4・消し飛ぶ盗賊軍団
「遅い! オーク隊はまだこんのか!!」
快晴の下、盗賊軍団の長であるプラーガは一向にやってこない部下に対してめちゃくちゃキレていた。
「プラーガ様、ゴブリンとオーガ群は既に到着しております。敵――――【白の英雄】を倒すには十分でしょう」
「うむ、そういえばヤツらの戦力は判明しているのか?」
「詳しくは不明です、おそらく強力な魔導士がいるのでしょう。ですがご安心ください」
プラーガの部下は、平野に大量に集まったゴブリン群を見渡した。
「これだけの魔物と盗賊職の者がいれば簡単に捻り潰せるでしょう、それに先日盗んだアイテムによって我々は魔法ダメージが無効化されます」
「ふむ、連中の中には女や子供もいるか? 前襲った村はガキが大勢いて堪能したのだが......」
このプラーガという男は、この少し前に襲った村で蛮行の限りを尽くしていた男である。
成人男性は斧で頭を割り、人妻や少女に残虐な性的暴行を加えていた。
この地方では有名なクソ野郎で通っている。
本来なら取り締まられるべき者なのだが、この男には特別なスキルが備わっていた。
「俺のスキル『絶対服従』があれば、どんな凶暴なモンスターだって使役できる。【白の英雄】だか呼ばれて調子に乗ってる田舎者なんて、簡単に捻り潰せるぜ」
ニヤリと笑うプラーガ。
だが、彼は遅れているオーク隊にしびれを切らしたので決断をした。
「これよりあの丘に陣取る【白の英雄】を討伐する! 全軍続けェっ!!!」
オーガ隊を先頭に、盗賊と魔物の大軍団が進撃する。
その光景は圧巻で、小国の騎士団なら半日で壊滅させられるだろう。
「これだけの戦力だ......、英雄気取りの田舎者共を蹴散らすには十分過ぎるな」
「プラーガ様、殺すのは大人だけですか?」
部下に聞かれたプラーガは、ニチャリと笑った。
「できる限りそうしろ、男はともかく女子供は便利な使い捨ての消耗品だ。部下たちはもちろん......俺もたっぷり発散させてもらう」
無敵のスキル『絶対服従』を持つプラーガは、いずれ国を制圧しようとも考えていた。
【白の英雄】と畏敬の念で呼ばれる存在をこの手で葬れば、この地域の覇権は確実に握れる。
いつか王になることも夢ではないのだ。
そう――――――
「ッ!? なにか音が聞こえます!」
「魔法攻撃だな、慌てるな! 我々には魔法無効のアイテムがある!!」
今回は相手が悪かったのだ。
「ぎゃあぁッ!!?」
「ぐああ!!」
アイテムの信頼を貫いて、いくつもの爆発が盗賊軍団を襲った。
さらに――――――
「なんの攻撃魔法だ!!」
「わかりません!! 頭上から次々と何かが降ってきて――――――」
爆風と破片で、側近が吹き飛ばされる。
まるで火山の噴火を彷彿とさせるような攻撃に、プラーガはパニックになりかけた。
「くっ! 怯むな! 所詮は田舎者共の魔法だ! オーガ隊前へッ!!」
特別な術式か!? だがオーガを前衛に置けば必ず防げるだろう。
オーガたちの持つ盾は、ダンジョン周回報酬の高ランクアイテムだ。その性能は魔法ダメージ7割カット。
しかし......。
「なッ!?」
次の瞬間、盾を持ったオーガの上半身が消し飛んだ。
信じられないと同時にある予想がよぎる。
「まさか......、魔法ダメージをカットしてもあの威力だというのか!?」
プラーガが、倒れるオーガを見ながら汗を垂らしていた頃――――
「こちら火力誘導班! LJDAM(レーザー誘導爆弾)およびヘルファイア全弾命中!」
こちらの世界へ転移し2週間、いきなり盗賊軍団に襲われることとなった転移国家軍は、全力で応戦していた。
「HQよりサンダーボルト、戦況報告せよ!」
「オーガと思われし怪異を30ミリ機関砲で撃破! 航空攻撃は有効と認む!」
「了解、攻撃を続行せよ!」
現代兵器を有する【白の英雄】にとって、突撃しか脳のない盗賊など相手になるわけがない。
戦力は航空機によって筒抜けとなり、あらかじめキルゾーンに設定していた場所へミサイルや爆弾を空から撃ち込んだのだ。
「まさか平野部を突っ込んでくるとは、お相手さんは相当肝が据わっているか......情報収集を怠ったマヌケと呼ぶべきか」
特殊作戦軍の中隊長たるイグニスは、倉庫から取り出した愛銃のアサルトライフルへ、弾を装填しながらつぶやく。
「さて諸君、マヌケな盗賊共を現代の厨武器で叩き潰してやろう!」