15・戦争の準備をしよう
――――基地内 ブリーフィングルーム。
「温泉都市ですか、風情があって俺は好きですよ。個人的には観光目当てで行きたいくらいです」
フィオーレを休憩室に連れていった後、俺たちは特殊作戦軍の使う作戦会議室に3人で来た。
目的は概要の確認。
「そんな観光地を戦場に選ばねばならんのが、我々の宿命だよスカッド」
「まぁ確かにそうなんですが......、少佐はプランとかある感じです?」
「情報が少なすぎるからなぁ......、航空写真である程度の地理はわかるんだがね」
テーブルの上に、数枚のカラー写真を置いた。
街は水源が豊富で、あちこちに湧いていることが確認できる。
「おぉー、いかにも温泉って感じでいいやん!」
「そういえばエミリアは日の本に住んでたことがあったな、そこと比較してどうだい?」
「ウ~ン......、どちらかっていうと有馬温泉と西洋の街を足して2で割った感じですかね」
日の本のハーフであるエミリアが、感慨深そうに語る。
「そうなると観光客も多いでしょうね、万一掃討作戦をやるとして攻撃オプションはどうします?」
「俺たちに犠牲者を出さないのが絶対条件だ、基本は特殊作戦軍でやるが状況に応じて兵器も用意する。スカッド」
「はい」
彼に一声掛けると、すぐさまメモが取り出された。
「現在集まったアルナクリスタルは5500個、可処分個数は3800個です」
「十分だ、それだけあれば戦争ができるというものだ」
先の盗賊襲来により、不足気味だったクリスタル回収は大いに進んだ。
防衛戦で使った分を加味しても収支はプラスである。
「『クラフト』!」
手で空中をなぞるとウィンドウが出てきた。
もはや慣れた手付きで、ゲーム画面を動かすがごとく操作する。
「盗賊の残党は【アルストロメリア】へ撤退した、っとなればそこにあるであろうアジトを潰す必要がある。エミリア」
「はい!」
メニューをタッチし、俺は手に野球ボールサイズの球体をクラフトした。
「この戦争は我々のデモンストレーションとなるだろう、巻き添えを出すことなく連中を吹っ飛ばしてやれ」
俺は手に錬成した"破砕手榴弾"をエミリアへ手渡した。
「了解です、少佐」
大方を話し終えたころ、突如部屋内の固定電話が鳴り響いた。
ゆっくりと受話器を手に取る。
相変わらず電話は苦手だが、ゆっくりと息を吸う。
「イグニス・ハルバード少佐だ、......ふむ」
通話相手は部下の1人だった。
彼は淡々と事務的に、報告作業を行ってくれる。
思わぬ吉報に笑みをこぼしながら、俺は受話器を置いた。
「どうしましたか?」
「スカッド、エミリア。さっき撃滅した盗賊軍団から遺留品を漁りにいくぞ。捕えたヤツが面白いアイテムについて喋ったそうだ」
◆
「うへぇー凄い死臭......、こんなん女子に歩かせるところやないってー」
空爆跡地に着いた俺たちは、まだ事後処理中の戦場に来ていた。
周囲にはエミリアの言ったとおり死臭が立ち込めており、漠然とした空気に包まれている。
「つまんない建前並べて女子アピールしてんなよ、脳筋女ゴリラ」
「ほんまアンタのそういうとこ嫌いやわスカッド、せっかく少佐に媚びろうとしたのに」
和気あいあいとし?た雰囲気で、焼けこげた地面を手袋越しに漁る。
「おっ、これかな?」
俺はご遺体の1つから、ルビーのような結晶を拾った。
もちろん襲ってきた盗賊だろうが死者には敬意を払わねばならない、心の中でお断りをいれる。
持ってみると結晶には紐が通してあり、首から掛けられそうだ。
「それが例の?」
歩み寄ってきた2人に、俺は答える。
「あぁ、これこそ件の"魔法攻撃完全無効化アイテム"――――『オーバーロード』だ」
盗賊軍団はこれをつけて俺たちを襲ったということだ。
「最も、LJDAMやAGM(対地ミサイル)までは防げなかったようだがな......」
空にかざし、太陽を透かした『オーバーロード』は紅く輝いていた。
さて......戦争の準備をしよう。