8・警報発令
「お疲れ様です少佐、ご無事でなによりです」
基地に帰って早々、俺はギリースーツを着たスカッドのヤツにちょっかいを掛けられた。
「やめろやめろうっとうしい! 男同士だろうがくっつくな」
「このスカッド・ガルドニクス、少佐殿を思って7.62ミリ弾を敵の心臓に届けて参りました。ぜひお褒めの言葉を」
「わかったわかった、よくやったよ」
スカッドを押し退ける。
隣にいたエミリアが、心底軽蔑する目で見ていた。
「スカッド〜......お前ほんまキモいな」
「ほぉ......、中尉である君が大尉である俺にそんなこと言っていいの? 滑走路50周くらいしとく?」
「実際キモいし、言っとくけど少佐はわたしのものだから気安く近寄らないで」
「言ったな、表出ろクソアマ」
火花を散らす2人の間へ、俺は慌てて割り込む。
「俺はお前らの上司なだけだ、ほらサッサと武器をしまって報告に行くぞ」
バチバチと犬猿の仲な2人を連れて、俺は武器庫に向かった。
「結局、連中なんだったんすかね」
「さぁな......、あんな大軍団が闊歩しているあたり国の治安は良くないだろう」
「政情不安......ですか、とにかく情報が少ないですね」
「あぁ、とりあえず生け捕りにした盗賊から色々聞かせてもらおう。スカウトの調査結果と照らし合わせる」
『Mk18mod1』を始めとして、今回使った銃を武器庫へ収める。
とりあえず分解清掃は後回しだ。
「入ります、准将!」
「入れ」
再びの基地司令室。
俺は怪訝な表情をする上司へ正対した。
「盗賊連中は壊滅させました、これで当分この基地を脅かす存在は現れないでしょう」
「よくやってくれた、航空偵察でも状況は確認している。残党は北の都市に敗走中らしい」
この基地より真っ直ぐ北へ行けば、そこそこ大きな街がある。
風光明媚な温泉街らしく、かなり栄えているようだった。
「しかし不思議なもんですね、異世界に来たというのにこの基地だけ電力供給が途絶えていないんですから」
「電力だけではない、ガスや水道もまだ繋がっている。工兵らからすれば頭に疑問符しか浮かばんらしい」
「いずれにせよ、余裕のある内に食料の安定供給を目指さねばなりません」
現状俺たちは非常食で食いつないでいるが、圧倒的に生鮮食品が足りていない。
ビタミンを始めとする各栄養素に、偏りが出過ぎている。
「今後はどういたしますか?」
「情報はいずれ敵方にも伝わるだろう、それまでにできるだけ動いておきたい」
「っと言いますと?」
「一段落したら、北の温泉都市へ行ってもらう。君たち第1中隊基幹要員にな」
「了解であります」
准将の顔色が悪い。
どうもストレスで胃をやってしまったようだ、後で部下越しにでも秘蔵の胃薬を差し上げよう。
「では、これにて失礼――――――」
俺が敬礼しようとすると、基地の防空警報が一斉に鳴った。
掛かってきた施設内電話を、准将がすぐさま取る。
「なに、未確認飛行物体が3機だと? わかった、防空戦闘用意!」
一呼吸すら置かずに、ベルナール准将は俺の目を見た。
「戦闘機サイズの飛行物体が3機......この基地へ向かっている、盗賊連中の反撃かもしれん」
「目標の速度は?」
「250キロだ、安心しろ――――迎撃は十分間に合う。君はもう部屋を出て構わん」
「はい、失礼します」
耳をつんざく警報を聞きながら、俺は部屋を退室する。
「反撃にしては速すぎる......、数も揃っていない。......どうも臭うな」
こういう時、特殊部隊にいる人間はえてして勘が働く。
幽霊だとかそういう非科学的なものを察知する感覚も、俺の部隊では結構大事にしているからだ。
「面白いことになりそうだ」
俺は駆け足で滑走路へと向かった。