5・奇襲攻撃
空軍の攻撃によって、数千にも及ぶ大軍はたちまち焼き払われた。
「まさか、本当に中世のような密集戦術で押し寄せてくるとはね」
車両にて移動中......、俺は思わず口開いた。
現代戦の基本は、グレネードや迫撃砲ですぐにやられないようにする散兵戦術が基本だ。
まぁ、脅威がおそらく魔法や弓矢しかないこの世界では有効だったのだろう。
ご愁傷様、俺は通信を繋いだ。
「アーチャー01より小隊各位、ベルナール中将によると、敵は空爆によって潰走している。少数が森に逃げ込んだために我々の出番となった」
「少佐ー、空軍が掃討とかしてくれないんですかー?」
後部座席に乗っていたエミリアが、愛銃のアサルトライフル(SCAR−L)を抱えながらつぶやいた。
「気持ちはわかるよエミリア、だがまだアルナクリスタルが集まっていないから、中将は航空機の燃料や弾をケチっておられる。なーに心配ない、諸君ら戦闘狂なら喜々として盗賊共を蹴散らしてくれると確信している」
「さっすが少佐わかってる! 大好きですよそういうとこ!」
「はいはいわかったわかった。――――でスカッド、どうだ?」
俺は別行動をさせていた仲間に通信で聞く。
『はい少佐、80人ほどの盗賊が森へ逃げ込んできました。いつでも撃てますがやりますか?』
「お前の出番はもっと後だスカッド、女子供を虐げるクソ野郎には徹底して恐怖を味わわせなければならん。上からはそういうオーダーだ」
『了解』
通信を終えた俺は、助手席から後ろを向いた。
この車両はハンヴィーと呼ばれるもので、車体中央から顔を出すための穴があり、そこに部下がいた。
彼が操作するのは、車体上部に据え付けられた兵器。
「『ミニガン』の調子はどうだ?」
「バッチリですよ少佐、後続車両のM2重機関銃も動作確認済みです」
「うーわこっわ、それ人に撃つもんちゃう気がするわ......MMORPGのレアドロップでもそんなエグい武器あらへんで」
関西弁のエミリアが、建前にすらなってない言葉を言ったので一応答えておく。
「銃の種類に人道的もクソもない気がするんだがね......、まっ、確かにぶっ壊れ武器だな」
「そういえばこの世界って、銃で倒しても経験値手に入るんですかね?」
「入るよ、っというか剣で倒して入るのに銃でダメならとんだガバだ」
4台のハンヴィーが、大木だらけの森へ侵入した。
◆
「ハァッ! ハァッ! なんで......!! なんでこんなことに!」
大噴火のような爆発の連鎖、理不尽極まる一方的な攻撃から盗賊団長プラーガは逃げていた。
周囲には、同じく体のどこかしこに傷をつけた盗賊の仲間たちが走っている。
「おい! 話が違うぞプラーガっ!! なにが魔法ダメージカットのアイテムだ! 全く役に立たなかったじゃねえか!!」
部下の1人が声を荒らげる。
「黙れっ!! 連中はなにか特別な魔法を使ったんだ! そうでなくちゃ考えられん! 騎士団すら壊滅させられる俺の軍団が......こんなところで負けるわけがないんだ!」
「現に壊滅したじゃねーか! オーガもゴブリンも歯が立たずにな」
圧倒的な力に打ちのめされた盗賊団は、仲間割れをしてしまう。
あんなわけもわからない連中にやられてしまい、怒りの矛先を身内に向けてしまっていた。
「落ち着けよ2人共! まだ俺たちには手札が残ってるじゃねえか」
「「ッ!?」」
見れば、木にもたれかかりながら葉巻を吸い、帽子をかぶった男。
背中にはエンチャントされた高ランクアイテム、『魔女狩りの大弓』があった。
彼は、今回の作戦で【黒の英雄】を殺すためにプラーガが雇った超一流の傭兵。
「"魔導士狩りのオルンゲ"! 闇ギルド所属の第2級危険冒険者、これまでに40人以上の魔導士を殺したという伝説の......!!」
盗賊一味がザワつく。
彼は王国や近隣諸国で名の通った殺し屋で、闇の世界で知らぬ者はいない人物だった。
まさしくこの場で最も頼りになる人間。
「プラーガさんよ、まぁそう取り乱すな。まだ負けたわけじゃねえぜ」
「オルンゲ、なにか策でもあるのか......?」
「策ってほどでもねぇが、この森......俺たちにとっちゃ好都合だと思わねえかい?」
自信満々のオルンゲに、プラーガは続きを促した。
「白の英雄の得意攻撃は、平地での大規模魔法だ。なら俺たちはこの視界の効かない森林に潜めばいい」
「なるほど、追いかけてきた敵を待ち伏せし、近接戦に持ち込もうというのだな」
「そうだ、上手く行けば連中を返り討ちにできるだろう」
「さすがだな、よし! さっそく警戒線を敷くぞ!」
指揮を開始するプラーガ。
湿った土に葉巻を落としたオルンゲは、それを踏みつけながら弓を持つ。
「さて、楽しませてもらおうか.......白のえいゆ――――――」
――――ブウゥゥウウウウウゥゥウウウウウン――――!!!!
一瞬だった。
警戒線を敷きに前へ出た盗賊メンバーが肉塊......いや、わけもわからない音と共に血の霧になったのだ。
「なっ......!?」
常識はずれの光景に、オルンゲは新しく咥えた葉巻をポロリと落とした。
なにが......起きた?
直後に響く、騒がしい音。
オルンゲは本能から叫んでいた。
「全員!! 木の裏に隠れろぉ――――――――ッ!!!」