へと向かい始める。

いよいよ出発だ。

順番に従い、私は前の舟に続く。

いつもの川下りとは違い、この日ほとんどガイドはしない。

ただ一つ安全運航を心がけるだけだ。

二つ川の城堀水門前に設けられたステージに、およそ70隻の舟が岸に係留し並ぶ。

まさに壮観。


開会式がはじまると、空は暗闇に包まれた。

白秋先生の歌が生歌で合唱される。

開会式が終わり、先頭の一番舟が城堀水門をくぐる。

粛々と後続の舟が続く。

水門橋の上には人だかり。

私の番、慌てず、ゆっくりといつも通りに落ち着いて、

竿を慎重に使い、水門をくぐる。


周りはかなり暗い。

多少、不安になるが、前も後ろもうちの会社の灯り舟・・・心強い。

橋下は慎重に、橋上からの声援に、時には手を振り、ゆっくりと舟の間のペースをしっかりとる。

お客様は上機嫌だ。


舟のスピードは普段より格段に遅い。

かなり早い段階から、お酒や飲み物を飲まれているお客様は、もよおされる。

最初のトイレがある柳川市立図書館でのトイレタイムを希望される。

私に緊張が走る。

この場所は狭く、トイレタイムの激戦区。

桟橋には舟がごったがえし阿鼻叫喚となっている。

強引に割り込まないと次に抜かれる。

私は必死に係留し、お客様を降ろす。

係留したロープは絶対に離さない。

ごつん、ごつん舟同士があたる音が、辺りに響く。

お客様が乗り込まれると、即座に離れる。


川下りの岸には柳川市民のみなさんが、各ステージを設け、歌をうたったり、楽器の演奏をしたり、祭りの出し物をしてくれる。

そこを舟は、ゆっくりと進む。

乗っているお客様は目を輝かせる。

もちろん、私も。


二度目のトイレタイム、かなり時間が推している。

御花でのトイレタイムが終わると、あと少し。

心ははやりつつも冷静に足湯へ。

間に合った。

舟同士の狭い係留スペースになんとか、舟を停める。


やがて、夜空に花火があがった。

晩秋の夜空に美しい大輪の花。

名残おしや白秋祭の声に、私は明日もあるんだと溜息をつく。


お客様に無事、下船していただき、舟かえりの道中、ほっと胸をなでおろす。

肌寒い夜風に今、気がついた。



 心に残るおまつりです。

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