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18・テロリスト

 

「スカッド、テロリストとはなんだ?」


 街を覆う賑わいをかき分けながら、俺はマークスマンのスカッドにふと質問を投げかけた。


「テロリスト......? それは定義とかですか?」

「広義の意味でもなんでもいい、あくまで暇つぶしの雑談だよ」

「ハルバード少佐の雑談が、雑談だった試しはないですが......じゃあ主観で――――」


 ガンケースを背負い直しながら、スカッドは口開く。


「"テロリスト"、この言葉自体そもそも定義が曖昧すぎます。たとえそれが植民地解放のための戦士でも、外国人の集まる店を爆破すればそれは統治国にとってテロリストと同義でしょう」

「ふむふむ」


 腕を組み、部下の言葉に耳を傾ける。

 非常に建設的で、教養に溢れたそれらは聴き心地がいい。


「じゃあスカッド、お前ならどうやってテロリスト予備軍を見つけ出す?」

「そうですね......例えば」


 古城を用いて造られた市役所の前で、俺たちは立ち止まる。


「"旗"でも掲げてみればどうでしょう?」

「旗とな?」

「えぇ、どうせならデッカく掲げましょう。国家に対して転覆を目論むヤツらなら国旗はアレルギーの元です。だから少佐はこの市役所を見にきたんでしょう?」


 古城の上には、この国の国旗とおぼしき旗が大きく翻っていた。

 俺はかなりいい線の部下を思わず褒める。


「テロリストは根っからの合理主義者だ、暴力すら手段と割り切れるほどの......な」


 そんな会話をしていると、俺の白い軍服の上へ手がポンと置かれた。

 振り返ると、そこには40代前半くらいの女性が立っていた。


 腰の拳銃へ手をのばすスカッドを制しながら、俺は社交辞令的な笑顔を送った。


「どうしましたかマダム?」

「あなた......、今なにかで悩んでいませんか?」

「お前の汚い手で少佐を触られたことが悩――――!」


 狂犬スカッドを後ろに下げ、俺は笑顔を崩さずに続けた。


「悩みがないと言えば嘘になりますね」

「やっぱり! そんなあなたにこそ相応しい活動があるんですよ!」


 女性の背後では、活動家と思われる若い男たちが精力的にビラを配っている。

 旗や手書きの看板には耳障りのよい言葉がズラリ......。


『あなたの善意が力になる! 慈善の和を世界に広げよう!』


『権威に縛られない生き方をしよう! 君の力は無限大だ!』


『人民の未来は人民にしか開けない! 利益は平等に分配されるべきなのだ!』


 おばさんがニッコリと笑う。


「わたしたち"グローリア"と一緒に、子どもたちの未来について考えませんか? あなたがたは外国人のようですが、我々は残忍なレイシストではありません、国内外の全ての差別に共に対抗しましょう」


 差別主義への敵対を建前にした狡猾な勧誘......、なるほど。グローリアはこのようにして大衆へ取り入っているわけか。

 既に署名している若い魔導士たちも大勢っと......。


「なるほど、重々惜しいですがあいにく我々は雑用に追われておりまして。"可及的速やかに最大限"はやく戻りますので、どうかお待ちくださいマダム」

「はい、お待ちしておりますよ」


 そそくさと立ち去ると、スカッドがチラリと振り向く。


「めっちゃあからさまですね......、"人民"とか書いてありましたよ。サラッと」

赤軍テロリストどもが慈善団体を装うのは異世界でも同じのようだな、まことにムードブレイカー極まりない」

「戻るんですか?」

「はっ!」


 一気に歩く速度を早めた。


「冗談じゃない、俺はまわり道してコロシアムへ戻る」

「健気な女性へ、白の紳士が嘘をつくんですか?」

「茶化すなスカッド、"可及的速やかに最大限"などという官僚答弁をお前が知らんはずないだろ」

「まぁそうですね――――――では後ほど」


 市役所の裏手へ向かうスカッドを、俺は見送った。


【可及的速やかに最大限】

もし官僚がこの言葉を述べたときは、まずその内容が履行されることはないと考えてよい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] やってることはただの傭兵だな
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